第23話 融合の戦士

正義のヒーロー、それは人を守る者の定義。

だがそれでも守り切れない命がある。

失われた命は戻って来ない。

人間とはみにくい。

救われれば崇め、守られなければ恨むのだから。


少年の名前は山口やまぐちゴン。

公園で遊んでいたところ友人達を堕天使に虐殺され、1人で難を逃れた。

その時守ってくれる〈正義のヒーロー〉はいなかった。


正確には逃れたあと授かれしの戦士の1人が撃破したのだが、友人を殺されたトラウマが彼を狂わせた。


ゴンはこう考えるようになった。


自分に力があれば救える命があるんじゃないか、と。

そんな時に出会ったのが、右腕に大ケガを負った西前だった。


公園の木に背中を預ける彼の姿に、自分なら何か助けになるんじゃないかと思ったのだ。


「どう、調子は?」


「ゴン………だったか。あまり俺と関わらない方が良い。人間を守るために戦ってるのによぉ。寄り付いてたら死に近づくぞ」


「質問してるのは僕なんだけど」


不貞腐ふてくされるゴンに対して(今時のガキは口が達者だな)と鼻を鳴らし、西前は視線を外す。


「僕はあなたを助けたいんだ。食事をまともにとってないみたいだし。それにそのケガ、ニュースで言われてる堕天使のせいなんでしょう」


「お前は関わちゃいけない。俺達授かれし戦士は神に選ばれた存在。聞こえは良いし、カッコいいかもしれない。けどよ。死と隣り合わせで、戦場に駆り出される兵士とあまり変わらない。人がイメージする正義の味方とはかけ離れてるんだ」


忠告を聞き素直に受け止められないゴンの前に、黒き翼を生やす黒騎士が降り立つ。


「だ、堕天使!?」


少年の驚きの声と表情に高笑いを上げるブラックナイト・ダークエンジェル。


「おやおや、子どもに手当てを受けているとは。なんとも情けないですね」


「探していたのは俺のはずだ! こいつは関係ない!」


「人間という生物である時点で始末する対象です。神に力を与えられても困りますしね」


剣と盾を召喚し、姿勢を低くしながら戦闘体勢に入る。

急いで立ち上がると西前は粒子となっている腕輪を体内から両手首に集結させ、輝く宝石に合わせて両腕をクロスする。


「ゴン! 警察に連絡しろ! それがお前ができる正義の行動だ! 変身!」


黄金の光に包まれ、竜神の戦士であるゴッド・アーク・ドラゴンに姿を変貌させた。


黒き槍〈スピアーグリフォン〉を召喚し、右腕をかばいながら向かって来る黒騎士の剣を受け止める。

ゴアドの果敢かかんに戦う姿にゴンは「分かった!」と指示通りお守りケータイで警察に電話しようとする。

だが。


「不平等、戦士に成れない、ならば、成らして、あげる」


片言で現れたバラダゼに押し倒され、堕天の力を流し込まれる。


「やめろぉぉぉぉぉぉ!」


悪夢の様な光景に、少年を堕天使にさせぬべく走り出すゴアド。

それに対して黒騎士は道を塞ぎ、無数の斬撃を飛ばした。


「おっと。バラダゼ様の邪魔はさせませんよ」


「邪魔だぁぁぁぁぁぁ!」


連続突きで斬撃を打ち消し、ブラックナイト・ダークエンジェルを蹴り飛ばす。

しかし堕天使と化して行くゴン、その姿は竜と騎士を混ぜた様であり、兜から角が突き破り、装甲がうろこと入り混じり、白竜騎士と言うに相応しい者になってしまった。


「英雄に、成れそう?」


バラダザの質問に対してゴンだった者は「もちろんです」とゆっくりと立ち上がり、ドラゴンの顔を模したナックラーを召喚する。


「僕の名前はドラゴニュート・ダークエンジェル。ゴアド、お前を倒し、英雄になる」


「超級堕天使! お前達だけは絶対に許さん!」


白竜騎士の意気込みをよそに西前はバラダザに怒りを爆発させる。

彼には普通の生活を送ってほしかった。


堕天使との戦いに巻き込ませたくなかった。


その想いを意図も簡単に打ち砕いた。


戦闘体勢に入るドラゴニュート・ダークエンジェル。

1対2の不利な状況だが、授かれし戦士として負けるわけにはいかない。


「死にたがりが2人になったか。容赦なく行くぞ!」


気持ちの整理ができないまま強がるゴアド。

〈スピアーグリフォン〉を高速でクルクルと手回しをし、走り出しながら連続突きを白竜騎士に繰り出す。

その攻撃に両手のナックラーの角部分から、大型の火炎弾が生成され打ち出される。


「なに!?」


迫り来る火炎弾に槍先が接触、爆発を引き起こし大きく吹き飛ばされる。

地面に叩きつけられ転がっていると、ドラゴニュート・ダークエンジェルに腹を踏みつけられる。

火炎弾を生み出し、打ち出そうとした。


「消えろ。英雄は僕だ」


「あぁそうかよ………英雄って言うのは………人殺しをして成れるもんなのかねぇ………」


ゴアドの一言に、疑問を覚える堕天使。


「なにが言いたい?」


「英雄は人にしたわれ、人の記憶に刻まれるほどの素晴らしい者に送られる称号だ。虐殺を繰り返す堕天使に加担するお前が成れるとは到底とうてい思えない」


「………」


もしゴンの心が残っていれば、理解してくれるはずだ。


白竜騎士の動きが止まって数秒、ブラックナイト・ダークエンジェルがしびれを切らして剣を振るおうとする。


「僕は、僕は西前さんを倒したくない!」


踏みつけていた足を地面に置き、ポロポロと落ちる涙にウソはないと感じ取った。


やはり彼の心は残っていたのだ。


「俺もゴンを倒したくない。一緒に戦おう」


「うん!」


ゴンは西前に手を貸し、立ち上がる手助けをする。

その光景を見た黒騎士は「裏切り者は粛清しゅくせいします」と反逆したドラゴニュート・ダークエンジェルに向けて次元の裂け目を開き、斬撃を大量に飛ばす。


「ウッ!?」


咄嗟とっさに火炎弾を生成し打ち出すと、斬撃が次々と打ち消される。


「さすがは私と同じくバラダザ様に生み出された堕天使ソルジャー。戦闘力は同等か、それ以上か。ですが!」


ゴンの戦闘の技力と経験がないことを理解したブラックナイト・ダークエンジェル。

神速とも思えるとてつもないスピードで低空飛行を行い、裏切り者を斬りつける。

しかし装甲は硬く、かすり傷程度で済んでいる。


(ちゃんと見るんだ。相手の動きを。今の僕なら)


堕天使と成った彼には相手の動きが確かに見えている。

あとはどの様に対処するか。

その答えはこうだ。


両手のナックラーと口部分から火炎放射を高速回転しながら放つ。

突撃して来た黒騎士の体はたちまち燃え上がり、後退りする。


「今だよ!」


「よし! 分かった!」


ゴンの合図に、西前は竜の翼を生やし飛び上がる。

必殺技〈ドラゴニックブレイク〉の体勢に入ると、バラダザが黒騎士の前にバリアを展開する。

あまりの強度に必殺の一撃が通じない。

そんな中、少年にあるひらめきが舞い降りた。


「西前さん! 僕の力をあげる! だから堕天使を倒してよ!」


その提案にゴアドは躊躇ためらいを一瞬だけ持つが、覚悟決め「分かった! その力! ありがたくもらうぜ!」と右手でサムズアップする。

ゴンは堕天の力を西前に渡し、元の人間の姿に戻った。


すると神と堕天使の力が融合し、ゴアドの姿が変貌させる。

頭の角が白く変色、左の黄金竜の翼が白竜の翼へ。

ボディのアーマーに鱗の模様が付き、全身の筋肉と装甲がより強化、パワーとディフェンスが両方パワーアップ、その代わりに走る速度が低下したものの、翼による飛行がそれを補っている。


「なんだその姿は!? まさか………罪深き神と私達堕天使の力を………融合させたと言うのか!?」


「人間を堕天使に変貌させ、記憶を改ざんするその悪魔のようなやり方。俺は絶対に許さん!」


怒りの叫びと共に蹴りがバリアにヒビを入れていく。

それに対して黒騎士は1度は動揺したものの落ち着きを取り戻し、盾を構え攻撃にそなえる。

その光景にバラダゼはこのままではブラックナイト・ダークエンジェルが敗北することを予期すると、彼の側に歩み寄る。


「ここは、撤退」


「ですが………」


「撤退する」


バラダゼの圧のある命令に、さすがの黒騎士も従い〈ダークネスリングゾーン〉へテレポートした。


バリアが消え去り、地面に着地するゴアド。


「やったね!」


駆け寄るゴンに、変身を解除した西前は右膝をつく。

堕天の力を使いこなすにはまだ鍛え方が足りないのだと自覚しつつ、「あぁ、そうだな………」と痛みに耐えながら返事を返す。


「やっぱり無理してたんだね! 早く病院に行かないと!」


「大丈夫だ。それよりこのこと俺達だけの内緒だぞ。堕天使に成ったなんて言ったら大変な目にうからな」


子供の扱い方は決して上手くない。

だがこれだけは分かる。

この少年とはこれ以上関わってはいけないと。

ヘルメットを被り駐車していたバイクに乗り込むと、エンジンキーを挿しエンジンを鳴り響かせる。


「その体じゃすぐにやられちゃうよ!」


泣き出し始めたゴンに西前は再びサムズアップする。


「ヒーローは戦いで死なない。ゴンだって分かってるだろ? 俺は休むわけにはいかないんだ」


そう言って道路の方へバイクを移動させると、アクセルを回し走り出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る