第34話 世界ⅱ震度3

 ある日の昼下がり。


 ジロウは食品庫の中で、先日仕込んだ梅シロップの出来を確認していた。


 今年の梅仕事は、巡業に出ていたユウキとハルカは参加できなかった。いつもよりも人手が少ない中、それでも楽しい笑い声に溢れたひとときだった。


 シロップの瓶の奥には、一昨年仕込んだ梅酒の瓶が並んでいる。


 紡久が成人するタイミングに飲めるようにと、二年前の梅仕事で作ったものだった。


 昨年飲んだときよりも、熟成が進んでまろやかになっているだろう。


「今晩飲んでみるか」


 ジロウが一番手前の瓶に手を伸ばした時だった。


 ゴゴ……と地が唸るような不可解な音を、耳が捉えた。


「?」


 その音の出処を確認する間もなく、次にジロウの耳が拾ったのは、食品庫に並んだ瓶がお互いに打つかり合って生じる物音だった。


「揺れてる……」


 そう言葉にした時には、既に揺れは止まっていた。

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