四日目 武器について
四日目、光真達は寄宿舎内にある屋内型のグラウンドにいた。光真達はそれぞれ違う色のジャージ姿であり、教室での席順と同じ並び方をしていたが、少し体がふらつき、顔や手の甲に生傷がある光真の姿に強佳は不思議そうに首を傾げた。
「光真、もしかして調子悪いの? それに、ところどころ傷があるし……」
「……いや、大丈夫だ。昨日、自由時間中に真言とそれぞれの武器について色々見てたのがたぶん原因だから……」
「武器……そういえば光真は長剣、真言は棘鞭だったな」
「ああ。それで武器について研究するために一回ここまで来て、少し振るう練習したいから目の前で見ててくれって言われて、俺もどんなもんか気になって見てたんだよ」
「アンタ達、結構危ない事してるわね……」
「まあな。最初は真言も振りなれてない様子だったから可愛いなって思ってたんだけど、慣れてきたら段々楽しそうな顔をし始めて、そろそろ止めるかと思ってたら、棘が俺の顔と手を掠めてこんな傷がついたんだよ」
「光真君……本当にすみませんでした。このまま振るっていたら危ないなとは思っていたんですが、この鞭であのクラスメート達を打ち据えたら、どんな顔で苦しみ啼いてくれるかなと思っていたら、その……段々楽しくなってきてしまって……」
真言が恥ずかしそうに顔を赤らめながら言い、その姿に光真は苦笑いを浮かべていたが、強佳は信じられないといった表情で真言を見ていた。
「アンタ……弱気そうに見えて本当は結構ドSなのね。参考までに聞くけど、光真の部屋で二人きりの時もそんな感じなの?」
「はい……私の接触隷属ってかかったら私を求めてとても興奮してくれますし、触ったら最後私がこの人を好きに出来るんだと思ったらすごいゾクゾクしてしまって……」
「……うん、もう良い。私が悪かったわ」
強佳が呆れ顔で止める中、センセイは四人の姿を見ながらクスクスと笑っていた。
「皆さん、順調に関係は深まっているようですね。それでは、昨日お渡しした武器についてのお話をしましょうか。皆さん、武器を出してください」
その言葉に従って光真達が各々の武器を出すと、センセイは初めに光真に視線を向けた。
「まずは対田さんの長剣についてです。その長剣は対田さん専用で、刀身の切れ味は常に最上の状態を維持しており、特別な魔法がかかっているので対田さんのみがあまり重さを感じずに振るえ、他人が持とうとしても特別荷重がかかるので決して持ち上げられません」
「ああ、だから結構軽いって思ったのか」
「加えて、つけている宝石は受け止めた魔法を吸収して対田さんの魔力に還元する力があります。どの魔法でも出来るわけではないですが、戦闘の際はそれに助けられる場面もあると思うので覚えておいてくださいね」
「受け止めた魔法が魔力として光真君の中に……光真君の中に他の奴の一部が……」
「ま、真言? すごい怖い顔してるけど、大丈夫なの?」
恐怖を覚えた様子の強佳の問いかけに真言はハッとしてから繕ったような笑みを浮かべた。
「大丈夫です。ただ、誰かの魔法を受け止めて魔力に還元された後は私も少し光真君に還元しますね」
「ん、わかった。でも、本当に良いのか? そんな事してたら真言だって疲れるだろ?」
「大丈夫ですよ。だって、魔力を通じて何か良くない物が入ってもおかしくないですし、光真君のためならへっちゃらですから」
「良くない物って……そんな事あるの?」
「ないわけではないですね。相手の魔力に干渉して相手の視界をジャックしたり相手を操る術もありますから」
「そうなのか……それなら俺達も気をつけるべきだな」
「そうした方が良いですね。続いて一色さんの武器に移りましょうか」
その言葉で三人の視線が真言の棘鞭に移る。
「その棘鞭も一色さんのみ使える物で、それ以外の方が使おうとしたら鞭の魔力が働いて、地中から伸びた魔力の茨が肌を引き裂きながらその方を締め上げ、最後には魔力や生命力を全て吸収した上で死に至らしめます」
「えっぐ……光真のは持てないだけなのに、なんで真言のだけは確実に殺そうとしてるのよ」
「そういう物ですから。そしてその鞭の棘で傷を受けた相手には、振るった時の一色さんの思い浮かべた物に関連した異常が発生します。一色さん、昨日に練習していた時は何か思い浮かべていませんでしたか?」
「昨日……でも、あのクラスメート達が痛みで苦しんで悶えている姿くらいしか──え、それじゃあまさか……!」
「そうですね。この姿から察するに、遅効性の毒のような物が回っているみたいです。ただ、毒と言っても体調不良をもたらす程度のようなのでご安心を」
「うぅ……光真君、本当にごめんなさい……」
「いや、これくらいへっちゃらだし、原因がわかったから良いよ」
真言の謝罪に対して光真が笑いながら言っていると、その姿を見たセンセイはクスクスと笑った。
「解毒用の薬を後でお渡ししますね。さて、次は猪狩さんのボウガンですが、そちらも猪狩さんのみが扱える物で、それ以外の方が使おうとしても矢は発射されず、自身が思う一番の恐怖を幻覚という形で体験する事になります」
「ほう、幻覚を見せるのか」
「はい。見ただけでは恐怖するだけですが、その幻覚は一度気絶するまで続き、自分がいる場所もその恐怖がある場所だと錯覚させられるので、場所によっては高所からの落下死や水辺での溺死などもあり得ますね」
「これはこれでえぐいのね……」
「そして、このボウガンから放たれた矢は猪狩さんが思い浮かべた場所に必ず命中するようになっており、どれだけ強固な障壁をもすり抜ける特性がありますから、うまく活用してくださいね」
「わかった」
「では、最後に食満さんの杖について説明しますね」
三人の視線が強佳の杖に注がれると、センセイは静かに説明を始める。
「その杖も食満さん専用の物で、それ以外の方が使おうとした場合、杖が独りでに動き始めてその尖った先で心臓を一突きし、その死体を跡形もなく燃やし尽くします」
「私のもそこそこヤバイわね……」
「そしてその杖を用いて魔法を使う場合、本来の倍以上の威力を発揮する事が出来、その杖を使っている間は魔力も一切減りません。なので、魔法を使う時はちゃんと杖を使った方が良いですよ」
「魔力が減らないならたしかにそれが良いな。あ、因みになんだけど……強佳が杖を使って魔法を俺に撃ってきてそれをこの剣で受け止めた場合、吸収する量も本来の倍以上になるのか?」
「なりますよ。なので、対田さんが魔力不足にかりそうなら、食満さんが杖を使って供給すればすぐに戦線復帰が出来ます」
「へえ……それは中々良い情報を聞いたな」
光真が嬉しそうにする中、真言はすっと強佳のそばに移動した。
「強佳ちゃん、やむを得ない場合以外は光真君に魔力を供給しないでくださいね? 強佳ちゃんは大切な仲間ですけど、もしそんな事があったら私は……」
「わ、わかってるから、その怖い顔を止めなさい……!」
「ふふ、仲が良さそうでなによりです」
「センセイ、この光景を見てそう言えるならメガネを変えた方が良いわよ。それで、その使用者を制限する機能って、私達にも適用されるの?」
「適用されますが、お望みならば無しにも出来ますよ」
「あー……それなら無しにしてもらうか。いざという時には助けてもらう事もあるかもしれないし、俺達が使ってるから自分達もって思わせる事も出来るからな。みんなはどうだ?」
光真の問いかけに三人が頷くと、センセイはニコニコとしながら静かに口を開く。
「では、その皆さんには適用されないようにしますね。さて、それではここからは武器の練習時間にしましょう。くれぐれも怪我のないようにしてくださいね」
その言葉に四人は頷いた後、自然に光真と真言、敦史と強佳の組に分かれ、二組がそれぞれ練習に励む中、センセイはその光景を何も言わずに微笑みながら見守っていた。
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