第32話 自分は戦士

ザーガに殴られたアームド・ダークエンジェルは地面に叩きつけられ、体勢を立て直そうとしたところにゴアドが〈ガンバロン〉の引き金を弾く。

引いていたコッキングレバーが勢いよく元に戻り、高出力の光線〈ガーディアンバスター〉が放たれた。


なんとか低空飛行で回避するも、今度はヒサのドロップキックを食らい転倒する。


「おのれ………このようなことで我々が負けるはずがない………」


「堕天使、お前達は何人殺せば気が済むんだ」


ザーガの質問に対し、リーダーは鼻で笑いながら立ち上がる。


「フン、逆に問おう。お前達はなぜ自分を生物の頂点だと勘違いしている。生物を食らう、そこまではいい。だがこの下界を自由のために汚した。それは許されることはない!」


「確かに人間は空、海、大地を汚してきた。でもその汚れをキレイにしてきたのも人間だ」


「それで、自然は取り戻せたか? 人間がいなければこのような建物で自然が壊されることはなかった。古代の戦士よ! お前を倒し、人間を全滅してみせよう!」


反論し、そして再びビームソードを構え直すと、低空飛行から一気に加速する。

光の刃がザーガの首を捉え………いや。


「なんだと!?」


刃が触れかけた瞬間、なんとザーガの腕輪がエネルギーを吸収したのだ。

動揺するリーダーに向かって左拳を唸らせ、さらに右足の蹴りが右肋に命中する。


「ガハァ!?」


「お前達は未来を見すぎている。今を必死に生きようとしている人々がいるのに、なぜ自然破壊と一括ひとくくりにするんだ!」


たしかに自分は偽者だ。

それでも、この正義は本物だと。

記憶が偽りでも、戦う理由はあるのだと。


そう、あれはゴアドと六問と合流する前のこと。

幕昰とベンチに座りながら缶コーヒーを飲んでいると、ヒサは相談を持ち掛ける。


「六問さんに言われたんです。記憶に塗り替えて、六問にしてしまって申し訳ないと。でももしそうしなかったら今の俺はいない。分からないんです。六問として目覚め、六問として戦ってきた自分は偽りだった。これからどう生きていけばいいか。身分証明もできないクローンが英雄である六問さんと肩を並べて生きるなんて俺にはできま………」


その続きを言おうとした時、相棒は背中を思いっきり叩く。


「いっつぅぅぅぅぅぅ!?」


「お前なぁ。身分証明だの、クローンだの、前に言っただろうが。ヒサはヒサ、六問は六問だ」


痛がる姿を見て、真剣な眼差しで返答を返す。


「身分証明書なんて俺が書いてやる。まだ若いだからよぉ、そんなこと考えてるぐらいなら人生を楽しめ」


コーヒーを一口飲むと、ゴクンと喉をうるおす。

するとヒサはさらに相談を持ち掛ける。


「俺、ジャーミーにウソをついてるんです。自分が本物の六問日叉だって」


「それは流れ的に仕方ないだろう。何せあの人は今の六問を見たことがないんだからな」


2人が話し合いをしていると、幕昰のスマホから着信音が聞こえてくる。

画面を確認すると、光炎から連絡だった。


「もしもし」


「光炎です。堕天使の目撃情報が2件あります。その内の1つをマップに送ったのですぐに向かってください」


さっき幹部の1人に怪人科を脱退しろと言われたばかり、しかしここで断れば何か大切な物を失う気がした。


「分かった。すぐにポイントに向かう」


「よろしくお願いします。あっ、あと終わったら行きつけの焼肉屋さんに行きませんか? 色々と幕昰さんと話がしたいんです」


「それは楽しみだな。よし、戦い終わりに目一杯食うぞぉ。じゃあまたあとでな」


「はい! よろしくお願いします! では失礼します!」とウキウキされながら電話を切られると、彼は笑みをこぼした。


「ヒサ、すぐに準備してくれ。現場に向かうぞ」


「分かりました!」


こうして2人は覆面パトカーで現場に出動した。


だがこれは命令無視にもとれる行動だ。

それでも人類を守るため、サイレンを鳴らし車道を駆け抜けるのだった。



時間は戻り、戦闘中のザーガとリーダーはお互いに殴り合いを繰り返していた。


ビームソードがエネルギーをすべて吸収されたため使い物にならなくなった今、拳を唸らせどちらが倒れるかの勝負。

このシチュエーションに六問の言っていた話をヒサは思い出した。


(あの時の事は覚えていない。だけど今なら分かる。すべて記憶していたら限界があった。それを見越していたのかもしれない)


複眼に映る息切れを始めた敵に対し、破壊エネルギーを左かかとに集中させる。


「隊長は下がってください! 古代の戦士は私が!」


高速飛行から着陸したアームド・ダークエンジェルがリーダーをかばうようにザーガをビームソードで切り裂くため突っ込んで行く。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


攻撃体勢に入る堕天使に対し、左足を振り上げ、まるでおのの様に振り下ろした。


「なんだと!?」


かかとが右肩に命中、パワードスーツにヒビが入る。


「今だ! オリヤァァァァァァァァァ!!」


吠えながら繰り出される必殺の一撃〈クラッシャーアックス〉を受け、部下は膝をつき爆散した。


破壊エネルギーに体力を多く消費したザーガはフラフラし始めると、改めて構え直す。

土煙を立って視界しかいがボヤけている中、リーダーが低空飛行で凄まじい速度で突っ込んできた。


避けるひまなどなく、ビルの柱に激突した。


血反吐を吐きながら崩れ落ちるザーガ、それをアームド・ダークエンジェルはひたすら殴り続ける。

するとヒサのピンチにザーガの腕輪が反応、複眼が漆黒に染まった。


「これは!? ウォーノウ様を倒したと言う憎しみの戦士!?」


「…………」


アームド・ダークエンジェルはあの超級堕天使の1人を倒した憎しみの戦士に危機感から距離を取ろうとするが、すぐ様首を掴まれる。

パワードスーツの動力源を吸収され、動けなくなった敵に対してさらに全身を取り込んだ。


「ウオォォォォォォ!!」


咆哮ほうこうを上げながら、口元をクラッシャーオープン。

破壊エネルギーを両拳に放出し走り出す彼の姿を見たオリジンザーガは止めに入る。


「ヒサくん! 憎しみに囚われちゃダメだ!」


暴走した彼を抑えつけ、なんとか説得をこころみる。


「自分を取り戻せ! ザーガに支配されるな!」


「ウオォォォォォォ!!」


ザーガのリミッターが外れたヒサに抵抗されるが、それでも抑え続ける。

その光景を見たゴアドは無防備な2人を守るため、2人の堕天使相手に〈カオスグリフォン〉構え直す。

竜の翼と堕天使の翼を羽ばたかせ、神の力さらに堕天使の力を一点に集め放つ連続突き。


(俺はザーガに救われた。ふん、恩返しとは言わねえがな)


おそらく六問は自分の事を救ってくれたことなんて覚えてないだろう。

だが、それで良い。

頭の中でまとめ、そして突っ込んで行く彼の姿はまさに英雄ヒーローの風格があった。

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