第8話
夕方になって、涼しい風が吹き始めた。
いつの間にこんなところに連れて来られたのだろうか。
私と
子供の頃はこの場所も、空に届くのではというほど高いと思っていた。しかし大人になってみれば大したことはない。
「ねえ、
「……」
「黙るなんて酷いわ。茶碗を落として割ったのも貴方なの?」
「……酷いのは翠蘭の方じゃないか」
「何故私が酷いのよ」
「後宮を出るつもりとは、どういうことだ?」
「あ、そのこと……。ごめんなさい、貴方より先に陶妃様に伝えたのは悪かったわ。でも私は本気よ。この三日間で貴方のことを好きだと言ってくれる妃を見つけ出すつもりだったの」
「そんな妃、一人もいなかっただろう」
「……確かにいなかったけど」
いつも私には飾ることなく本心を話してくれていたと思っていたのに、今の
すっきりしない気持ちのまま、私も
「後宮を出てどうするつもりだ?」
「海を見てみたいと思ってる。何となく、お父様がそこにいる気がするの」
「そんなの、わざわざ後宮を出なくたって連れて行ってやる」
「それじゃ意味ないわよ。せっかく諦めがついたのに……」
「何の諦め?」
――しまった。
私は思わず下を向く。すると、
「ねえ、それ何?」
「これは……翠蘭が後宮を去ると言うなら必要ないものだ」
「何よ、気になる」
「知らん」
慌てる私の方に向かって、
「何?」
「降りられぬのだろう? 来い」
「嫌よ。重くて
「いいから」
幼い頃は、怖がって木から降りられなくなっていたのは
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