夢現②

 制服を着ようかな、と言い出したのは侑子だった。


 久しぶりの詰め襟の硬さを感じながら、紡久は扇風機の風にあたっていた。

 季節は夏だ。冬服の制服姿では流石に暑い。


「やっぱり侑子ちゃんたちが来るまで、上は脱いでおきます」


 学ランを脱いでTシャツ姿になる。


分厚いその生地を触って笑いながら頷くと、リリーは再びその服をハンガーにかけてやった。


「ツムグくんが来た時は真冬だったものね。それにしてもしっかりした生地だわ。むこうの学生は皆この服を着て学校に行くって本当? 全員がこの服着てたら、一面真っ黒じゃない?」


 リリーの疑問に紡久はははっと笑った。


「一面真っ黒になりますよ。でもそれが普通なんです」


 自分はその黒い学ランを着て、その真っ黒の一員になったことは片手で数えるほどしかなかったのだが。


その話はリリーにはしていない。知っているのは侑子だけだった。


「そうなの。私には想像し難いわ。けど向こうの世界では常識なのか……お墓参りに行ったら、制服姿のツムグくんとユーコちゃんを見て彼らも懐かしくなったりするかもね」


「そのつもりで着てるんです」


 ツムグは頷いて、ハンガーにかかった学ランを眺めた。


 セーラー服姿の侑子がこの隣に並んだら、何処からどう見ても典型的な日本の中高生だ。


 学生のうちは学校の制服が礼服としての役割を果たすので、墓参りの服装としても相応しいのだということは、侑子の提案を受けてから思い出したことだった。


 彼らは、学ランとセーラー服姿の日本人の姿に何か反応を示すだろうか?


正彦とちえみの時と同様の、もしくは違った現象が起こるのだろうか。


そんなことを確かめるための墓参りでもあった。今日はエイマンとラウト親子の他にも、政府関係者や埋葬に詳しい有識者も同行すると聞いている。


「今日は暑くなりそうだわ」


 ラジオが告げる天気予報を聞きながら、リリーが窓の外を眺めていた。


日焼けなど知らなそうな白い彼女の肌は、午前中の日差しに照らされてより一層白く発光するように輝いていた。



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