十三日目 精神掌握
「くそっ……ああ、イラつく……!」
クスザ王国の城内にある闘技場。そこには傷だらけで倒れる数名の騎士とその中心でイライラした様子を見せながら手に剣を持つ茶髪の少年がおり、少年は足元で倒れている騎士を睨むと、忌々しそうに強く蹴りあげた。
「あぐっ……!」
「……なにまだ倒れてんだよ。早く立ち上がって俺の相手をしろよ、この役立たず!」
「ま、待ってくれ……まだ体が満足に動かないんだ……」
「そ、そうだ……もう少しだけ休憩を──」
「なに寝ぼけた事を言ってるんだよ……お前らが使えないから、クラスの使えない奴らや兵士の大半がいなくなって、あの姫までどこかに消えたんだろうが。他の国に負けたくないから、俺達を転移させてきて、その力をありがたく借りてるんだろ。だったら、さっさと立ち上がって俺の相手をしろよ。お前達にはその程度しか価値がないんだからよ!」
「な、なんという言いぐさだ……」
「くそ……力さえなかったらこんな奴に好き勝手にはさせないのに……」
騎士達が悔しそうに言うと、少年は更に苛立った様子でもう片方の手のひらを騎士達に向けた。すると、騎士達の周囲の地面が強い力で抉れだし、騎士達の鎧にも強い力がかかっている事でミシミシという音を立て始める。
「ぐっ……!?」
「あ、あぁっ……!」
「……黙れよ。お前達がどれだけ訓練してても、俺のこの重力を操る能力には勝てないんだから、おとなしく俺の言う事を聞いてろ。嫌ならこのまま押し潰して殺すけどな」
「や、止め……」
「いや、止めない。よく考えたらだいぶムカつく言い方されたし、見せしめとして殺せば少しは他の騎士や兵士達もやる気出すだろ」
「そ、そんな……」
「さあ、さっさと死にやが──」
その時、そこに現れた人物がいた。
「あらあら、ずいぶん荒れてるわね」
「ああ?」
少年が視線を向けた先には、強佳と真言の姿があり、少年は強佳の姿に一瞬驚いたものの、後ろにいる真言を見るとイヤらしい笑みを浮かべながら舌舐りをした。
「へえ……どこかでの垂れ死んだと思ってたら、結構良さそうな女連れて帰ってきたじゃないか。ソイツを差し出すから助けてくれとでも言うつもりか?」
「……そんな事言うわけ無いでしょ。アンタ達みたいなろくでなしの仲間になるくらいなら死んだ方がマシよ」
「そうですね。見た目も中身も大したことは無さそうですし、さっさと終わらせて帰りましょう」
「……お前ら、俺を馬鹿にしてるのか?」
「それもわからないわけ? まあ、頭の中が常にろくでもないような奴じゃそんなもんよね」
強佳の言葉に真言が馬鹿にしたような笑みを少年に向けながらクスクスと笑うと、少年は怒りを隠しきれない様子で近くにいた騎士を強く蹴り飛ばしてから二人へ向けて歩き始めた。
「……そんなに死にたいならお望み通りに殺してやるよ。もっとも、死ぬ前に他の奴と一緒に飽きるまで楽しませてもらうけどなぁ!」
「この程度で怒るなんて怒りの沸点が低すぎるわね。真言、先にあの騎士達を捕らえておいて」
「わかりました。でも、強佳ちゃんだけ少しズルいなぁ……いつも光真君から力を借りていて……」
「アンタはアイツの一番のお気に入りなんだからそれで我慢しときなさい」
そう言いながら強佳は杖を取り出すと、静かに目を閉じた。
「……白虎将スウト、魔王ルト、アンタ達の力を借りるわよ」
そして強佳は走り出すと、その目にも止まらぬ速さで少年の周囲を回りだし、少年は信じられないといった様子を見せた。
「なっ……お前、何の能力も無いはずじゃ……!?」
「その油断が命取りって事よ」
「ぐ……だが、俺の重力を操る能力で止めてしまえば……!」
「どう止めようというのかしらね。たしかに範囲を指定すれば私にだけその能力を行使出来るけど、少しでも広げたらアンタまでその範囲に入っちゃうけど」
「う、うるさい……! お前みたいなチビで可愛げの無い女なんかに負けるわけがないんだよ!」
その瞬間、強佳の目は光を失い、少し小馬鹿にしたような表情も何の感情も浮かんでいない物へと変わった。そしてそのまま足を止めると、それを見た少年は勝ち誇ったように笑う。
「足を止めたな! その時点でお前のま──」
「……『黙れ』」
その冷たく重みのある声が闘技場に響く。すると、少年の表情は一瞬にして恐怖の色に染まり、震える自分を抱き締めるようにしながら両手を背中へと回した。
「な、なんだこれ……体の震えが、と、止まらない……!?」
「……アンタごときに魔法なんて使うまでも無いわ。この
「な、なんなんだよそれは……!」
「……最期まで大切な人を想い、仲間達の事を慈しんだ王様の力よ。もうこの世にはいないけど、私が知る中でコイツになら従いたいと思わせた王様の中の王様」
「そんな力、どこで……!」
「教えるわけ無いでしょ。そもそも戦いの最中に自分の能力の内容をバカ正直に教えるような真似をした時点でアンタの負けなのよ。今の言葉でアンタは恐怖に怯え、私に能力を使えなくなったようだしね」
「そ、そんなわけがあるか……! お、お前なんて簡単に……!」
そうは言うものの、少年は恐怖で震えたままで何も出来ず、少年の目には次第に涙が浮かび始めた。
「な、何でだよ……どうしてコイツに能力が使えないんだ……!?」
「アンタがその程度って事よ。さてと、向こうは……」
強佳が騎士達がいる方へ視線を向けると、そこには真言に支配された騎士達がおり、騎士達からの視線を背にしながら真言はニコニコ笑って強佳に近づいた。
「お疲れ様です、強佳ちゃん」
「ありがと。さて、それじゃあこっちも頼んだわよ、真言」
「はい、頼まれました」
真言が笑いながら言う中、接触隷属の影響を受けた少年は恐怖を感じながらも真言に対しての沸き上がってくる情欲に身を震わせていたが、真言が触れた瞬間にその目からは光が失われた。
そして二人は、騎士達と少年を連れて姿を消し、闘技場には騎士達が流した血のみが残された。
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