めくりた!☆雑誌部MagazineClub☆

異伝C

巻頭特集『部活内容』

さて、ここに来たからにはこの話をしないとねえ。 俺の名前は田宮ヨシミ。 雑誌部では一応部長をさせてもらってる。 ああ、そんなに固くなる必要はないゾ。 なんてったって同じ人間だ。 部活内容だよな? ああわかってるよ。 まあホラ、口で説明するより実際に見て周った方が良いんじゃないか? 案内するよ。 おいで?


 さて、この部屋に入ると我が雑誌部の部室。 月刊『めくりた』の、まあいわば編集室だな。 みんなそう呼んでる。

 開けるぞ? いいか? あ、別に襟とか正さなくていいから。

 よしよし、リラックスして。 ……落ち着いた? じゃあ、開けるね?

 よいしょっと……。

「やあみんなおはよう! 今日は新しく雑誌部を見学に来た――」

「タミさん退いてください! これから取材です!」

「おお、悪い坂本……でもちょっと待って――」

「みんなもう学園の裏山に集合してるんです! タミさんも早く来てくださいね!」

「ああ、でもその前に……て、おーい」

 ああ、失礼。 まあ……なんだ。 ここが雑誌部。 今はもぬけの空だけどね。 ええと、ああちょうどいい! 彼女、坂本ユウ。 雑誌部では主に記事の構成や校閲をしてもらってるんだ。 ちょっと彼女に付いていってみよう。 せっかくだ。 雑誌部の体験入部といこうじゃないか!

「おーい! 待ってくれ坂本ー! 一緒に行くよー!」



 ふう……ふう……ちょっと体力使っちゃったかな? 座っての活動が主だけど、取材で外に行く時は結構体力勝負な所があるから、これくらいで根を上げてたらもたないぜ!

 ……ぷふう~! はあ……はあ……え? 俺が一番疲れてるじゃないかって? いやいやこんなんで疲れるとか無いから。 むしろ大事なのは持久力だから。

「部長」

「お、新田。 なんだお前も来てたのか?」

 あ、彼女は新田ミナミ。 雑誌部では主に記事の下書きを担当してもらってる。 ちなみに俺と同じ三年な。

「みんな来てるよ。 てかユウちゃんも部長も遅い! 何してたの!?」

「ごめんなさいミナさん! 部長のせいで遅れました!」

「お、おい! 俺を陥れるような言い方はよしたまえ! だいたい俺は――」

「言い訳無用。 話は署で聞かせてもらうから」

「は? 署?」

「いちいち突っ込むな! そんな事より、残りの二人もう山登っていっちゃったよ! 私たちも早く追いかけないと!」

「ええ! マジか! この山けっこう険しいから入ると危ないんだぞ!?」

「仕方ないでしょ! 事態が事態なんだから」

「新田、そういえばまだ今回の取材ネタを聞いてないんだが、何なんだ?」

「えー!? そこから!?」

 いや、そんなにあからさまに驚かれても困るよなあ?

「仕方ないなあ。 しょうがない。 登りながらユウちゃん、部長に説明してあげて」

「はい! 良いですかタミさん、これは世紀の大発見ですよ!?」

「は、はあ。 なんでも良いが止まって話さないか? 俺まだ息が――」

「なんとですね……! あのUMAの目撃情報がこの裏山であったらしいんです!」

「ゆーま?」

「Unidentihied Misterious Animalの略でUMAです!」

「……はい?」

「未確認生物よ部長」

「あ、ああUMAね! はいはいなるほどなるほど……て、マジか!? で、何が居たんだ!? ビッグフッドか? それともネッシー? いや、この山に湖は無いからそれはないな……てことはチュパカブラとか――」

「ツチノコです」

「……」

「ちょっとタミさん! 急にテンション下がらないでくださいよ!」

「いや、なんか俺の中の期待のスケールが予想以上に小さくなってしまってな。 せめてビッグフッドぐらいインパクト無いと反応に困るというか」

「反応に困らないでください! てかビッグフッドじゃなくてBigfoot、ビッグフットですから」

「どっちでもいいじゃん」

「よくない! それ記事にしたら完璧誤字レベルですから!」

 だってさ? どっちでもいいよなあ?

「さっきの待ち合わせ場所が最終目撃地だったんだけど、あの二人も絶対に見つけるって躍起になってるから先に登って行っちゃったのよ。 危険な所に行ってないといいけど」

「最初の目撃者は誰だ?」

「二年の剣道部の子。 稽古に遅れちゃうからって私に電話だけ寄こして部活に行ったみたい。 記事楽しみにしてるって。 あと見つけた暁には第一発見者としてインタビューしてくれって」

「ミーハーなのか何なのかよくわからん奴だな。 だいたいツチノコなんてこれまでもそれらしいのが見つかってきてるけど、そのどれもが餌を丸のみにした蛇だったりトカゲだったりしたわけだから、今回のその情報も信憑性が低いな」

「そんな事言わないでくださいよタミさん! やる前からモチベが落ちます!」

「すまん」


「うわあぁぁあああああ!」


「!?」

 おい、今の聞こえたか? 誰かの叫びか?

「男性の声……てことは、カズちゃん?」

「声のした方角は……こっちだ!」

 いいか! 足元気をつけろよ! この辺根っこがヤバいから転ぶぞ……ってうわ!?

「部長!? 言ってるそばからアンタが転んでんじゃないよ!」

「まったくタミさん大丈夫ですか!? 怪我はしてませんか?」

「俺の事はいい! 早く声のした方へ行くんだ! 俺は後から行く!」

「はいはい、いいから立って」

「……はい」

「どこも、怪我してなさそうですね」

「うん。 どこも怪我はしてないゼ」

「……」

「ほらさっさと行くわよ!」

 く……何か二重に恥ずかしいぞ俺! お前だけでも見なかった事にしてくれよ!


「おーい! 河野くーん! 居るー!? 居たら返事してー!」

「坂本先輩!? ここでーす! ここ、ここー! てかテメエ撮ってんなよ!」

「あ、あそこに居るの! ハーシーじゃ!?」

「ホントだ、蓮乃だ!」

 雑誌部のカメラマン、蓮乃レンだ。 お前と同じ一年だゾ。

「あ、皆さん。 やっと来ましたか」

「レンちゃん。 この辺でカズちゃんの声しなかった? 一緒じゃないの?」

「ああ、カズヤならこの下に」

「ここですよここー! 助けてください! 落ちちゃいました!」

「うわ! 深い穴! 大丈夫河野くん!?」

「ええ、ちょっとしたかすり傷程度です!」

「ぱしゃ」

「て、レン撮ってねえで助けろよ! ばか女!」

「ムム……」

「な、なんだよその不服そうな顔……何か言いたいことでもあるのかよ!?」

「それが」

「へ?」

「それが人にモノを頼む態度?」

「お前がこんな状況でもパシャパシャ撮ってるからだろぉよおおお!」

「まあまあ! 無事なだけ良かったよ! タミさん!」

「ん?」

「部長威厳挽回のチャンスですよぉ~」

 は!? こうしちゃいられん! 君は後ろに下がっていなさい!

「新田! 坂本! これより河野を引っ張り上げる! 俺を掴んでいてくれ!」

「フフフ、はい部長」

「はーい、タミさん頑張ってくださーい」

「幸い、手を伸ばせば掴めるぐらいの深さだ。 河野、腕は伸ばせるか?」

「はい! ありがとうございます部長! 面目ないっす!」

「ぱしゃ、ぱしゃ」

「テメエも撮ってねえで手伝えカメラ小僧!」

「ムム……」

「な、なんだよまたそんな不服そうな顔して……何か俺間違ったこと言ったかよ!」

「ぱしゃぱしゃぱしゃ!」

「ぬあああ! 反論できねえからってフラッシュ焚きまくるんじゃねえええ!?」

「ぽん」

「え、なにその部長の肩に手を置いたから良いだろみたいな顔は」

「ムムム……」

「わかった! わかりましたからもうフラッシュ焚かないでくださいぃいい!」

「ほら河野! 手を掴め!」

「は、はい!」

「よし! 引き上げるぞ! せーの!」


 ふう……何とか引き上げられたな。

「ふう……助かりました部長、それとみんな」

「よかったねカズヤ、怪我はない? ぱしゃ」

「ああ、心配してくれてありがとなレン、かすり傷だ……そしてもう撮るな」

「ここ、危ないなあ。 河野くん帰ったら保健室で傷口消毒ね」

「ああ、はい」

「で、結局ツチノコは居たのか?」

「それっぽいのが居たんですよ部長! んで追い詰めようと思って追いかけてたらこんな穴があって……ホント、面目ないっす」

「まあ無事で良かったじゃない。 もしかしたら一歩間違えば落ちてたのはレンちゃんかもしれないし」

「私?」

「ほら、レンちゃんいつもカメラのファインダー覗いて歩いてるでしょ? もしその状態で落ちたのがレンちゃんだったら、カズちゃんみたいに軽症では済まなかったかもしれない」

「おお、確かに。 その可能性もあるな新田」

「だから、レンちゃんは自分の身代わりに落ちてくれたカズちゃんに感謝する事ね」

「む、ムム」

「う、だからなんでそんな不服そうな顔すんだよ……」

「あ、ありがとう、カズヤ……」

「え? い、いや俺は別に……いいんだよ! 気にすんな!」

「ぱしゃぱしゃぱしゃ!」

「いや、照れ隠しにフラッシュ焚かないでくれる!?」


 まあ、何はともあれ何も無くて良かった!

「何も無くて? 良かったのかなあ?」

「坂本、もうじき日も暮れる。 獲物を探すには不利だし、俺たちもそろそろ下山しないと迷って山から降りれなくなる。 ツチノコ探しは次の機会、だな」

「そうですねえ、はあ……」

「そんなに落ち込まないでユウちゃん。 ツチノコ、学園の裏山、カズちゃんの転落、救出劇、これだけでも十分記事ができるわ」

「うわ、マジっすかミナさん!」


「ところで……」

「ん? どうした河野?」

「部長の隣にいるその子は誰ですか? ずっと気になってたんすけど」

「ああ、そういえばさっきから私も気になってたのよ。 誰?」

「おっとすまん! まだ紹介が遅れてたな!」

「頼みますよタミさん!」

「いやいや、何か色々仕方なくだなあ」


改めて紹介しよう! この雑誌部が気になってるらしくて、雑誌部の部活内容の説明と入部希望がてら体験入部をしてもらった。 名前は――。




    ※


『学園の裏山にツチノコ現るッ!? 裏山の危険と自然の脅威!』


――我々取材班は急遽現場に向かった! この日本に古来より生息すると言われている幻の蛇ツチノコ! しかし、大自然は好奇心だけでは到底敵わない存在だった!

我々取材班は適切な装備ももたず、恐る恐る裏山に入る。 聞こえるのは鬱蒼とした木々のこすれあう音と鳥の声……そして、遠くからは得体の知れぬ獣の声?

まさか、この都会の山に野生の熊が? はたまた猪か? 

取材班の心拍数は極限まで上がっていた。 幻の蛇ツチノコはどこだ!? そしてとうとうその痕跡を発見する! 我々の目の前の地面に、明らかに蛇よりも大きい胴体と思われる這い跡を発見したのだ! アマゾンのような奥地には二メートルを超える大蛇が居るという。 だがここは日本だ。 そんなでかい胴体を持つ蛇などいない!

取材班の一人は直感する! 「奴は近い……!」 そして這い跡を追跡すること十五分。

その存在は確かに我々の前に現れた! 生憎カメラで収める前にこちらの存在に気付かれてしまい逃走を図られたが、取材班の一人が逃がさんとばかりにツチノコを追う!

林を抜け、その先のツチノコの元へと……! 幸い、逃げ足はそれほど早くはない。

しかし――奴は狡猾だった。 そう、ツチノコは知能が高いのだ。 一説によると、言葉を話すという情報もあるほどだ。

あと少しでツチノコを捕まえられる! そう思った瞬間、追う取材班の一人が足をすくわれた。 すぐ下に大穴があったのだ。

一足遅く現場に到着した他の取材班たちは瞬時に理解した。

『ツチノコの罠に嵌められたのだと』

大穴は写真で確認してほしい。 下にはツチノコを取り逃し悔しみの表情で我々を見る取材班クルトンカズヤ氏の姿が。

幸い、彼に怪我は一切なく事なきを得たが、我々取材班は思った。

『これは自分たちツチノコを狙う……そして山と自然を軽んじる愚かな人間への警告』なのだと……。

我々取材班は今回はツチノコをそのカメラにおさめる事は出来なかった。 しかし。

我々のUMA捜索活動は終わらない。 いつの日かファインダーの向こう側のそいつを捉えるまで、我々『めくりた』の活動は続く!

読者からの情報提供求ム! ※取材班は特別な許可を得て取材をしています。 裏山は危険なので決して立ち入らないようにね!  



「中々いい出来だな。 手に汗握ってしまったゾ」

「今回はちょっとしたフェイクも自然に織り交ぜられた。 レンちゃんの写真もお見事」

「そういえば部長」

「ん?」

「先日一緒に居たあの子はどうですか? 入部してくれそうですか?」

「ああ、なんかもうちょっと考えるそうだ」

「まあ無理もないかあ、初日から結構ハードな経験してるからなあ。 河野くんが落ちなければ~」

「ええ! 俺のせいっすか!?」

「あったりまえじゃん。 あんな穴なんかに落っこちて、うわ! 危険な部活! とか思ったかも、いや絶対そうだわ」

「あるある、ぱしゃぱしゃ」

「まああれだ。 気長に待とうじゃないか。 まだあと一年もある」

「もう、一年よ部長。 そろそろ本格的に部員引き込まないと、次のシーズン存続出来ないんだから」

「むう、それもそうだナ」


雑誌部『めくりた』の奮闘は続く……。

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