第10話 報いある過去を持つ戦士

如鬼とゴアドはバイクを止め、後ろを振り替える。


「六問………さん?」


彼女の目に映ったのは六問のもう1つの姿〈バーニングボンバー〉と負傷した状態。

傷ついた体から溢れ出す血が戦いの激しさを物語る。


「ザーガよ。お前は破壊エネルギーを注入され満身創痍まんしんそういだ。そのままあの世に送らせてもらう」


「なぜ………なぜ堕天使であるお前達が………破壊エネルギーを使えるんだ………」


「はっはっはっ。1つ言えることは我々より上の存在が力を与えてくださった。それだけは教えておく」


高笑いを上げ上の存在がいることを教えると、銀色のローカスト・ダークエンジェルはバイクから降りた相棒の金色のローカスト・ダークエンジェルに首を縦に振る。


『さあ! 最終ラウンドだ!』


一斉にザーガに飛びかかる堕天使、それに対して如鬼はスキャナーで頭を捉え〈アーチャー〉を発展させたサブマシンガン〈アーチャー・マーク2〉を正確に連射した。


勢い余って避けることができず何発か食らうもイナゴの軍勢に姿を変えた。


「えっ?」


「お前の様な武器頼りな者に負けるかよ!」


如鬼へ迫り来る堕天使にゴアドは口の部分をクラッシャーオープン。

竜人が如く火炎放射を吐き、軍勢を焼き焦がす。

慌てて元の姿に戻るとバックステップしつつ再びザーガに後ろから襲いかかった。

するとようやく駆けつけた鈴静が装着するZ2ズーツーがバズーカの〈バーサーカー〉を構え、ミサイルを撃ち出した。


「ぐぇぇぇぇ!?」


「グワァー!?」


思わぬ奇襲と爆発に大きく吹き飛ばされ、全身の装甲にヒビが入る。

だがそれと同時に六問まで巻き込んでしまった。

Z2ズーツー、見た目はZ3ズースリーを重装甲にした様な物だが〈バーサーカー〉の火力で吹き飛ばない様アキレス腱部分にアンカーピックがあり、地面に突き立てることが可能だ。


「あっ! すいません六問さん!」


巻き込むつもりではなかったが、久しぶりに使用したため感覚が掴めなかった。


動揺と謝罪が入り混じり、思わず大きな声が出る。


「くっ………いえいえ………それより相手はベルトを使ってダメージを攻撃力に変えます。まずはそれを破壊しましょう」


「分かりました」


4人での戦闘はこれが初めて、〈バーサーカー〉の火力を理解し鈴静は乗って来た白バイから〈アーチャー・マーク2〉を取り出し倒れた銀色の方のベルトに狙いを絞る。

ゴアドも金色の方と戦闘していた。


「お前達、さっき最終ラウンドとかなんとか言ってたな。それは自分がやられるって言うKOケーオー宣言か?」


「神に選ばれし者よ。我々をおちょくるのもそこまでだ! この世を汚しに汚した者達を絶滅させる。そしてゼッツ様が新しい世界を創造する。そのために負ける訳にはいかんのだ!」


返答に対して呆れた様子でため息を吐き、再びベルトを狙って〈スピアーグリフォン〉による連続突きを繰り出す。

だがことごとく攻撃を躱され、挙句の果てには槍先を掴まれた。


「くっ」


「お前が神に選ばれようと、実力の差は歴然の様だな」


天使達は神に創造された。


ゆえに強者、故に満身し神に逆らった者は堕天する。

なぜ堕天使があの様な禍々しい姿になったのかはゴアドは知らない、いや、知りたくもなかった。


そう、怪人に襲われたあの日のことからだ。


本当の名前は西前にしぜんシン。

まだ小学生の頃、いじめっ子だった彼は仲間達と共謀し昼休みの給食室の裏でターゲットの男子生徒をリンチにしていた。


「おいおい、かかって来いよぉー」


殴り続け腫れ上がった顔を見て煽るシンに少年はなにも言わずただ立ち尽くしている。

こうしていればどうせ飽きてやめるだろう、そんな考えは見え透いていた。


「甘い考えしてんじゃねぇよ。俺達の親は共働きなんだ。先生に電話されようが留守番で伝わない。だからお前をいじめ放題なんだよ!」


状況を飲み込ませ、再び顔面を拳で殴る。

そして仲間が背中を殴り、もう1人が腕を掴んで壁に叩きつけた。


「うっうっ。誰か………」


助けを求めて叫ぼうとするのでシンは口を塞いで腹を殴る。


「おっと、言わせねぇよ」


度が過ぎた狂気のいじめ、相手からすれば悪魔に見えていたのだろう。

そんな時だった。


「俺も混ぜてくれ」


低い声の方を向いた瞬間、仲間の1人が思いっきり蹴り飛ばされると外壁に叩きつけられ泡を吹きながら死亡した。


それが初めて怪人に襲われた日。

高笑いを上げる牛型の怪人に恐怖でその場から逃げ出す。

しかしすぐに追いつかれ右手で首を掴まれる。


「お前の様なドス黒い奴が1番美味いからなぁ。それじゃあ、いただくとするか」


そう言って口を大きく開け、食べられそうになった。


「やめろォォォォォォ!!」


突然現れたのは正義の味方、チェンジソルジャーザーガだった。


捕まっている腕を剣で切り裂き、シンを助け出した。


「ほーお、ザーガよ。お前は罪深きその子供を助けるのか? こいつは仲間と共に罪なき者に暴力を振るった。こう言う人間ほどトップの存在に成るのだろう? そんな奴が1番美味なのだ。ガッハッハッハ!」


神経がない怪人は痛がるどころかザーガをあざ笑い、そして襲い掛かる。


「早く逃げろ。早く!」


危機迫る状況にシン達は言う通りその場から逃げ出す。

教室に駆け込むと、なにも言わず席に座った。


自分達は誰にも信用されていないのだから、だからこそ言わなかった。


その後怪人はザーガによって倒されたことを知り、ホッとしている自分とは対照的に殺された仲間のことを思い出し恐怖が頭を覆い尽くした。


トラウマになると同時に怪人に襲われる可能性から不登校になった。


それからと言うもの怪人の悪夢にうなされ、眠れない彼を見かねた親は少しでも気分を晴らすためにヘルパーである男性を呼びお出かけや家庭教師をしてもらった。


シンが高校生になる頃にはすっかり信頼を置くように成り、20代になると就職先が決まり共に喜んだ。


ヘルパーの契約が終了した後、当たり前だが男性は来なくなった。


それは決まっていたことだったのでショックは少なかったがその後再び恐怖のどん底に突き落とされる。

27歳になった頃、工場の作業が終わりシンはバイクでまっすぐ家に帰ると、なんと火事になっていた。


「そんな………父さん! 母さん!」


すぐに消防隊を呼び、40分ほどで消し止められた。

しかし男女らしき遺体が1つずつ発見され、親であると推測された。

放火魔の犯行だったことがすぐに分かり逮捕されたものの悲劇はまだ続く。


葬儀そうぎの金額がかなり高く、とてもシンが払える物ではなかった。


いじめっ子だったが故に神様の怒りに触れたのか、借金を背負った彼は運命を呪いながら仕事を続けた。


それから30歳に成り借金をようやく返済した彼の前に現れたのは茶髪の女性。


「あなたが西前シンさんですね」


「そうだけど、俺になんのようだ。借金ならもう返済したぞ」


缶コーヒーを飲みつつひねくれた返事を返すと、真面目な表情でこちらを見つめてきた。


「西前シンさん。突然ですがあなたには堕天使と戦ってもらいます」


「ハァ、バカにしてんのか。神の怒りをかった俺にそんな資格はない。たとえあんたが天使だとしても、今更なんだとしか言い様がないぜ」


ため息を吐きながら彼女から離れようとする。


「いいんですか。神を呪い続け戦いを放棄したとしても、死が待っていることには変わらない。人類が作り出した戦士、ザーガが目覚めようとしています。共に堕天使と戦うこと、それがあなたの運命なのです」


「認めるんだな。神に言っておけ。確かにちっちぇー時は悪いことをたくさんやった。だがよぉ、なにもしてねぇ親を殺されたことが運命なら、代理の天使でもいいからまず天国にいる親に謝罪しろ、てな」


怒りと後悔を背負った後ろ姿を見て、女性はそれでも彼を追いかける。


「あなたは立場を分かっていない。世界を救う力を扱える身でありながらそれを扱わずにただ滅亡を待つのですか?」


「しつこいぞお前! もう2度と俺の前に現れるな! これ以上言うなら警察を呼ぶぞ!」


説得する彼女にそう通告し、職場に戻ろうとしたその時だった。


現れたのは黒き翼を持つ犬型の怪人、ドック・ダークエンジェル。

その姿はまるでエジプトの神の1人、アヌビス神を彷彿ほうふつとさせ、黒い肌に鋭い牙、歯茎はぐきが少し出ておりそこから血が垂れている。

左手には命を刈り取る形をした小型のかま、右手にはリーチの長い剣を持っている。


「お前達でこの場の人間は最後か。そう考えると、物足りないな」


「かっ、怪人!? ウワァァァァァァァ!!」


トラウマが甦り恐怖で叫ぶ西前に対して、ドック・ダークエンジェルは呆れた顔で鎌の逆手部分で軽く肩を叩く。


「はぁー、我はあの様な奴らとは違う。我らは堕天使、名をドック・ダークエンジェル。人類は我にとって食べ物に過ぎない。さて、どちらからしょくすか」


その言葉から想い出した。

仲間を殺し、自分を食べようとした怪人の事を。


「神を裏切った者が偉そうに。西前シンさん、あなたに神から預かった力を与えます。さあ、竜神の戦士に成る時です」


「なるほど。神に従う天使か。見せしめに先に食ってやろう」


堕天使が走り迫って来ると、女性は怯える彼の背中に右手をかざす。

すると両腕に黄色の宝石がついた金色の腕輪が出現、脳内に使い方と戦い方が一瞬の内に理解させられる。


「やるしか………ないのか………」


この場で戦えるのは者は西前しかいない。

過去に向き合う決意を固め腕輪の宝石を重ね合わせると、光に包まれ竜神の戦士へと姿を変えた。


「おっ、お前は!?」


思わず足を止めたドック・ダークエンジェル、動揺を隠せず足をガクガクと震わせた。


「悪いが俺も初戦なんでね………だがこの姿の名は知っている。ゴッドアークドラゴン、訳してゴアド。どちらの呼び名でも構わない」


ゴアドの中でまだ恐怖心は残っている。

だが自分の様な被害者を生まないために、戦うことを決意するのだった。

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