第20話
あたしと続は教室の中の机を移動し、葬儀場に参列していた。
千鶴はさっきの場所から一歩も動かずまだ何かを呟きながら震えている。
あたしと続は何もない場所でお焼香を済ませて、葬儀を終わらせた。
ここは最悪な教室で、リンちゃんの遺影もなにもないのに、自然と涙があふれて来た。
あの日もあたしは泣いていた。
自分のせいでリンちゃんが自殺してしまったと思っていた。
でもあれは何も知らない涙だった。
リンちゃんは自殺じゃない。
殺されたんだ。
そう理解した今、あたしの涙はあの時よりももっと激しく、そして重たいものになっていた。
焼香を終えた続がバスに戻って行く。
あたしは涙をぬぐい、それとは逆へと歩き出した。
あの日、あたしはバスに戻る前に千鶴に呼び出されたんだ。
人気のない場所へ移動したあたしは千鶴にこう言われたんだ。
「あたしのいう事を聞いていればターゲットにはしないから」
と……。
それがなにを意味しているのか、聞かなくてもわかっていた。
千鶴はこれでイジメをやめるつもりなんてなかったんだ。
すでに次のイジメのターゲットを探し始めていたことを知り、あたしは咄嗟に「わかった」と、頷いたのだ。
リンちゃんと同じ目には会いたくない。
死にたくない。
そんな、思いから……。
その翌日からクラスメートの一番地味な女の子がイジメられるようになった。
その時もまた、あたしは影から千鶴に手を貸していたのだ。
その子が泣いてわめいて、何も悪くないのに『ごめんなさい！』と叫ぶ姿を見てみぬふりをしていた。
この子がイジメられている間は、自分は安全だ。
そう思い、ホッとしていたのだ。
あたしはそれらを思い出しながら続の隣に移動した。
これで葬儀の《リプレイ》は終了だ。
《それではこれより採点に移ります》
採点なんてしなくても、千鶴はうずくまったまま動いていない。
あたしは千鶴の元へと近づいていった。
さっきより少し落ち着いているようにも見えるけれど、その目は空を彷徨い、そして歯はギリギリとかみしめられているのがわかった。
「千鶴、《リプレイ》終わったよ」
あたしがそう言うと、千鶴が目だけを移動してあたしを見た。
「千鶴、あたしが倒れた時優しくしてくれたけど、あれは演技だったんでしょ？」
あたしは千鶴の横にしゃがみ込んでそう聞いた。
あの時、千鶴が近くにいたことはわかっていたけれど、まさか有紀と一緒になって保健室に連れて行ってくれるとは思っていなかった。
だって、千鶴はそんな子じゃないから。
「あの時、どうしてあたしを助けてくれたの？」
「……先生が……いたから……」
千鶴があたしから視線をそらしてそう答えた。
「先生？」
「学年主任……リンが死んだ事であたしを怪しんでる様子だった……だから、学年主任の前でいい顔しとけば怪しまれないと思って……」
千鶴は観念したようにそう言った。
しかし、その顔は無表情で何を考えているのかわからないものだった。
「そっか……」
あたしは小さく頷いた。
「俺が今日の放課後信一と真に誘いを断られたのは？」
続が一歩近づいて、そう聞いた。
「それは……あたしが2人を呼び出してたから……」
「呼び出し？」
「そう。昨日の昼に喧嘩をしているのを見て、2人がリンの事を誰かに話すんじゃないかと思って……」
「それで今日の放課後も《リプレイ》させられたんだな……」
続きが納得したように頷く。
すべての《リプレイ》はリンちゃんに通じていると言う事がわかったからだ。
「犯人は鈴音の周辺の人物だ」
続の言葉にあたしはハッとした。
そうだ。
今の話からすればリンちゃんが死んだ理由まで知っている人物が、復讐のためにこの教室を用意したという仮説が成り立つ。
「リンちゃんが死んだ本当の理由を知っていたのは、信一と真と千鶴。それ以外にも誰かがいたってこと？」
「わからない。でも、川で溺れている所を動画配信していたなら、動画を取っていた人物を特定した可能性がある。そしてその人が復習を決意した……」
「違う！！」
続の推理に千鶴は大きな声を出した。
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