Tips編

斬新なネタが書きたいがどうすればいいか?(題材探しのコツ、およびマンネリ化防止など)

 Q.斬新なネタを考えたいのですが、いい方法はありますか? 既存のネタと組み合わせたりを考えていますが中々うまくいかず……

 A.読者の視点になって考えてみてください。あなたは斬新なネタを読みたいでしょうか? 単純にあなたが(今の題材に飽きて)斬新な何かを書きたいなと漫然と思っているだけなのではないでしょうか。

 仮に斬新なネタを書きたいのだとすれば、私がかつてうまくいった方法は「尖らせる(面白いと思ったエッセンスを抜き出してそれに特化する)」という方法でした。参考までに。






 またもや冒頭に結論を書いてしまいました。

 しかもこれは例の如く、「答えのない質問」です。一生自問自答し続けないといけない永遠のテーマですし、これを一概に「こうすればいい!」と言ってる門外漢(※作家じゃない人)がいたらちょっと疑った方がいいです。


 斬新なネタ。私も思いついてみたいものです。

 よく車輪の再開発という言葉を目にしますが、物語作りにおいてもこれは往々にして陥りがちな罠です。それだけ、過去に人間が生み出してきた作品は膨大で多様なのです。

 "過去の名作"と呼ばれている作品だけでも星の数ほど存在するので、それらをきちんと噛みしめていくだけでも相当引き出しが増えることでしょう。


 一旦ここで、本当に欲しいものは何なのか考え直してください。

 1)マンネリを解消できるネタ

 2)今までにほとんどなかった題材

 3)かつてないセンセーショナルな発想で、後から「これは凄い!」とちやほやされるようなネタ


 3)は方法論に頼るのを諦めて、地道に頭をひねりましょう。

 2)は頑張って悩みましょう。

 ほとんどの場合、1)を求めているだけなのではないかな、と思っています。斬新を求めているわけではなく「単なるマンネリ解消」が本当に欲しかったものなのです。


 1)の場合:

 マンネリの解消を題材に求めても、状況が改善しない可能性があります。

 題材が悪いのではなく、キャラ造形、展開、世界観、キャラの掛け合い、仕込んでいる小ネタ……それらの幅が狭くてありきたりになっている可能性があります。


 例えば、

「宝石の国」(市川春子)

「チェンソーマン」(藤本タツキ)

「あげくの果てのカノン」(米代恭)

「メイドインアビス」(つくしあきひと)

 はどれぐらい"斬新"な題材でしょうか。どれもセンセーショナルで、抜群にセンスを感じて、恐ろしいほど面白い作品だと思いますが、あなたがやろうとしている「斬新探し」に引っかかりましたか?


 上記の作品は、意外とありふれている題材(ポストアポカリプス世界で人外主人公、デビルハンター、異形の生命体の侵略、ハイファンタジー)を叩き台に作られています。題材そのものが斬新だったわけではないです。


 キャラ造形、展開、世界観、キャラの掛け合い――随所に一種の強烈なセンスを感じる作品群ですが、あなたが探している「斬新な題材」の探し方の方向性は、彼らを見つけることができましたか?


「いやこれらの作品はセンスがいいんですよ……!」と思ったあなた!

 そうです。センスが良ければ、題材を何倍も面白く活かせるのです。

 そのセンスの良さを、キャラ造形に感じましたか? 展開に感じましたか? 世界観に感じましたか? キャラの掛け合いに感じましたか?

 それをかみ砕いて、言語化してみてください。あなたが感じた魅力はどこにあったか、それを分析してみてください。そこにマンネリを打破するヒントがあります。






 ちょっと閑話。


 イギリスの女優・脚本家のフィービー・ウォーラー=ブリッジが広めたとされる理論(※発案者かどうかは不明)に

「サプライズニンジャ理論」

 というものがあります。詳細を述べますと「あるシーンで突然ニンジャが現れて、全員と戦い始める方が面白くなるようであれば、それは十分によいシーンとは言えない」……というものです。

 これはかなり面白い示唆で、「筋が通っているが退屈でつまらない」シーンを浮き彫りにし、「無茶苦茶な展開だが勢いがあるし破天荒で面白い」シーンへ、よりダイナミックな作品へ引き立てるいいアドバイスだと思います。

(もちろん一番いいのは、「筋が通っていて、勢いがあるし破天荒で面白い」シーンであるのは間違いありません)


 なお、日本における浄瑠璃や歌舞伎では、展開や舞台設定に一切関係のないはずの源義経がいきなり「現れ出たる義経公!」の声と共に唐突に現れ、「さしたる用もなかりせば、これにて御免」とただ引っ込むだけの「お約束」がありました。これが客に大受けして恒例行事となっていたようです。

 これもまた、お約束の面白さです。ちょっとハチャメチャでも、「お約束化」すれば作品の楽しみが一つ増えます。


 異世界ファンタジーをよく書く私ですが、私の持っているお約束パターンもいくつかあります。

 例えば、

 ・「説明しよう!」の声と共に突然解説するちびキャラ

 ・「この勝負、合意と見てよろしいですね?」とか「オレでなきゃ見逃しちゃうね」とか言って突然勝負を詳しく解説する謎のおじさん

 ・頓珍漢なことわざを「これぞオリエント・ジャポニズムのワビサビ」とか締めくくる

 ・いきなり差し込まれる掲示板回

 ……etc

 です。当然たくさんのお約束を持っていた方が面白くできる(場面転換にもちょうどいいし世界観説明や伏線消化にもバッチリ)ので、こういったお約束の種類を増やしましょう。






 もうひとつ閑話を。


 不安感やハラハラ感を演出することで、マンネリ化を打開できるヒントになるのではないでしょうか。サスペンスという言葉は本来、不安や緊張を差す言葉です。


 ではハラハラするシーンをどうやって作ればいいでしょう?

 ピンチにすればいいだけか? というとちょっと違います。


“サスペンスの神様”と称されたアルフレッド・ヒッチコックは「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」にてこんなことを口にしたとされています。


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 今、わたしたちがこうして話し合っているテーブルの下に時限爆弾が仕掛けられているとしよう。しかし、観客もわたしたちもそのことを知らない。わたしたちは何でもない会話をしている。と、突然ドカーンと爆弾が爆発する。観客は不意をつかれてびっくりする。これがサプライズ(不意打ち、びっくり仕掛け))だ。(中略)


 では、サスペンスが生まれるシチュエーションはどんなものか。観客はまずテーブルの下に爆弾がアナーキストかだれかに仕掛けられたことを知っている。爆弾は午後一時に爆発する、そしていまは一時十五分まえであることを観客は知らされている。(中略)

 これだけの設定でまえと同じようなつまらないふたりの会話がたちまち生きてくる。なぜなら、観客が完全にこのシーンに参加してしまうからだ。スクリーンのなかの人物たちに向かって、『そんなばかな話をのんびりしているときじゃないぞ!もうすぐ爆発するぞ!』と言ってやりたくなるからだ。最初の場合は、爆発とともにわずか十五秒間のサプライズを観客に与えるだけだが、あとの場合は十五分間のサスペンスを観客にもたらすことになるわけだ。つまり、結論としては、どんなときでもできるだけ観客には状況を知らせるべきだということだ。サプライズをひねって用いる場合、つまり思いがけない結末が話の頂点になっている場合をのぞけば、観客にはなるべく事実を知らせておくほうがサスペンスを高めるのだよ。

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 こちらは今でもなお通用するテクニックで、極めて秀逸です。

 私も「気付かないうちに、観客だけが事実を知っている状態を続けて、事態が深刻化していきハラハラする」展開を書くことがしばしばあります。

 WEB小説なら、次のページをめくりたいという感情を掻き立てるし、書籍化された後も物語に飽き飽きしないスパイスになりますからね。


 ただ一つだけ注意を。

 WEB小説の読者には、「なんで爆弾に気づかないんだ!」というような気持ちが先走って、ついつい荒れた感想を送る人もいます。

 ハラハラしたシーン、緊張を強いられる展開、そういったシチュエーションに対して「こんなことに気付かないまま大変な事件になんて、《登場人物》は間抜けだ! そしてそんな雑な展開しか思いつかなかった作者は稚拙だ!」と熱心な読者から手厳しいエールが来ることがあります。

 ですが、作者であるあなた本人がサスペンスが必要だと思ったなら、めげないでください。間抜けさや稚拙さの言い訳をだらだら書くより、さっさと次の展開を書いた方がよいでしょう。

(※間抜けや稚拙でないと一言言い返してやりたいこともしばしばありますが、そんなことを書けば書くほど全体のテンポが崩れることがあります。淡々と次に進みましょう。大体、とんちきなコメントは、スクショを取られて作家同士の飲み会でネタにされているものです。かかずらうものではないです)





 ◎まとめ:

 ・欲しいものは本当に斬新なネタなのか、マンネリ解消がしたいだけなのかをいったん考える

 ・マンネリの場合①:キャラ造形、展開、世界観、キャラの掛け合い、仕込んでいる小ネタ……を面白くする

 ・マンネリの場合②:「サプライズニンジャ理論」でつまらないシーンは削る、「お約束」を増やす、サスペンスを作ってみる


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