第6話ラストリゾート(真剣)
9月4日(土)20時 居酒屋みなみ
いつものようにアルバイト先である居酒屋みなみでいつもの常連さん達の時間になる。
「達也くん!賄いできたから休憩ねー」
「はーい」
本日の賄い、鳥竜田の甘だれがけ、ご飯と豚汁、お新香、実に美味そうである。いや美味い!!
「それで?アリアちゃんとの同棲生活は上手くいってるの?」
「ぐっふ!?ごほっ!ごほっ!いきなりっすね?」
「だって気になるじゃない?今お客さんいないしねっね?」
恋バナしたい乙女な店長は普段は美人、そして嬉々とした笑顔には可愛いさが混じる。つまりなにが言いたいかと言えば最強なんです。
「そうっすねー、朝は7時に起きてるのにどうしてだかギリギリになります。3日連続でアリアを引っ張って教室に滑り込みしたんで先生から『椎名を改心させれるのはお前だったんだな』って涙ぐみながら言われてその……あの時の避けられない空気が俺をっ!!」
そう学校は達也にとってアリアから解放されるユートピアとなるはずだったしかし僅か3日でその幻想郷は儚く崩れ去ったのだ。
「学校的にはアリア係って感じ?アリアちゃん可愛いから男子からやっかみもあるんじゃない?」
「……1学期ならそうでしょうが周りがなんとかしようとして6月には誰も触れようとしなくなったんです。そうすでにみんな諦めているんです!」
隣のやつ、後ろのやつ、前のやつみんな先生から言われアリアに真っ当に授業に参加させよう、遅刻を減らそうと力を尽くし散っていった。その記憶があるから誰も文句は言わない、言えば自分に火の粉がかかるからな。
「アリアちゃん……」
みなみが言葉を詰まらせた時お店のドアが開かれる。
「今日はまだ誰も来てないんかい?とりあえずいつものな」
「あっ!佐藤さんいらしゃい!生に唐揚げね」
「おう!達也くん休憩?なんかいつもより疲れてない?」
あははと乾いた笑いしか出てこない達也を見て佐藤はこれは相当参ってるなと思った。
「みなみちゃん俺から達也くんにおかず一品追加な!」
「はいはーい」
見かねた佐藤がみなみに追加注文する。そんな気遣いに達也は目を潤ます。
「佐藤さんありがとうございます」
「学校始まって休みボケか?そんなんとは無縁かと思っとったけど」
「いえ…世の中の理不尽は連鎖すると悟ったんです」
「あははー、達也くんね。アリアちゃん、ほらお腹すかして倒れた子いたでしょ?あの子のお母さんにバイト代出すから様子を見てくれって」
事実だが本当のことは言っていない、言えば肴にされるのは目に見えている。
「なるほどな、あの子はうちの子と同じ匂いがするから苦労しそうな」
「ん?佐藤さんのお子さんって?」
「ほら、こないだ話した。叩き出したが一人暮らしで破綻したバカ息子」
奇しくもアリアを拾ったあの日の会話だ。
「あの子は髪こそボサボサだったけど肌は綺麗だったでしょ?うちの息子もそうだけど出来ないわけじゃく、やらない人種だと思うんだよね?最低限のことはするけど基本無頓着、突然やりだしたかと思えばすぐ飽きる。きっと大変だと思うよ?」
達也は内心すげーと思った。アリアには家事等出来ることを聞いた。答えは一通り出来る。今日まで家事スキルの確認もしたのだが一般的のことは一通りこなすのだがいかんせん集中力が続かずに頓挫する。
「すごいっすね。正しくその通りです」
「はっは…なに達也くんの何倍も長く生きてんだ。人を見る目はあるつもりだよ?」
ただの呑んだくれだと思ってたなど口が裂けても言えない達也は密かに佐藤の好感度を上げた。
「可愛い子だったし、世話してるうちにくっついてるかもな役得役得!はっははは…」
ただの呑んだくれだった。達也は密かに佐藤への好感度を元に戻す。
「はい佐藤さんからのおかず一品は高級出汁をこれでもかと注ぎ込んだ。馬鹿みたいに高いだし巻きです!」
「ちょっ!?みなみちゃん、それいくらになるん?」
「冗談です。いい出汁使ったのは本当だけど値段は据え置きよ?」
「心臓に悪いわ!勘弁して、俺にも追加で…見てたら食いたくなった」
「まいどっ!!」
賑やかな居酒屋みなみでのアルバイトは達也にとって最後の楽園である。この楽園を守り通すことが出来るかはまだ誰にも解らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます