第4話 発見

 目的もなく瓦礫の中を徘徊するうち、侑子はかつて遊園地だったであろうその場所に、既視感を覚えるのだった。


――何だろう。なんとなく道の並びや、アトラクションの位置が、似ている気がする


 そんな馬鹿な、と思ったが、並行世界への行き来を体験している時点で、既に馬鹿馬鹿しい程の驚異を、体験しているのだ。


 侑子は認めた。


――この場所は、夢の中でユウキちゃんと遊んでいた、あの遊園地だ……


 認めてしまうと、確信は確信のまま、微動だにしなくなる。


侑子はコーヒーカップの前まで、再び戻ってきていた。


「本当に、存在していたんだ」


 空想でも幻覚でもなく、確かに触れることのできる物体として、そこにある。


既に動きを止めてから時間が経過していることを伺わせるが、侑子の手は、確かにそのハンドルを握ることができた。


青い半魚人と自分を乗せて、ぐるぐると回転した、コーヒーカップだった。


「ユウキちゃん……」


 カップの中に座ると、その場所は夢で体感していたよりも、ずっと狭く感じた。

侑子が成長したからだろうか?


「ユウキちゃん、戻ってきたよ」


 ハンドルは錆びついていて、少しも動かなかった。


回転しないコーヒーカップから見える風景は、ちっとも変わらない。


夢から醒めることはないのだ。


「会いに行くよ」


 立ち上がった侑子に、迷いはなかった。




 月明かりと小さなランタンの光しか頼りがないというのに、一度も止まること無く、入場ゲートまでたどり着いた。


侑子にとっては、自宅の庭のようなものだ。何度も何度も、この場所を訪れたことがあったのだから。


――半魚人と一緒に


朽ちたゲートの向こう側には、道が見えない。鬱蒼としげる木々の上方には、高い山がそびえているのが分かった。


 侑子に勝手が分かるのは、遊園地の中までだった。


その先をどう進めば王都へたどり着くのか、見当もつかない。

しかし、もう止まる気持ちはなかった。


魔法もある。


きっと何とでもなる。


何とでもせねばならないのだ。


――ユウキちゃんのところへ、帰るんだ


 振り向いて、もう一目だけ、朽ち果てた遊園地を瞳に映した。


――ここには半魚人はもう、いないから


 もう二度と動くことはない観覧車の丸いシルエットが、月夜の中に見えた。


――会いに行かなくちゃ


 決意を固めて、侑子は再び前を向いた。

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