第4話 初仕事

 僕たちが公尚こうしょうさんの店につくと、

 公尚こうしょうさんは店の奥で座っていた。

 そのただならぬ様子を察して、

 宋清そうせいさんが聞いた。


「どうしたの?」

 

「ああ......両替商にこの店に融資するのは止めると言われた......」 


「そんな......」


「仕方ない、先が見えないからね。心配ないよ宋清そうせい

 なんとかなるさ。三咲みさきさまも、

 ささ家に上がってください」


 そう公尚こうしょうさんは努めて明るく振る舞っている。


「だけど......」


 宋清そうせいさんがそう呟き、不安そうな顔をしている。

 

 僕はお風呂を勧められ入ることにした。


(ふう、さっぱりする。家に日本風の木のお風呂か、

 薪で焚いているな。......いや、そんなことより、

 これは早急に仕事をする必要があるな......やはりあれか......)


 僕はそう考えをめぐらせた。


「じゃあ私は、もう一つ向こうの町へ行ってみます。

 三咲みさきさまはゆっくりしていてくださいね」


 次の日、朝早くから公尚こうしょうさんは、

 そういって出掛けていった。

 僕は公尚こうしょうさんに借りた着物を着る。


 心配そうに宋清そうせいさんは見送っている。


「僕も少しでてきます」


「えっ?ても、なんかふらふらしてますが、大丈夫ですか」


「ええ、平気です」

 

 心配する宋清そうせいさんに笑いかけて僕は出かける。


(やはりこれしかないな)


 歩きながら、昨日の夜、口入れ屋でもらった依頼書を見る。


 口入れ屋につくと、昨日の受付嬢に話をする。


「あの、この依頼を受けたいのですが」


「これですか!?でも、昨日のようすなら......

 わかりました。ではお願いします」


 場所を聞いて僕は外にでると、街道をしばらく歩く。


「怖いが、昨日練習したんだ。多分大丈夫......」 


 そう思って昨日のことを思い出した。


(よし、もう一度やってみよう)


 昨日の夜、公尚こうしょうさんが寝ている間に外にでた。

 月が空にあり、少しだけ明るさがある。


(ここに、月?今はそんなこと考えてる場合じゃないか)


 僕は雑念を振り払うかのように、気を操ろうとしてみた。


(あの気の力を意図的に使えられれば......

 確か公尚こうしょうさんを助けようと、

 強い力で押そうとして......)


 イメージして両手を出してみる。が、特に何も起こらない。


(もう一度だ!)


 何度も何度も両手を強く押し出す。

 だが、やっぱりなにも起きない。


(何か違うんだ......確かあのときは......もっと集中してた。

 そうだ、身体の中に何か力を感じた......)


 ゆっくり目をつぶり集中する。そして真っ暗な中、

 意識を研ぎ澄ます。すると、仄《ほの)かに身体の中、

 特にお腹の辺りに力を感じた。


(これ何か暖かいもの......体の中に流れのように感じる。

 これが気か......あとはこれを動かして)


 すると、体の中をその力が動いているのがわかる。


(その流れを両手まで持ってきて......)


 そして目を開けると、伸ばした僕の両手が輝いていた。


「よし!あっ、まずい、

 公尚こうしょうさんを起こしてしまう......静かにしよう」


 忘れないように朝まで何度も繰り返し、

 体の中を自由に移動させられるまでになった。


(まだどう使えるかわかれないけど......

 この仙人の気を信じるしかないな......)


 そう覚悟を決めて歩きだした。


 街道を外れて人通りのない、薄暗い森についた。


「ここか......」


 自分のほほを叩き気合いをいれると、

 僕は森の中へと足を踏み入れる。


 森は高い木々が生えうっそうとしているからか、

 朝なのに暗く、薄気味悪い。

 

(ここにいるのか......)


 僕は慎重に歩きながら周囲を見回す、

 奥に何かの気配を感じる。


(いる!)


 なぜかわからないが、そんな確信があった。

 すると、木々の奥から赤い光が複数浮かび上がる。  

 それは多眼の巨大な蛇だった。


(思ってたよりでかい!これが朱爛蛇しゅらんじゃか!!)

 

 丸太のように大きい赤い蛇は、シュルシュル舌を出しながら、

 こちらに蛇行して近づいてくる。


 僕は右腕に気をためながら、近づいてくるのを待つ。

 

 その時、蛇が口を開けピューと何かを吹き出す。

 とっさにかわした。見ると、

 後ろにあった木の表面がジュウウという音がし、

 煙があがってういる。


(これが依頼書にかいてあった毒か......危ない)


 さらに近づいてくる蛇が急に飛び上がり、

 口を開けて噛みつきに来た。


「来た!!」


 かわすのと同時に気をまとわせた拳で、

 その胴体をおもいっきり殴った。すると蛇は飛び、

 大きな木に当たると、地面に落ちて痙攣している。


「今だ!」


 僕は護身用にと、宋清そうせいさんから、

 渡された短刀を使い、魔獣に止めをさした。


「ふぅ!やった!依頼書に書いてあったとおり、

 近づくと飛び付いてきた」


 僕は朱爛蛇しゅらんじゃを引きずりながら森をでて、

 町まで帰る、すると町の人がざわついていた。


(やはり魔獣は珍しいのか目立つな)


 口入れ屋につくと、受付嬢に見せた。


「お見事です!三咲みさきさま!

 依頼達成ですので、報酬をお受け取りください」 


 そう言うと袋一杯のお金を机に置いた。


「おい、あれ朱爛蛇しゅらんじゃかよ!!」


「魔獣をあんな子供が倒したってのか!」


「あれって昨日の子供だろ。亥峰がいほうをぶっ飛ばした」

 

封宝具ふうほうぐでも使ったのか?」


「いえ、武器は持ってないわよ」


「気を使ったんじゃねーか、

 亥峰がいほうをやったときみてーに」


 周囲がざわついてるので、足早に去った。


(これで少しは公尚こうしょうさんと、

 宋清そうせいさんに、

 恩返しができそうだけど、ただ......)


 僕は少し思案しながら公尚こうしょうさんの家に向かう。


 

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