第4話 憎むべき上級国民
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……!」
村の中を進むと、小太りの男が私の前に歩いてきた。
無駄な贅肉を揺らし、額から伝う汗がとても印象的だ。
その豊満な肉体が、弱者を虐げ続けた結晶かと思うと、非常に不愉快な気分になる。
「……ノーマン=グリル=レドルフォン名誉代表、で合っておりますでしょうか?」
近寄るその男に尋ねると、薄ら気味の悪い笑みが浮かんだ。
「その通り! わしこそが、映えある王国奴隷商を設立した創設者にして、名誉代表。ノーマン=グリル=レドルフォンであるぞ!」
やっぱり、当たっていた。
けれども、一目見ただけで、彼が私の探していた人物であるとすぐに分かった。
何故なら、この村にここまで肥えた人間は……他に存在していない。
この村にいる人は、薄い布地の服を着た、骨と皮だけで構成されているような不健康な人ばかり。
この村の民というのは、全員がこの男の奴隷だからだ。
奴隷契約を結ばれているので、逃げることもできない。
服の下に隠れていたが、奴隷たちの肌には、奴隷特有の烙印が見えた。
彼らはただ、この場所で手足となり、死ぬまで働かされる。
女性に関しては、この男の情事に使われたり、乱暴をされたりするための人形のように扱われる。
「……ふぉっ、君はわしを探していたのかなぁ? だからこの村に来たのだろう?」
嫌らしい声音は、背筋をゾクリと震わせる。
聞けば聞くほどに反吐が出そうだ。
私は募る嫌悪感を表に出さぬように心掛けて、ゆっくりと頭を下げた。
「その通りです。ノーマン名誉代表。今回は、奴隷商の経営についてお話をするために、参った次第です」
「ふぉっ……なんとなんと、こんなところまでわざわざ来てくれたと?」
「はい」
「ふぅむ、ならば、わしもそれ相応に丁寧に接っさんとなぁ……」
下心丸出しの視線を感じる。
目の前の男は、確かに私が探していた人間だ。
そして……私が大嫌いな人種。
『上級国民』
どれだけ横暴な振る舞いをしようとも、彼らを咎めることはできない。
それは、法律などで決められているというわけではないが、暗黙の了解により、『上級国民』は、国の保護下に置かれている。
例えば、彼のような『上級国民』が犯罪を犯したりした場合。
普通なら罪に問われる場合でも、それを揉み消したりが可能になっている。
彼らは、特別な存在とされ、国内で大きな利権を得ている。
──だから、この男も罪に問われていないのだ。
奴隷にしていい人間は、決まっている。
その定義から外れた者を無理やり奴隷に落とす行為は、世界的にに禁止されていることだ。
でも、目の前の男は、それをしている。
国中の若い女子供を攫っては、奴隷としての契約を強制的に実行する。
それが禁止されていると知っていても、自分はその罰の対象にならないと知っている。だから、禁忌を犯しても平気な顔して生きているのだ。
「……旅で疲れているだろう。良かったら食事でもしながら、経営についてゆっくり話そうではないか! ……ふぉっ!」
汚らわしい。
その笑い声が本当に耳障りだ。
ノーマンから気持ち悪い視線を向けられ、私は気分が悪くなった。
──この男は、私が最も殺したい人種だ。
「……はい。ぜひとも、そうしましょう」
大人しくノーマンの言葉に従ったが、背中で握りしめた拳からは、僅かに血が流れていた。
許すべきではない人間を前にして、私は殺意を必死に抑える。
制裁は、殺すだけじゃない。
死ぬ以上に苦しい経験をさせることこそが、この男にピッタリな罰となる。
「ふぉっ、やはり女性と話すのは気分が良いのぉ!」
特に罪悪感の欠片もないやつには、途方もないくらいに苦しい想いをさせてやらなければ、私の気が済まない。
──だからこそ私は、この屑な男に対して、然るべき制裁を執行する。
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