team自分!~多次元世界から集結した自分×2と一緒に魔王を倒します~

飛鳥井 作太

第1話 三人居るけど、実質ひとり

 ガラス張りのビルの中。

 一階から三階まで吹き抜けのそこに、うじゃうじゃと変な生き物がいる。

 しっぽが蛇で手足がムカデの猿とか。大トカゲにコウモリの羽根が生えたのとか。二足歩行の牛と馬とか。

 総称して魔物というらしい。

 それらを前に今、アタシはハンドガンをぶっ放していた。


 ドンドンドンッ


 走りながら、一体二体三体。

 切れたマガジンを捨てて、新しいマガジンをボレロの内側から取り出して素早く装填。


 ドンドンドンッ


 ぶっ放す。

 魔物は倒れると同時に、塵となって消えていく。

 いいなあ。人間の死体も、ああやって消えてくれたらいいのに。

 あ、でもそしたら弔いにくいかな。

 やっぱ無しで。


 ドンドンドンッ


 今までこちらへ向かっていた敵が、今度はしっぽを巻いて(ガチでしっぽをクルンと巻いて)逃げていく。

 二階へ向かうエスカレーターの方へ。

 しまった!

「ごめん、お藤さん! 何匹かそっち行った!」

 二階に向かって声を張り上げた。

 アタシも慌てて後を追い、階段を一気に駆け上がる。

「……構わん」

 静かな声が、吹き抜けに響く。


 ザンッ


 アタシが着いたのと、刀が一閃煌めいたのは、ほぼ同時だった。

「この程度、たやすいことだ」

 刀をビュッと払ったのは、一人の少女。

 黒い髪をポニーテイルにまとめ、何故か執事服をまとっている。

 藤色のネッカチーフが、ゆらりと揺れた。

 ピンと伸びた背筋と、刀を持っているというのに何処か優雅な物腰。

 まさしく良家の執事といった風格だ。

「ひゅー♪ さっすがぁ」

 バシュンッ

 アタシが拍手を送ろうとした瞬間。何か鋭いものが、横を通り抜けた。

「およ?」

 ふり返ると、一体の魔物(猿+蛇)が塵になるところだった。

 ザザッ

 耳元のインカムから、声が響く。

『……驚かせてごめん』

 アタシは、上を見た。

 吹き抜けの天井。シャンデリア的な照明に乗っかっている少女が居る。

『逃げてって言うより、倒した方が早かったから』

 クロスボウを掲げた彼女は、鶯色の着物に濃紫の袴、青いマフラーを身に付けている。髪は、さっぱりと短い。

「ありがとー。青さん」

 助かったと、アタシは彼女に手を振りながら問うた。

「ど? もう敵いない?」

 彼女は、改めて眼下を見まわして、

『いないね。ザッと見た限り。上も下も』

 うなずく。

「じゃ、次進もっか」

 よし、と声を明るく弾ませ言う。

 ちら、と見た柱に鏡が埋め込まれていたので、そこでサッとボレロとジャンパースカート──深緑のタータンチェック──の裾を直す。白いネクタイを整えるのも忘れない。

 背負った楽器ケースももう一度背負い直す。

 アタシの後ろでは、お藤さんが納刀しつつため息を吐いていた。

「雑魚ばかり、キリがないな」

 しゅた、と軽やかな着地で、青さんも天井から降りて来た。

「魔王とやらも、もったいつけず、とっとと出て来ればいいものを」

「お藤さーん、そんな情緒のないこと言わないの」

 アタシが言えば、くわっと目を向きお藤さんが吼える。

「情緒などいるか! 俺はさっさと敵を屠り、帰らねばならんのだ!」

「あーあー、わかってるわかってる」

 どうどう、とアタシは両手を上げて彼女を宥める。

「愛しのお嬢様のために早く帰りたいんだよねー?」

「茶化すな!」

 お藤さんが頬をさっと赤らめ、拳を握った。お? これはもしかしなくともですか?

「二人とも、遊んでないで。早く行くよ」

 青さんが、すたすた先へ進んでいる。

「はいはーい。ただいま参りまーす」

「俺は遊んでなどいない!」

 二人のあとを追いながら、アタシは「変なの」と思う。

 ちら、と柱の方を見る。

 並ぶ柱のすべてに鏡がはめ込まれていて、アタシたちが映っていた。

 てんでんばらばらの格好に髪型(ちなみにアタシは編み込みセミロング)をしているアタシたち。

 だけど。

 強気に見える眉と両目。ちょっと自慢の後頭部。細身で筋肉質の手足、身長。

 全部、同じ。


 ──顔かたちすべてが、そっくり同じのアタシたち。

 でも別に、三つ子とかそういうのではない。

 単なる他人。

 だけど、他人じゃない。

 『同じ人』。

 さて、これは一体どういうことかというと……。


 時は、一時間ほど前に遡る。


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