第9話 おでかけ



「今日は、素敵なお出かけ日和ね!」

太陽が真上に上り、燦々と街を照らすある日の午後。

親友の白猫と共に街の外れへと出かける。

「お!今日はどこに行くんだい?」

道中、魚屋のおじさんに声をかけられる。

いつも美味しいお魚をたくさんくれる。

「町外れの草原に行ってくるわ!」

歩き進めながら、おじさんに答える。

「そうかい。気を付けて行ってくんだぞぉ!」

手を振りながら、送り出してくれた。

威勢のいいおじさんの声が、なんだかとても嬉しかった。

「えぇ!ありがとう、おじさん。」

手を振り返し、進んでいく。



お気に入りのりんごのパイを、お気に入りのすみれ色のバケットに入れて。

お気に入りの、可愛い小花柄のワンピースを着て、赤の靴を履いて。

彼女も可愛い赤のリボンをつけている。

今日は上手にちょうちょ結びができた。

「〜♪〜〜♪」

自然と鼻歌が、漏れる。

それに合わせるように、足運びも軽くなり、猫と共にスキップで向かう。

彼女はとても気まぐれな猫なのだけれど、こういう時は一緒に楽しんでくれる。

とても賢い子なのだ。



街の外れには、大きな草原が広がっている。

「着いたわ!」

目の前の草原には、小さな花々が咲いている。

すみれや、たんぽぽ、シロツメクサ―

色とりどりの小さな花が、風に吹かれ、踊っていた。

「さて、先にりんごのパイを食べましょうか!」

「ニァー」

もう腹ペコだとでもいうように、元気よく返事が返ってきた。

「ふふ、あなたも早く食べたいのね!」

草原の上に檸檬色の、ピクニックシートを広げる。

緑の中に広がる黄色。

「さ、いただきましょ♪」

表面がサクッとした、パイ生地の中に、ゴロゴロとたくさんのりんごが入っている。

口の中いっぱいに甘いりんごの香りが広がり、一瞬で幸せな気持ちに包まれる。

「ん〜♪美味しいわ!」

―さすが私!なんて、思いながら、パクパクと食べすすめる。

彼女は黙々と、お上品に食べている。

ほらね、賢いでしょ?


少し多めに作ったパイをあっという間に食べてしまった。

「さて、食べたあとは動かないとね!」

ランチの後片づけをして。

これだけ広い草原。

どこまで行ったって、終わりが見えない。

「ねこさん!あっちに可愛いお花が咲いているわ!」

可愛らしい、小さな花と、三つ葉をあわせて白猫と自分の花冠を作ったり、どこまで行けるのか走ってみたり、木陰に隠れて休憩したり……


そうしているうちに、日が傾き始めた。

「あら、そろそろ帰りましょうか?月が登る前にお家に帰らないと。」

―月が登ったら、悪い狼やお化けにさらわれちゃうのよ―

そんな事を言いながら、街へと帰る。

「お嬢ちゃん、おかえり!」

「ただいま、おじさん。」

今度は、パン屋のおじさん。

お店のお片付け中みたい。

「楽しかったか?」

「えぇ、とっても!」

―今度、おじさんのパンを買いに行くわ!

そんな約束をして、家へと帰る。

「ただいま!」

「ニャー」

今日も、何も無い、普通の日。

それでも、毎日が楽しいのは、この街がたくさんの光に溢れているから。

明日は、どこへ行こうかしら。



お題:りんご・すみれ・月

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