第9話
「翠蘭。なぜ泣くんだ」
「だって、何だか悔しいんだもの。
「そんなことはない。翠蘭だって……」
「今日のことだって、きっと私の知らないところで
私は足をバタバタさせて
「ぎゃっ! 何これ!」
「……蝉、好きなんじゃないのか? この前じっと蝉を見ていたから」
「別に蝉が好きなわけじゃないわ。空も月も見ることなく死んでいく蝉のことが可哀そうだって思って見ていただけで……」
「ねえ、
「翠蘭に贈ろうと思って、後宮中の妃に集めさせた」
「ええっ?! 貴方、一体後宮妃を何だと思ってるの? それじゃあみんなにフラれて当然よ。女心が本当に分かってないのね」
「……そうだな。俺は女心が全然分からん。これからも翠蘭が俺に色々教えてくれないと。だから、後宮を出て行くなんて言わないでくれ。俺のことばかり考えてくれているなら尚更だ」
私よりも随分と背が高くなった
仮にも妃に対して大量の蝉の抜け殻を贈って来るようなおかしな男を、他の妃に押し付けようなんて思った自分が馬鹿だったのかもしれない。
後宮中の妃に嫌われた
陶妃とのことも、私を愛してくれないことも、蝉の抜け殻を見ていると力が抜けてどうでも良くなってきた。
「仕方ないわね。私がもうしばらくここに残って、貴方に女心とはどういうものか教えてあげる」
「翠蘭……ありがとう。今度二人で海を見に行こう。翠蘭の父君が亡くなった北部の治水工事が終わったんだ。視察がてら、船に乗って海まで出よう」
「本当? 約束よ」
「その代わりと言っては何だが」
「何?」
「俺の願いも叶えてくれる?」
「
「この前伝えただろう」
「……え? 何だっけ?」
すっかり暗くなった後宮の中を、私たちは子供の時以来久しぶりに、手を繋いで歩いた。
――それから数か月。
私の気付かない間に、いつの間にか後宮は空っぽになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます