女子力ゼロのアリアさん

@hanikami

第1話 バイト帰りに(救急)

この春、中学校を卒業してついに高校生となった俺こと海堂達也はバイトをすることを条件に一人暮らしの許可をもらったのだ。


 母の知り合いの持っていたアパート(貸し出しをしないで倉庫がわりになっていた)をかなり安く貸してもらって高校生のバイト代でもそれなりの自由なお金が余るほどである。


 そんな好条件な一人暮らしの高校生活が始まったのだが当初思い描いていた薔薇色な生活とは無縁な、スタッフロールには生徒ABCと表記されるであろうごく普通の高校男子として一学期が終了したのだった。


「いらっしゃいませーーー!!」


「達也くん、とりあえずいつものちょうだい!後で佐藤さんくるから合わせて刺身盛りちょうだいな」


「ビール、枝豆、刺身後出し了解です。席はいつものとこ空いてます」


「あいよー!」


 達也はいつものように常連を捌いていく、バイト先である居酒屋みなみだ。一年ほど前に店主である郡山みなみさんが開店して軌道に乗ってきたところでバイト募集をかけた時に達也が見つけて即応募したのだ。コンビニバイトなどと違い同級生が揶揄いに来ないことなどもポイントが高い。


「達也くん、ここからは常連さんで埋まるから休憩はいちゃってー」


「はーい」


 午後8時過ぎになるとファミリー層が消えて、奥さんに相手されないおっさんどもが店に集まってくる。4ヶ月も続けていればもはや慣れである。初めはバックヤードで取っていた賄いも常連達と一緒に取るようになっている。


「達也くんも立派になったよな〜初めはみなみちゃんのお店に男子高校生なんてって思ってたがいやはや真面目で容量もいいときた。うちのバカ息子にも見習って欲しいよ」


「新田さんの息子さんは大学生っすよね?バイトとかしてないっすよね?」


「未だに小遣いせびってくるからな、いい加減叩き出したほうがいいかな?」


「新田さん…叩き出した後生活能力がないと余計大変なことになりますよ?うちの息子も似たような感じだったんですがキレて一人暮らしさせたら家賃滞納にゴミ屋敷…母ちゃんと自分と後始末する羽目に…そして自分は母ちゃんに追い出したことを怒られる。理不尽にも程がある!!」


新田さんと飲んでいた佐藤さん荒ぶる。過去のこと思い出しイライラしている。


「佐藤さん、とりあえず追加します?」


「そうだな!飲もう!」


「店長―!佐藤さんに生追加―!」


「はーい」


「いい鴨だな…」


 オチもついたところで休憩時間も終わり10時になればバイトも終了し家路に着く、帰りながらふと思う。


(高校生活初の夏休み…ほとんどバイトで終わっちまったな…彼女作ってバイトしながらもデートとか充実した高校生活を思い描ていたんだけどなー)


 そんなことを思いながら我が城であるラフォーレ椿に着く。自分の部屋の隣の電気が付いている。


「そういえばこの春に俺以外にもう一部屋入ってるんだよな…」


 常識的にお隣さんには挨拶をしようとしたがいつもいない、居留守を使ってるかもしれないが結局どんな人が住んでいるか知らないのである。


 そして自分部屋の前に人が倒れていた。


「は?」


目を擦っても一度見る。人が倒れていた。


「えーーーーー!」



 とりあえず倒れている人の安否確認である。髪や服装から女性とわかるが今のご時世ちょっとしたことでセクハラである。恐る恐る突いてみる。


 反応がない。ただの屍のようだ…


「ちげーよ!ネタに走るな俺!大丈夫ですかっ!救急車呼びますか?」


「うぅ〜…お腹が…」


「お腹が痛いんですか?薬持ってますか?」


グゥ〜〜


 情けない音が鳴り、二人の間に沈黙が、それを破ったのは女性方からだった。


「へった」


「ざっけんな!!」


 静かな住宅街に達也の咆哮が響き渡った。

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