第13話
スピーカーが《リプレイ》の正確性を採点すると伝えても、みんなその場から動かなかった。
次の犠牲になるのが誰かは、もうわかっている。
続は机に座った拳を握りしめたまま、信一を見ようとしない。
千鶴は小さな声ですすり泣き、信一はその背中をさすっていた。
あたしは……1人、その光景を見ていた。
自分が死ぬとわかっているのに千鶴に優しくしている信一を見ていた。
時々「大丈夫だから」とか、「心配するな」とか、そんな言葉をかけている。
どうしてそこまで優しくできるんだろう。
人を好きになるということはそこまで強くなれると言う事なんだろうか?
あたしは続を見た。
あたしは続のためにどこまでできるんだろう?
自分の命を使って守ることはできる?
自分自身に聞いてみても、答えは見つからなかった。
ここへ連れてこられてから急速に続に惹かれていることは確かだけど、それまでに続を好きだと感じたことはない。
極限状態だからこそ感じられる恋愛感情なのだと、自分自身が一番よくわかっていた。
「信一……ごめんね」
千鶴が鼻をすすりながらそう言った。
「いいんだ。真だってそうしたんだ。俺だってそうするのは当たり前だろ」
信一はそう言い、真を見た。
2人はライバルだったはずなのに、協力して千鶴を守っている。
たとえ《リプレイ》が続いて行っても、少しでも長く千鶴が生きられるように……。
そこまで考えて、あたしは違和感を覚えた。
それは一番2度目の《リプレイ》の事。
2人はお金の貸し借りで喧嘩をしていたけれど、本来はそんな事で喧嘩はしていなかった。
だとしたら本当の喧嘩の理由はなんだったのか?
千鶴の取り合いであるならば、別に隠す必要はない。
2人が千鶴を好きな事はみんな知っていたのだから。
実際の教室でも喧嘩の理由がはっきりとはわからなかった。
それは、喧嘩をしながらも2人は周囲を気にして言葉を選んでいたからじゃないだろうか?
たとえば……千鶴の印象が悪くなるよう事を知っていて、それを話しあっているうちに喧嘩になってしまったとか……。
ただの憶測に過ぎないが、あたしはそう考えた。
ライバル同士である2人の喧嘩はなんらかの形で千鶴が絡んでいるはず。
そんな単純な発想からだった。
もしその考え方がただしければ、今日の放課後真と信一が続の誘いを断った発端は、千鶴にあると言える。
そして、さっき終わった3度目の《リプレイ》。
ここでも、千鶴があたしを助けて保健室へ行くと言う大切な役割を担っている。
あたしは千鶴を見た。
千鶴は信一に強く抱き着き、声をころしてまた泣き出していた。
この《リプレイ》、犯人が千鶴を追い詰めるために計画したものだったとしたら?
千鶴は今の段階でまだ生きている。
だからきっと、《リプレイ》は続いていくということになる。
あと3人しか残らないのに……。
そう考え、ゾクリと背筋が寒くなる。
3分の1の確率であたしは死ぬ。
そう考えた
千鶴が信一から飛びのくように離れる。
信一が目を丸くし、千鶴を見る。
「いや……怖い……」
千鶴の言葉に信一の表情にかなしみが浮かんだ。
死ぬ間際になってようやく千鶴の気持ちが自分にも真にもなかったことに気が付いたのだろう。
信一の中で、今まで千鶴に尽くしてきていたものが一気に崩れていき、利用されていた悔しさが込み上げている事だろう。
信一は自分の手の甲に×印が浮かんでも、そしてそれが音を立てて破裂しても、千鶴を睨み続けていたのだった……。
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