第22話 成長の戦士

光炎の指示に従い、如鬼、ヒサ、六問は製造所の中に突入する。


Z3ズースリーのバッテリーは今50パーセント。保って30分です」


〈セイバー〉を右手に装備し先頭を歩く彼女。

明かりがつく廊下を早足で進んでいく。


「俺達も腕輪の判断次第で変身が解除される。これは短期決戦だね」


2人の若者が会話している間に肉食獣の喉を鳴らす音が響く。

獲物を捕らえるため、背後から奇襲を仕掛けるメスライオン達。


空気の歪みを感知したヒサと六問はザーガに変身、腕輪が獣達を物質として吸収する。


「ずいぶんと手荒い歓迎じゃないか? しかも妻達の扱いもひどいものだ」


オリジンザーガがメスライオンの肉と血液をエネルギーに変換し変身時間を延ばすと、敵を挑発しあぶり出そうとする。

しかし返事は来ず、逆にメスライオン達が一斉に襲い掛かる。

体力を考え堕天使の捜索を優先、その場を逃走する。

すると明らかに人間技ではない捻れ方をしたドアノブが床に落ちており、鉄製のドアが部屋奥の方へ歪んだ状態で放置されている。

そこにはライオン・ダークエンジェルがその場を出ようとしていた。


「止まりなさい!」


如鬼の警告に堕天使は後ろを振り向くと喉を鳴らし、モーニングスターの鎖をブンブンと振り回す。


「お前達か、ウォーノウ様達を倒した人間と言うのは」


鬼の形相でこちらを見つめ、今にも攻撃を仕掛けてきそうな勢いだ。


「ウォーノウ? 様々な武装で警察署を襲ったあの堕天使か………罪のない人達を殺したあの堕天使か!」


ヒサは覚えている。

如鬼を苦しめ、鈴静に大ケガを負わせ、大切な仲間を殺戮した堕天使達を。

人間の可能性を信じきれなかった兵器達を。


冷静さを欠き始めるザーガにオリジンザーガは「怒りに囚われるな!」とカツを入れる。


「平常心を保つんだ。じゃないとまた闇に呑まれるよ」


「すっ、すいません」


ザーガの腕輪は感情を認識し、力に変える。

だが憎しみだけで戦えば憎しみの戦士へ成り果てる。

それぐらい分かっている。

だがどうしても許せない。

六問から引き継いだ記憶が正義感を煽ってくるのだ。


「ウォーノウ様を倒した罪、ここでつぐなってもらおう」


「その罪を償うことはない。倒されるのはお前の方だからな」


っていろォォォォォォ!」


堕天使の叫びに潜んでいたメスライオン達が奇襲を仕掛ける。

まるで1対1を如鬼と旦那にさせるように仕向けているのか、妻達はヒサと六問だけに牙を向けた。


「まずはお前からだ」


「クッ………」


Z3ズースリーAIエーアイがシステムをイジったことで機能性は上がっているものの、元々は怪人と戦うことを想定された機体。

それを超えた存在である堕天使を接近戦で、しかもタイマンで挑まなければならない。


『大丈夫だよ如鬼。僕がついてる』


テキストを確認すると、如鬼は「ありがとう」と信頼仕切った笑みを浮かべながら〈セイバー〉を構え敵に向かって走り出す。

振動ブレードを鳴り響かせながら突き刺そうとする。

これを食らった者は一撃で貫通され、致命傷を負わせることができる。


(バカめ。いくら一撃で仕留められる武器だろうと、当たらなければ)


小バカにしつつ左サイドステップで突進を躱したライオン・ダークエンジェルはZ3ズースリーの背後からモーニングスターのハンマー部分を投げつける。

だがAIエーアイに指示を観た彼女は瞬時に後ろを振り向き〈セイバー〉で両断した。


武器を失った堕天使、そう思われた次の瞬間だった。


なんと鎖がバラバラになり、放たれた銃弾が如く一斉に撃ち出される。

ターゲット表記が出るが〈セイバー〉では撃墜し切れず、装甲に勢いのまま激突した。


あまりの破壊力に火花が散り、損傷しながらもそれでも立ち続ける。


「人間がぁぁ! なぜ立ち上がる! なぜ諦めない!」


叫び散らかす堕天使に、如鬼は息を整え〈セイバー〉を

再び構える。


「私には………あなた達を倒すために勝ち抜いた責任がある………選ばれなかった人達に呪われる覚悟がある………」


決意を固め走り出す如鬼に対して、恐怖すら覚えるライオン・ダークエンジェル。

しかし首をブルブルと振って自分を奮い立たせ、ドロップキックを繰り出す。

するとAIエーアイがカメラで光炎に渡されるはずのZ3+ズースリープラスを発見する。


『如鬼! Z3+ズースリープラスがあったよ! 隙を見て装着して!』


ターゲットが表示されるも、指示を観る余裕はない。

高く飛び上がり蹴りを躱し足から着地、〈セイバー〉を再び構え突進を仕掛ける。

バッテリーの少ない残量が気になるが、最後の一撃に賭ける。

着地したライオン・ダークエンジェルが後ろを振り返ろうとしたその時、背中から両断された。


悲鳴を上げながら爆散し、それに巻き込まれる如鬼。

爆風で吹き飛ばされ、床に勢いよく転がった。


大元が倒されたと同時にメスライオン達も消滅、ヒサは倒れているZ3ズースリーに駆け寄る。


「如鬼さん!?」


「起きてますよ………大声を出さないでください………」


すぐに立ち上がろうとする彼女に、モニターに悲痛なテキストが表示される。


『僕のせいだ。僕が如鬼に無茶な指示を出してたから。パートナーである如鬼をいつも傷つけて、脳にもすごい負荷を掛けてる』


そのテキストを確認した科学の戦士は微笑み、こう言った。


「大丈夫。あなたがいるから戦えた。だから自分を責めないで」


その会話を観ていた光炎は安堵あんどと同時に緊張が解け思わず重いため息を吐く。


『3人ともぉー。この部屋にZ3+ズースリープラスがあるはずよぉー。見つけたらズートレーラーまで運んで来てちょうだい』


「「「はい!」」」


戦いを終えた3人は指示を聞きZ3+ズースリープラスを回収、歩いて来た道を戻って行くのだった。

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