再現教室~死のリプレイ~

西羽咲 花月

第1話

目を開けると見慣れた教室の床があった。



老朽化が進み黒ずんできた木の床に木目が、すぐそばにある。



起き上がってみると頭がフラフラして、空中に浮かんでいるような感覚がした。



あたし、どうしたんだっけ?



思い出せずに周囲を見回すと、いつも使っている砂川高校2年A組の教室であることに間違いないとわかった。



教室の床にはまだ数人の生徒たちが目を閉じて横たわっていて、その顔の全員が2年A組のクラスメートであることがわかった。



「有紀……」



あたしは手を伸ばして届く範囲にいた、夏目有紀(ナツメ ユキ)の体を揺さぶった。



有紀は眉間にしわを寄せ、そしてゆっくりと目を開いた。



「奏(カナデ)?」



有紀があたしを見て不思議そうな顔を浮かべる。



「スマホの電波届かないんだけど」



そんな声が聞こえてきて振り向くと、教室の中央あたりに辰宮千鶴(タツミヤ チズル)が立っているのが見えた。



千鶴はあたしより先に目覚めていたのか、その手にはスマホが握られていた。



あたしと有紀もポケットからスマホを取り出して確認する。



電波を示す光がすべて消えている。



「この教室電波届いてたよね?」



有紀が聞いてきたので、あたしは「うん」と、頷いた。



そうしている間に、机の間に倒れていた綾野真(アヤノ マコト)、久世信一(クセ シンイチ)、冨坂続(トミサカ ツヅキ)も目を覚まして起き上がり始めていた。



全員2年A組の男子生徒だ。



「とりあえず、あたし帰るから」



千鶴がそう言い、ドアへと向かう。



「そうだね……」



あたしは頷いて立ち上がった。



なにがなんだかわからないけれど、いつまでも教室にいるわけにもいかない。



あたしは埃のついたスカートをはらい、有紀の手を掴んで立ち上がらせた。



体はまだ少しフワフワと浮いている感じがするけれど、歩けそうだ。



男子たちは周囲を見回してキョトンとした表情を浮かべている。



「ねぇ奏、あたしたち一体何をしてたんだっけ?」



有紀にそう聞かれ、あたしは首を振った。



「全然思い出せないんだよね。今日は普通に授業をしてそのまま帰ったと思うんだけど……そこから先の記憶が抜け落ちてる」



「あたしもそう。家に帰ってる途中からの記憶がないの」



不安そうな表情でそう言う有紀。



どういう事だろう?



一旦学校から出たハズなのに、どうして教室に戻ってきているんだろう?



わからなくて、有紀の手を握る力が自然と強くなる。



と、その時だった。



「ちょっと、ドアが開かないんだけど!」



と言う千鶴の声が聞こえて来た。



見ると、千鶴は引き戸に手をかけているものの、そのドアはびくともしていない。



その様子を見て真と信一がすぐに動いた。



「鍵がかかってるのか?」



真がそう言い、千鶴の代わりにドアに手をかける。



しかし、やはりドアは開かない。



「まじかよ」



信一も加わって力を込めてみても、全く動く様子はない。



「こっちも閉まってる」



そう言ったのは続だった。



続はみんなとは別の教室前方にあるドアをあけようとしているが、そちらも開かないようだ。



「それなら、窓から出るしかないね」



有紀がそう言うと、信一が呆れたように「生徒が残ってるのに鍵なんてかけやがって」と、呟いた。



確かにその通りだ。



あたしたち6人も教室にいたのに鍵をかけるなんて、普通じゃ考えられない。



そう思っていると「窓の鍵がない……」そんな千鶴の声が聞こえてきて、あたしたちは目を見交わせた。



「どういう意味?」



そう言いながら千鶴に近づいてみると、廊下へ側の窓のにあるはずの施錠がどこにも見当たらないのだ。



窓の鍵は簡単なもので、上にあげれば鍵がかかり、下に下げれば鍵があく、よくあるものだった。



しかし、その鍵自体がついていないのだ。



「どうなってるの?」



あたしはす呟きながら窓に手をかけて力を込めてみた。



しかし、窓はびくともしない。



男子たちが力をあわせて開けようと試みても、それは無駄なこととして終わってしまった。



校庭側にある大きな窓にも鍵はなく、やはり開ける事はできなかった。



「どうなってんだよ……」



続が茫然としてそう呟いた。



あたしも全く同じ気持ちだった。



真や信一がスマホを取りだして外部と連絡を取ろうとしているが、電波がない事はすでにわかっていた。



「あたしたち、ここに閉じ込められたってこと?」



そう言ったのは千鶴だった。



その言葉に一瞬にして空気が凍りつく。



誰もがそう考えていたが、口に出せずにいたことだ。



千鶴はいとも簡単にそれを口にし、場の雰囲気を壊した。



千鶴はいつもでもそうだった。



大きな企業の1人娘で大抵の我儘は許されて育ってきた。



それに加えて生まれつき派手な外見で男の子を惹きつけているため、更に傲慢な性格になっている。



あたしは千鶴に注意しようかと思ったが、険悪な雰囲気になると嫌なので言葉を飲み込んだ。



「校庭に誰かいないか見て見よう」



続の言葉に頷き、全員が校庭側の窓へと移動する。



しかし……。



「どこだよ、ここ!」



窓の外を見た瞬間、真が叫んだ。



「ここ……砂川高校じゃない」



有紀が呟く。



目の前に広がっている光景にあたしは息を飲んだ。



窓の外から見えるはずの校庭はどこにもなく、建物の外には広い空が広がっていたのだ。



街並みはずっと下の方に見えるが、それも見覚えのない建物ばかりだ。

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