第42話 冴氷仙《ごひょうせん》

 僕たちは村を出て冴氷仙ごひょうせんのいるという、

 凍閉洞とうへいどうという洞窟へとやってきた。

 中は無数の氷柱が天井からおり、洞窟内は凍りついている。


「こんなところにいるのか......

 というか何て寒さだ......」  


 そう白い息をはきながら、こうがいう。


「なんなの!気で暖めているのにこの寒さ......」


「どうやら、人の住む所を作るために気を使い果たして、

 眠りについたそうで、人間には近づけないここにいるらしい」


「そんな仙人が、玄陽仙げんようせんについたなんて、

 考えられないけど」


 桃理とうりが震えながら首をかしげる。


命炎仙みょうえんせんが言ってたんだろ。

 玄陽仙げんようせんに与した方が、

 悪ってわけじゃないって」


 腕を組んだこうがいう。


「うん、確かに玄陽仙げんようせんは人間に関わらず、

 自分の力を昇華しようとしていたらしいし......あっ!あれ」


 少し広くなった場所に巨大な氷の塊があった。

 僕たちは近づく。

 

「氷の塊......」


「なんでこんなところに......ここが洞窟の奥だぞ。

 もう道もない......」


「どこにも冴氷仙ごひょうせんなんていないわね。

 この、洞窟じゃなかったのかしら」


「でも、こんな氷の塊なんて自然じゃできない......」


 そういって、僕が上の方を見ると、中に人が見えた。


「あれ!人がいる!」


「本当だ!あれが冴氷仙ごひょうせんか!」


「取りあえずここから出しましょう!」


 その白髪の男を出すために、僕たちは仙術を使う。


燃火球ねんかきゅう!」


烈火掌れっかしょう!!」


炎燎息吹えんりょういぶき!!」


 僕たち三人が炎の術で溶かそうとしても、その氷は溶けない。


「無理だ......」


「全く溶けねえな、この氷」


「これ冴氷仙ごひょうせんの気でできた氷だわね」


「気の氷か......よし」


 僕は氷にかじかむ手をついて意識を集中する。


(魔獣をコマリに変えたように、気に意識を入れて、

 冴氷仙ごひょうせんのところに届ける......)


 真っ暗に感じる意識の中、遠くに大きな気を感じる。


(これか......)


 僕は近づいた。

 すると氷の中の白髪の人物が暗闇の中、

 眠るようにたっていた。


「何者だ......」


 突然頭に声が届く。


「すみません。三咲みさきと言う仙人です」


「......私は仙人とはかかわりたくない......」


 そう言うと真っ暗な世界は突然吹雪になる。

 

「聞いてください!!冴氷仙ごひょうせん

 いまある仙人がこの国の人々を誘い、

 戦争を引き起こそうとしています!

 止めるための助力をお願いします!!」


 そう僕が吹雪に叫ぶと、

 何事もなかったのように吹雪は止んだ。

 そして声が聞こえる。


「......それは、本当か」


「......ええ、沙像仙さぞうせんが、

 若者たちに助力しているようです」

 

沙像仙さぞうせん.....まさか、あやつが人間に」


 そういうと僕は現実へと引き戻される。


「大丈夫!三咲みさき!」


 桃理とうりこうが近寄ってくる。

 その時、目の前の氷の塊がひび割れ始める。


「これは!?」


 そして、砕けると中にいた、

 白髪の青年がゆっくり地面に降りる。


「......詳しく話を聞かせろ」


 青年ーー冴氷仙ごひょうせんは、

 圧倒的な力を感じさせそういった。


 僕たちは冴氷仙ごひょうせんに手短に話した。


「......香花仙こうかせんが死に、

 沙像仙さぞうせんがこの地に......

 そして、至高の封宝具ふうほうぐが盗まれた......

 一体仙境に何が起きている......」


 そう呟いて、冴氷仙ごひょうせんは考え込んだ。


「仙境大乱の時、冴氷仙ごひょうせんは、

 玄陽仙げんようせんについたのですよね。

 なのに人の力になってるのはなぜですか?」


 つい疑問になってたことを聞いてしまった。


「......俺は別に玄陽仙げんようせんの考えに、

 賛同したわけではない。ただ仙人が人間を救済すべきという、

 白陰仙はくいんせんの考えには、

 賛同できなかっただけだ......」


「仙人は力があるんだから、力を貸すのは当然でしょ」


 桃理とうりがそういって口をはさむ。


「力があるのと、正しいのは違う......

 いや、そもそも明確な正しさなどあるわけがないのだ。

 正しさなど立つ位置によって異なるのだからな......

 仙人がその正しさを決めるというなど、

 そんな傲慢な考え許されぬ......」


 冴氷仙ごひょうせんは語気を強めそういった。


「それで玄陽仙げんようせんについたのですか?」


「いや、俺は二尊仙どちらにも不信感があった......

 どちらかに均衡が崩れると危険だとおもったから、

 戦力の劣る玄陽仙げんようせんについた......

 結局は負けたがな」


「なぜ、仙人に関わらないようになったのですか?」


 そう聞くと静かに口を開く。


「仙人にも失望したからだ......元々人間に失望していた俺は、

 才があったらしく二尊仙に取り立てられ、仙人となったが、 

 結局、仙人も人間と変わらんと悟った。

 人の業からは逃れられんと......かといって人にも戻れないがな」  


 冴氷仙ごひょうせんは、

 なにかを思い出すようにそういった。


「それで、沙像仙さぞうせんと戦うのに力になってくれるのか」


 こうが聞く。

 一応金漿棍きんしょうこんに手を掛けている。


「......やめておけ、お前たちに俺は倒せぬ......わかっていよう。

 だが、今、沙像仙さぞうせんと戦っても勝算はない。

 だから、この西にある凍った湖にある、

 俺の封宝具ふうほうぐを持ってくるのだ。 

 そうすれば多少力が戻る」


 そういうと急に横に倒れた。


「なっ!!」


 桃理とうりがそばにいって調べる。


「気が減っている......多分あの氷の中で、

 回復していてのね。私が術で気をいれているから、

 あんたたちは早く湖の封宝具ふうほうぐを!!」


「わかった!!」


 僕とこうは湖へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る