レオナの黙示録

乃南羽緒

序文 -Prologue-

Endeland memoirs

 彼の地を思うとき。

 わたしは時折いてもたってもいられなくなる。


『人はみな旅人である』


 とは、母がよくこぼしたことばだった。

 つい先ごろうぶ声をあげた赤子も、まもなく死に逝く老人も、みな時という旅のなかに身をやつす。神代の君子も、吟遊詩人も、多く旅中で死んでいる。王国の掃き溜めといわれる貧民窟にて、這うように生きた母もまた、その途上で死んだ。

 人生五十年。

 四十を過ぎてから、わたしは心の片隅で彼の地を望むようになった。この目で、耳で、鼻で、口で、全身で、彼の地を欲して止まない。この大陸大地を這いずってひたすら生きてきたわたしの、最初で最後の熱望である。

 新たな年を迎え、またひとつ歳を取る。

 いつからか彼の地すらもわたしを呼ぶ。声がする。


 年明けから五日経ったこの日、わたしは破れた服の裾をつくろい、旅支度をととのえて、このあばら家を飛び出した。

 さらば我がうまやよ。

 わたしは往く。


 死に往く者のみがたどり着く彼の地、はての島──エンデランドへ。


 Excerpt from ”Leona's Apocalypse” Prologue

 Written by Ferio Amverse


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る