第28話 燎向《りょうこう》

 目の前いっぱいに砂漠が拡がる。

 燎向りょうこうという国にはいり街道を歩いていた。

 道行く人の表情は暗く、無言だ。

 そこかしこにいる衛兵がいる。

 翔地しゅうちを使わないで、歩いて砂漠地帯を歩く。

 汗が滝のように流れてくる。

 

「この日差しはきついですね......」 


「我々は気や術でなんとでもできますが、

 仙人であることを悟られない方がよいでしょうから......

 特にこの国は仙人を避けているようなのです」


 蒼花仙そうかせんが表情を曇らせながらそう言った。


未麗仙みれいせんがいってたように、

 やはり人と仙人には隔たりがあるようだな)


「昔は金持ちが優遇され、貧しいものが嫌悪される国でした。

 どうされました?」


「僕は暑さに平気なんですが、コマリが」


 懐でぐったりしているコマリをみる。


霊獣れいじゅうですか、

 調伏ちょうぶくされたのですね。すごいですね。

 私も魔獣の調伏ちょうぶくに成功したことはありません」


「気を与えれば回復するけれど......ここでは」


「では人のいない所に移動しましょう」


 蒼花仙そうかせんに言われて、僕は気をコマリに与える。


「にゃう!」


 元気にコマリはないた。僕がたち上がろうとすると、

 少しフラッとし、蒼花仙そうかせんが支えてくれた。


「大丈夫ですか」


「......ええ、コマリに気を与えるとこうなってしまって」


「私にはまだ霊獣れいじゅうはいませんが、

 霊獣れいじゅうは気を吸うと言います。

 コマリさんはかなりの気を吸っているようですね」


 コマリは首をかしげている。


「コマリ少し静かにしててね」


「にゃうん!」


 そうしてしばらく歩くと、大きな町が見えてきた。


「町が見えてきました!」


「ええ、五香ごこうの町ですね。

 さっそく宿にはいりましょう。


 町はとても整然として、ごみひとつ落ちてない。

 人の往来はあるが、誰も話をしていない。

 人がいるのに、いないようにすら思えるほど静かだ。


「何かきれいなのにちょっと異様ですね。

 蒼花仙そうかせん」 


「ええ......おかしいです......前よりはるかにきれいだが......」


「......厳しいからだよ」


 そう言って旅の商人らしき人が話しかけてきた。


「よくみな」 


 そう言って商人は目で合図する。

 よくみると町の至るところに兵士がたっている。


「ああ、やって監視しているのさ。この国は、どこも同じ、

 ほらあの立て札をみなよ」


 立て札には、

 私語、廃棄物、贅沢、喧嘩、飲酒、暴食の禁止と、

 書かれている。


「なんだこれは......」


 蒼花仙そうかせんが驚いている。


「こんな風に何でもかんでも禁止しちまってな。

 きれいではあるけど、なんの楽しみもない。

 俺はここ出身だけど、他の国にいったのさ」 


「どうしてこんなことに?」


 僕が聞くと商人が小さな声で答える。


「いまの王の側に永銀えいぎんって宰相がついて、

 こんなに禁止が多くなったのさ」


 吐き捨てるように商人は答えた。


「おい!」


 兵士がにらみながら怒鳴って、こちらによってくる。


「いつまでしゃべっている」


「いえ、取引なものですみません。ではこれで」


 そう言って商人は足早に去った。


「お前たち旅人か、用がないなら国からでていけ、

 何かしでかせば牢にぶちこむぞ」


 そう言って脅した。

  

「いえ、薬をもって参った薬師のものです」


 一応曇斑疫どんはんえきのために持ってきた、

 陸依りくい先生の薬を見せた。


「......そうか、まあ、あまり意味なくうろうろするなよ。

 さっさと用をすませて帰れ」


 そう高圧的な態度で兵士は去っていった。 


「......ずいぶん横柄ですね」


「強い権限を与えられると、人は尊大になると言います。

 兵士の力が強いと思っているので、あのようになるのかと、

 昔よりさらにひどくなっていますね」 

 

「ここにこられたことがあるのですか?」


「ええ......まあ」


 そう蒼花仙そうかせんは言葉少なに言った。


(さすがに、ここまで排他的とは......)


「どうします?情報を得るどころではないですか......」 


「大丈夫です。どんなところにも異端者はいますから、

 王都に行けば......」


 そう言って蒼花仙そうかせんは沈んだ顔をした。


 僕たちは町を巡りながら、王都が麗現れいげんにはいる。

 今までよりもっと整然としていて、

 人が暮らしている生活感は微塵も感じない。

 

「さあこちらです」


 蒼花仙そうかせんついてくるよう言われ、

 王都の端の区画の方に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る