ゲーム序盤で命を落とすモブに転生したので、原作知識を活かして死にイベントを潰したら勇者のハーレム要員に次々と惚れられた件 ~ヒロインたちは俺についてくるそうだ。無能クズ勇者は一人で魔王討伐してくれ~

マルマル

序章:ゲーム世界転生

① 余命5分の雑魚モブに転生した


「よし! これで15周目クリア!」


 月曜日の午前3時。ボロアパートのリビングで俺はゲームをしていた。大人気アクションRPG―――【Brave Fantasy ~勇者の起源~】だ。


 その概要は勇者が魔王を倒すというシンプルなものだが、ストーリーは重厚で奥深い。それだけでも十分に魅力的なのだが、このゲームが人気を博した最大の理由は別にある。


 それはずばり、【結婚システム】!


 いくつかの条件を満たすと、仲間の女性キャラと結婚することが出来るのである。なお、主人公以外のメインパーティキャラはすべて女性だ。そのキャラデザは実に美麗で、画面越しに彼女たちを眺めるためだけに本作をプレイする人もいるほどなのだ。もちろん、俺も彼女たちに夢中になっている男の一人である。


「ふぃ~。これで全てのヒロインたちを攻略できたなぁ」


 俺がこのゲームを15周もしたのは、他でもない。全ヒロインとの恋愛シーンや結婚シーンを見たかったからだ。


 純度100%のブラック企業に勤め、毎日ボロ雑巾のように酷使される社畜の俺だが、この日のためだけにただでさえ少ない睡眠時間を削って毎日コツコツと進めてきた。


 そうするだけの価値があった。ストーリーもアクションも恋愛も高クオリティな神ゲーだからな。


「いやぁ、実に素晴らしかった。ふふっ、頑張った甲斐があった。……っと、もうこんな時間か」


 ちらりと時計を見た瞬間、ぐいっと現実に引き戻された。6時間後には仕事だ。休日は徹夜でプレイしていたから、さすがに少しでも寝た方がいいだろう。


 そう考えた俺は布団に入り、就寝しようとした。


 ……と、その時だった。


 っ!? な、なんだ!? 急に胸が……胸が半端なく痛い!


 まるで誰かにものすごい力で心臓を握られているような尋常じゃない痛みだった。


 ちょ、ちょっとまってくれ! これ、やばいって! 命に関わるヤツなんじゃないか!? ああくそっ、目が霞んできやがった! だ、誰か助け……ぐっ!?


 いっそう激しくなる痛みに唸りながら胸を押さえ、空いている方の手でスマホを操作しようとする。


「うぅ……は、早く……救急車……」


 しかし、スマホを持つ手に力が入らない。やがて、だんだんと気が遠くなって―――




◆ ◇ ◆




「……ん? ……んん!?」


 気がつくと、俺は知らない場所に立っていた。さっきまでボロアパートの部屋にいたはずなのに、なぜか外にいる。しかも、太陽はもう頭上にある。ついさっきまで外は真っ暗だったのに。さらに、右手には木製の槍なんかを持っているし。


「な、なんだなんだ!?」


 俺はキョロキョロと周囲に視線を巡らせてみる。


 なんと表現したらいいのだろう? 昔話に出てくるような村といった感じだろうか? 木を組んだだけの簡素な家々が点在し、村の中央には大きな井戸がある。村の周りは木柵で囲まれ、そこを越えると巨大な樹木が生い茂る森が広がっていた。


「あれ? ちょっとまてよ。……ここ、見覚えがあるぞ」


 注意深く観察してみると、ついさっきまでプレイしていたゲームの初期村のグラフィックにそっくりだと気づいた。


「お、おいおい……まさか俺……ゲームの世界に……」


 俺はそこで言葉を切った。必死にブンブンと頭を左右に振って、自分の考えを否定する。


 きっと夢を見ているだけだ。そうに違いない。どっかのファンタジー小説じゃあるまいし、ゲーム世界に転生やら転移やら、んなことあるわけないわな。休日に徹夜でゲームしてたからこんな夢を見てしまったんだろう。


「……しかし、夢にしてはすごくリアルだよな。肌をなでていく生温かい風も、耳に心地よく届いてくる小鳥のさえずりも、草木の青臭い匂いもさ。それに、目に飛び込んでくる風景も色あざやかだし………………」


 いや。


 いやいや。


 いやいやいや。


 あまりにもリアルすぎるって。


 触感も匂いも音も色も、夢にしては鮮明すぎるって。


「……そ、そうだ。夢なら痛みは感じないはずだよな?」


 そう思った俺は、これが夢なのだと確信するために自分のほっぺたをギュギュギュッとつねってみた。


「っ!? いっっってぇぇぇ!」


 だが、思惑とは裏腹にメチャクチャ痛かった。


「お、おいおい、ということは……ほ、本当にゲームの世界なのかよ!?」


 マジか。こんなこと、本当にあるんだなぁ。


 ……ってことは俺もしかして、あのまま心臓発作かなんかで死んだってことか? まあ、ただでさえ仕事仕事で過労ぎみだった上に、寝食を惜しんでゲームし続けてきたから、それがたたったのかもしれないな。


 いや、別にショックではないけれども。むしろ、大好きなゲームの世界に転生できてラッキーなんじゃないか? これでもう二度と、あんな人を人とも思ってないような会社で働かなくていい上に、ずっとゲームして過ごせるようなもんだしな。


「ふむ、そう考えたら……すげぇ幸せだな、おい! ははっ、やったぜ! ゲーム世界転生バンザイ! ヒャッハー! ……お? そういえば今の俺って、主人公になってんだよな?」


 ふと気になり、井戸のおけすくった水に自分の姿を映してみる。


「……うん?」


 切れ長の透き通るような青い瞳……ではなく、アーモンド型の黒目。陽光を反射してキラキラときらめく銀色の長髪……でもなく、くすんだ灰色の短髪。鼻も高くはない。イケメン主人公とは似ても似つかない、パッとしない顔の少年がそこにいた。


「ええ、主人公じゃねぇの!? ……つーか、誰だっけ、こいつ?」


 なぁんか、どっかで見たことあるよなぁ。あ~、喉元まで出かかってるんだけどなぁ。


「ねぇ、何してるの? こんなところで?」

「え!?」


 俺がウンウンうなっていると、唐突に背後から声をかけられた。驚いてそちらに首をグルンと巡らせる。すると、すぐそばに一人の女の子が立っていた。


 俺は両目を見開いた。


 そこにいたのは、目の覚めるような美少女だったからだ。でも、なんとなく見覚えが……あっ!


「アメリア!?」


 そうだ、俺はこの子を知っている。ヒロインのうちの一人、アメリアだ。彼女の3Dグラフィックを実写化したような容姿をしているから、おそらく間違いないだろう。


 主人公・マルスの幼馴染で、ワーウルフという狼の獣人だ。頭からは犬耳が突き出し、腰の下あたりからフサフサの尻尾が生えている。栗色の長髪にハシバミ色の瞳をしていて、クールそうな印象を受ける。


 けれど、性格は明るくて素直で、俺がもっとも気に入っている鉄板のメインヒロインだ。年齢は十五歳。そして、胸がとても大きい。これ重要。


「ところでエリック……エリック? おーい!」

「……え?」


 エリックって、俺のこと?


「なにキョロキョロしてんの?」


 周りを見回してみたが、近くには他に誰もいない。どうやらそれが俺の名前らしい。


 ん? まてよ。……エリック……エリックって……ええ!? もしかして、あのエリックなのか!?


 自分の正体が判明して、背中にイヤな汗が伝う。血の気がサーッと引いていく。


 エリックってのは、アメリアと同じく主人公・マルスの幼馴染だ。といっても、ともに旅をする親友ポジションなどではなく、プロローグの魔王軍襲来イベントで死ぬモブだ。魔王軍に対するヘイトを稼ぐためだけの存在。完全なる、やられ役だ。


 なんてこった、マジかよ。主人公じゃないってだけでもテンションだだ下がりなのに、よりによってゲーム序盤で命を落とす村人に転生するなんて。


「どうしたの? 顔色が良くないわよ? 具合でも悪いの?」


 俺が頭を抱えていると、アメリアが心配そうに顔をのぞき込んできた。吐息がかかるほどの距離にまで接近されてドキッとした。あわてて後ずさる。


「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」

「そう? ならいいけど」

 

 ふぅ、あぶねぇ。俺って、女子に免疫がないから焦ったわ。しかも、ゲーム画面越しに眺めていた時よりリアルで見た方がずっと可愛いから、心臓が飛び出すかと思ったぜ。


「あ、そうそう、さっき言いかけたことなんだけどさ」

「ん?」

「マルスがね、朝早く一人で森に入っていったわよ。でも、あなたたちって、二人でイノシシ狩りに行く約束してなかったっけ?」

「えっ!?」


 お、おいおい、今ってもしかして、死にイベントが発生する直前なのか!?


 ゲームでは、エリックとマルスは早朝に二人で食料調達のために森へ出かけようと約束していた。けれど、エリックは寝坊してしまい、約束の時間に間に合わなかった。エリックがいつまでたっても起きてこないから、マルスは仕方なく一人で森へ入っていった。


 それからしばらくたって、目覚めたエリックが慌ててマルスを追いかけようとするのだが、そこへ魔王軍が攻めこんでくるんだ。


 この襲撃で助かるのは不在だったマルスと、重傷を負いながらも奇跡的に一命をとりとめるアメリアだけ。


 ……く、くそっ、冗談じゃないぞ! せっかく大好きなゲームの世界に転生できたってのに、またすぐに死ぬことになるだなんて! イヤだぞ俺は!


「ねぇ、何あれ?」

「っ!?」


 ち、ちくしょう! おいでなすった!


 アメリアの視線を追って空を見上げると、無数の飛行物体が確認できた。それらはどんどん高度を下げて近づいてくる。


「え、うそ……あれって、まさか……レッサーデーモン!?」

「ああそうだよ、魔王軍の尖兵だ!」


 俺はそう答えるなり、驚いて硬直しているアメリアの手を取って駆け出した。


「みんな逃げろ! 魔王軍が攻めてきたぞ! 早く逃げろ!」


 走りながら、村中に響き渡るほどの大声で呼びかけた。やがて、村人たちは異常事態に気づいて悲鳴を上げ、逃げ惑い始めた。


「ふざけやがって! 絶対に生き抜いてやるからな!」


 アメリアをつれて森の木々の隙間を縫うように移動しながら、俺は叫んだ。




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 最後までお読みいただきありがとうございました。第一話、いかがだったでしょうか?


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