第23話 修行

 次の日、屋敷の庭で、

 未麗仙みれいせん先生の教えを受ける。


「まず三咲みさきは、陽の気は使えても、

 陰の気をまともに使えてはいないのです。

 陰陽どちらの気も使えねば仙人とはなりえません」


「陰の気......悪い力ですよね?」 


「いいえ、陰の気は破壊と死を司る気。

 必ずとも悪とは限りません。逆に陽の気も善とは限りません。

 仙人と一緒です」


「どういうことですか?陰の気は魔獣を生むのでしょう」


「まあ、見せた方が早いですね」 


 そういうと、ふわりと浮かんだ。


「それが飛行ですか?

 金白仙こんびゃくせんも使っていましたが......」


「これが陰の気を使った術、引障いんしょうです」


引障いんしょう......」


「陰の気は破壊と死、

 ことわりを破壊し、重力をなくしたのです」  


ことわりを破壊......そんなことが」


「あなたも不完全ながら使っているはずです。

 水や炎を出したりしませんでしたか?」


「ええ、水は形をかえたり......あっ、そういえば浮いていた」


「そうです。それに形を変えたりもしたでしょう。

 破壊するとは、本来の法則とは異なる働きを起こさせること、

 それが陰の気の力です」


「そうか、でも無意識でやってたから......」


「それを意識的にできるようにします。ついてきなさい」


 未麗仙みれいせん先生の後をついていく。


 そこには大きな洞窟があった。


「この中の奥にある薬草を取ってきてください」


「それだけですか」


「はい、気や術を使っても構いません」


 そういうと先生は微笑んだ。


(あの笑顔なんだか怖いな......)


 僕はそう思いながら洞窟へとはいった。


 洞窟内はなぜか明るく、一本道だった。


「音が反響しない、近くにあるみたいだ。

 ここは翔地しょうちを使ってみよう」


 僕は翔地しょうちを使い走った。

 だが走っても走っても一向に奥にたどり着かない。


(おかしい......もう一日は走ったのに......

 分かれ道もない一本道だから迷うはずもない......それに)


 僕は止まって考えると、

 壁に水如杖すいにょじょうで傷つけながら進む。

 そして止まり壁をみる。

 するとさっきつけた傷に繋がっていた。


「......さっき壁につけた傷につながった。

 やはり同じ様に見えてたんじゃなくて、

 同じ場所をずっと回っていたのか......」


(ループする道か......どうやって抜け出るか......

 修行なんだから、おそらく陰の気を使うんだろうな。

 破壊......か)


 その場で座り込み気を練ってみる。身体に気を巡らせる。

 そして練り込んだ気を壁に放出してみる。


「えい!」


 光る波が壁にあたるが弾けた。


「やっぱりダメだ......これは陽の気だから、陰の気を作らないと、

 水が浮いたり、形をかえたりするのも、

 陰の気が関わってるって言ってたっけ?」


 そこで目の前に大きな水の球体を作ってみる。


「今、水の球体を作るのに、

 ほんの少し身体の中にいつもとは違う気を感じた...... 

 これを大きくすれば......だがどうやって、陰の気は破壊......」


 壁を壊そうとする意思を強く考える。

 捉えていた気が少しずつ大きくなるのを感じる。


(よし......かなり大きくできた。

 でも感情も高まるから調整が......)


 そう思った瞬間ためていた気が霧散した。


「あっ!しまった集中力が......仕方ないもう一度」


 それから何度もためた気を失う。

 高めた感情をコントロールして、

 上げすぎず、下げすぎないようにする。

 それを何度となく繰り返した。

 

(何日たったのか......下手をしたら一ヶ月はいた。

 でもお腹もすかないな......よし大分、陰の気を大きくできた)


 目の前に大きな黒い光の球体がある。

 

「これで、放出すれば......

 でもここまで作るのに一週間はかかった......

 いや迷うと消えてしまう!このまま......」


「いけ!!」


 僕は黒い気を目の前に放出した。

 大きく弾けるような音がすると、

 目の前に行き止まりがあり、草が一面に生えている。


「やった......」


 薬草を拾うと洞窟に引き返すために、振り向く。


「どうやら会得したようですね」

 

「えっ!?」


 目の前がすぐ外で先生が微笑んでいる。

 振り返ると洞窟は浅かった。


「その洞窟はそもそも浅いのです。

 私の仙術で時間も道も巡るようにしていただけ、

 三咲みさきによって壊されてもとに戻ったのです」


「そうか......それでお腹も減ってないのか」

 

「まずは陰の気を操ることができましたね。

 さあ、では今日から同じ事の反復練習です。

 できなければ眠ることはできませんよ」


 そういって先生はすたすたと歩いていく。

 

(はぁ、未麗仙みれいせん先生は、

 見た目と違ってスパルタだな......)


 僕は天を仰ぎ見る。


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