④ マルス、失望される
【マルス視点】
俺たちは今、鉱業都市エルキナの北にあるザンザス大森林にいた。ここを抜けた先にある廃鉱山にヴァンパイアどもが住み着いてて、
俺には原作知識がある。いちいち聞き込みなんてする必要はねぇし、時間がもったいねぇ。俺は早くイベントをクリアして、こいつらを味わいてぇんだ。
しっかし、ここは草木が
とっととヴァンパイアどもを片付けて、おさらばしたいところだ。
「ちょっと、マルス!」
「あん?」
後ろから非難めいた声が聞こえてきたので振り返る。まず真っ先に目に入ったのはシエラだ。どういうわけか両目をつり上げていやがる。
「なんだ?」
「なんだ、じゃないわよ! どういうつもり!? 一人でどんどん先に進んでいくなんて!」
「は?」
「こっちは
そう
「おい、なに座ってんだよ! このパーティのリーダーは俺だぞ! 俺の指示なしに勝手な行動すんじゃねぇ!」
俺が声を荒らげると、オフィーリアが息を整えてから口を開いた。
「申し訳ありません、マルスさん。一刻も早くヴァンパイアを打ち倒し、
鈴を転がすようなキレイな声で懇願してくる。上気して赤く染まった顔がなんとも色っぽい。汗で僧衣が体に張りつき、ムチムチボディがさらに強調されてやがる。
そんなエロい表情と恰好を見てたら俺のイライラはどっかへ行っちまったぜ。その代わり、ムラムラしてきちまったがな。
「……ちっ。しょうがねぇな。今回だけだぞ」
「ありがとうございます」
ふっ、決めたぜ。最初にこの女を味わわせてもらおう。
ターゲットを定めた俺は、近くの木に寄りかかると上機嫌で鼻歌を奏でた。
休憩を終えて再び歩き出すと、間もなくして俺たちは魔物の群れに遭遇した。
「蚊を一回り大きくしたような魔物たちですね」
「モスキートだな。Eランクの魔物だ」
「あたし、こういうちっちゃい
「……」
オフィーリアが注意深く観察している。シエラはブツブツと文句をたれていやがる。リンは無言で刀を構えた。
俺は、そんな三人よりも数歩前に出る。
「お前らは手を出すな。俺一人で十分だぜ」
どれ、ここで軽く俺様が活躍するところを見せてやるとするか。華麗な剣さばきで魔物どもを一掃するさまを。
間違いなく、この三人の視線は俺に釘付けになるだろうな。容易に想像できるぜ、お前らが羨望の眼差しを向けてくる光景がよぉ。
くっくっくっ、その快感を味わうためだけに一人でレベル上げを頑張ったんだ。こいつらを仲間にしてからだと、一緒にレベルが上がっちまって俺が優位に立てねぇもんな。
「マルスさん、敵は五体もいます。どうかお気をつけて」
「はっ、心配ねぇよ。しょせんEランクの魔物だ」
俺はオフィーリアの言葉に、ひらひらと手を振って
「おりゃっ!」
スカッ
「あん?」
そばにいた一体のモスキートに振るった刃が
なんだ? こいつ、俺様の攻撃を避けたのか? ……いや、んなはずはねぇ。目の錯覚だろ。たまたま外れただけだ。問題はねぇ。
気を取り直し、俺はもう一度スラッシュを繰り出した。
「うりゃあっ!」
スカッ
「は?」
立て続けに二回も外れた。
おかしい。
相手はEランクの魔物だぞ。素早さは俺の方が上だろ? 素早さが高い方の攻撃は相手に命中しやすいはずだ。だってのに、なんでこんなに
不審に思い、俺は目を細めてモスキートを観察してみる。
「……ん? ……あっ!」
そこで俺は気づいちまった。薄暗くて判別しづらかったが、目の前の魔物の体色がモスキートとは微妙に違っていることに。
「こいつら、モスキートじゃねぇ! モスキートエースだ!」
モスキートエースはDランクの魔物だぞ! なんでここで出現すんだよ!? ザンザス大森林ではヴァンパイアよりランクの低い魔物としかエンカウントしないはずじゃなかったのかよ!?
ブゥゥゥゥゥゥン
「いてっ! いててて!」
モスキートエースどもが一斉に群がってきた。防具で守られていない部分や防具の隙間を執拗に攻撃される。皮膚にぴったり張りついて血を吸いやがる。
モスキートエースは吸血と同時に毒を注入してくるんだ。その毒の効果で刺されたところがプクッと腫れあがり、メチャクチャかゆくなった。
だが、
俺は歯を食いしばり、患部に手を伸ばしそうになる衝動を必死にこらえた。
「こ、この野郎! ナメたことしてんじゃねぇぞ!」
出現するはずのねぇモスキートエースがいるってだけで、ただでさえ混乱してるってのに、よくも好き放題やってくれたな! 完全に頭にきたぜ! もう許さねぇ! なりふり構っちゃいられねぇ! 俺様を怒らせたことを後悔させてやらああああああ!
俺は無我夢中で攻撃しまくった。
こいつらは素早さが並外れて高いが、HPと守備力は低い。一発でも当たれば倒せるんだ。
下手な鉄砲もなんちゃらの精神で、俺は間断なく攻撃し続けた。
【シエラ視点】
うわぁ、かっこ悪っ。あんだけ自信満々に向かっていったのに大苦戦してんじゃん。
なにが『お前らは手を出すな。俺一人で十分だぜ』よ。
みっともなさすぎて
ちょっと顔が好みだったからついてきたけど、とんだ期待外れだわ。
女の子を気づかうこともできないし、えらそうに威張り散らすし、容姿の他に良いところが一つもないもの。
ヴァンパイアの討伐が済んだらそれまでね。あんたとのパーティは解消させてもらうわ。
【オフィーリア視点】
どうやら、似ている魔物と勘違いしていたようですね。
いけませんね。パーティのリーダーがそんな
リーダーは冷静に注意深く敵の特徴を把握し、そのレベルを推し量ることができなければなりません。もし、敵のレベルを見誤れば、自分の命だけでなくパーティメンバー全員の命まで危険にさらすことになってしまいかねないからです。
現時点のマルスさんにはリーダーとしての素養がないと言わざるを得ませんね。
今はどうにかなりそうですが、今後もこの調子では心配です。
魔王を倒すという壮大な目標を掲げている御方なのですから、もっとしっかりしていただかないと。
【リン視点】
この男、かなり身体能力が優れている。
剣筋も悪くない。
それらは評価に値する。
しかし、……残念なことに心が未熟だ。
道中、この男が我々に向ける
こんな男が果たして、
だとすれば、
======================
最後までお読みいただきありがとうございました。いかがでしたでしょうか?
「期待できそう」「面白い」「続きが読みたい」などと感じていただけましたら、フォロー&★★★(星3つ)の評価にて応援してほしいです。
フォロー&星をいただけると喜びで筆がはかどります。最後まで書ききるモチベーションに繋がります。
レビューを書かなくても星だけの評価を入れられて簡単なので、ぜひお願いします。下記リンクからどうぞ↓
https://kakuyomu.jp/works/16817330649072270631#reviews
※次回、マルスはヒロイン全員に愛想をつかされます。お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。