パーティの計画③

「クリスマスパーティ?」


「やろうよやろうよっ! 学祭以来雰囲気もサイコーだしさぁ。皆でワイワイしたくない? 絶対楽しいって」


 提案したのは二年の市川あやだった。

 ドラムスティックを握りしめたままの彼女は、この軽音同好会の現会長である。

 くせ毛のショートボブが印象的なよく笑う少女で、明るいムードメーカーでもあった。


 会長の突然の思いつき発言だったが、第二音楽室にいた面々は「楽しそう」「やりたいね!」などとあっという間に乗せられている。


 ちなみに現段階の軽音同好会の会員数は五人。

夏休み明けに遼ともう一人いた三年生が引退したので、二年生二人と一年生三人という構成である。このうち一年生の二人は学期始めに入会したばかりの侑子と愛佳だった。


「六人だったらお店とか予約なくてもいけるかな? 佐藤先生、どう思う?」


 浮かれ始める中学生達を見守っていた顧問の佐藤は、話を振られてうーんと呻る。


「まあ大丈夫じゃないかな。けど店ではしゃぎすぎるなよ。言っておきますが、先生は奢れないからな。パーティしたいなら、本当はどこか場所を抑えたほうが楽しいとは思うけどね」


 三十代半ばの数学教師である佐藤はじめは、もじゃもじゃの天然パーマに太い黒縁眼鏡をかけた、長身の男だった。


 侑子のこの顧問に対する第一印象は、『アオイくんとハルカくんを足して二で割った感じ』だったのだが、そう報告した手紙へのユウキの返事に『ぜひ写真を見てみたい』と書かれていた。

 侑子は先日の学園祭で撮った集合写真を、次の手紙に同封しようと思いついた。

 

「確かに。せっかくだったら音楽流したりしたいね。軽音同好会なんだし」


「カラオケは?」


「良いかも知れない」


 ああだこうだと意見が飛び交う。


今日の活動時間はこのままクリスマス会企画で終わりそうだ。

 しかし侑子はこんな雰囲気も嫌いではなかった。


「音楽かけたいなら、俺の家使うのはどうですか?」


 発案したのは裕貴だった。

肩からギターをかけたまま、片手を上げて提案する。


「先生入れて六人、引退した三年生も誘って八人ですよね。うちなら音楽かけるの余裕だし、周りも畑と川だから騒いだって平気ですよ」


「ああ! 裕貴んちか。それいいかも」


 思い出したように声を上げたのは、二年の鈴木竜介である。彼の担当楽器はベースだった。


「鈴木くん、野本くんの家行ったことあるの?」


「小学校同じだったし、幼稚園も一緒だったよ。母親同士知り合いだしね」


「えー! 初耳!」


 綾はダン! とバスドラムを鳴らして驚きを強調した。


「おうちの方は? いいのか?」


 佐藤の問に裕貴はすぐ応える。


「大丈夫ですよ。うち、しょっちゅう友達遊びに来るし。家族もこういうこと慣れてるから」


「やったぁ。じゃあとりあえず野本くんちで決定でいいかな? 野本くん、一応ちゃんと家の人に確認しといてね。 皆で料理とかお菓子とかちょっとずつ持ってくるのどう? 楽しそうじゃない?」


「わあ。いいですね!」


 綾の提案に愛佳は顔を輝かせた。


「本当に大丈夫? 決まっちゃったみたいだけど」


 持ちよりの担当と品目決めの話し合いにシフトした会員達を横目に、侑子は裕貴に心配そうな顔を向けた。


「全然平気だよ。きっとやるとしたら冬休み入ってからか、土日でしょ? うち両親は平日は仕事でいないけど、じーちゃんはいつも家にいるからさ。こういう賑やかなことすごく喜ぶ人だし」


 ニコニコと微笑みながら、裕貴は続けた。


「それに、ずっとうるさかったんだよ。ゆうちゃんを家に連れてこいって」


「私?」


 予想外の言葉に目を丸くする。


「じーちゃん、学祭観に来てたんだ。ゆうちゃんの歌を気に入ったんじゃないかな。それに押し売りみたいに貸してるCDだって、いつも真剣に聴いてくれてるしね。直接会って音楽談義したいのかも」


「そうだったの。観に来てくれてたんだ」


 侑子は少し前の学園祭を思い出した。

軽音同好会はステージ発表として、数曲を披露したのだった。


 とは言っても、会員ほぼ全員が楽器初心者、愛佳に至ってはほんの二ヶ月前に初めてベースに触ったばかりだった為、本格的なバンド演奏で聞かせることができたのは一曲だけだった。

 

 残りはギターのみ、ドラムで拍子を取るのみの演奏となり、そこで歌い手となったのが侑子だったのだ。


「褒めてたよ。いい声だって。確かにゆうちゃんの歌は印象に残る。俺もすっごく良いと思う」


「ありがとう」


 面と向かって褒められると照れるものだ。熱くなってきた頬を隠すように両手で覆った。


「じーちゃんに会ってやってよ。ああ、そうだ。どうせなら……。先生!」


 途中で何か思いついたことがあったようだった。裕貴は顧問を呼んだ。

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