【BL】孤虎は今宵、黄花の国で愛に鳴く

藤乃 早雪

プロローグ

いつかの記憶

「いい? リィエン、その姿を人に見せたら駄目よ」


 ――うん。分かってるよ、母さん。


 黄土色の毛を優しい手つきで撫でられて、リィエンは喉を鳴らす。


 もう夢でしか会うことのできない人だ。長らく会えなかった分、リィエンは腹を見せ、幼獣のように目いっぱい甘えた。


「正体がバレたら大変なことになるからね」


 ――大人は薬にするために解体され、子どもは丸ごと酒漬けにされる。そうでしょ?


 子どもの頃から何度も、口酸っぱく言われてきたことだ。忘れるはずがない。


「もし、この人のためなら死ねるという人が現れたのなら、その時は正体を明かしなさい。母さん、後悔していないのよ」


 夢に現れた母親は手を止めて、虎の姿をした息子に微笑みかける。

 母親が決まって最後に告げる言葉だけ、リィエンはいつまで経っても理解できなかった。

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