疼き④

 紡久は手のひらの上で踊る炎を、見つめていた。


彼の手の中には、アルミホイルに包まれたジャガイモがある。それを魔法で発生させた小さな炎で、熱しているところだ。


 紡久は今魔法練習も兼ねて、調理の手伝いをしているのだった。


「ツムグくん。そろそろ良いかもよ」


 大きな鉄鍋を片手で軽々と振っているのは、ジロウだった。紡久は「はい」と返事をして、炎をひっこめた。途端にジロウは慌てた声を上げて、同時に紡久は「あっつ!」と叫んで芋を床に落としていた。


魔法の炎を消せば、ホイル焼きにしていた芋は、そのまま素手で受け止めることになる。


見通しを立てながら魔法を取り扱うことに、どうにも慣れない。


「ほら! 早く冷やす冷やす!」


 ジロウの声を聞きながら、紡久は手のひらに霜を出現させた。


小さな霜はみるみる溶けて水となって消えていくが、また次から次へと新しく生まれていく。


まるで白い小花のような幾何学模様が線を伸ばす様は、生命を宿した生き物のようだった。


紡久は手の中に展開されていく霜の花模様に、つい見入ってしまった。


自分が起こしている魔法のはずなのに、そんな自覚すらなくなっていく。

なんて奇妙で可憐な現象なのだろう。


火傷の痛みが癒える心地よさすら、忘れてしまうほどだった。


「大丈夫か?」


 無言で手のひらを凝視していた紡久を心配したのだろう。鍋を置いたジロウが覗き込んできた。


「大丈夫です。つい見とれてしまって」


「ああ。そういうことか」


 少年の手のひらにいっぱいになった霜の花に目を向けて、ジロウはにっと歯を見せた。


「魔法って綺麗ですよね。さっき焼き芋している炎を見ている時も、綺麗だなぁって考えていました」


「綺麗に思えるくらいの魔法は、良いもんだよな。やっぱり便利だし。結論、何でも程々が大切ってことさ。料理の味付けも火加減も」


 すっかり痛みも引いたので、霜を引っ込めて濡れた手を布巾で拭いた。

 紡久は床に落としたままだった芋を拾い上げる。手で触れられる程度に冷めていた。ホイルをひろげてみると、湯気を上げるジャガイモが顔を出した。落とした衝撃で生じた割れ目にジロウがバターを落とすと、美味しそうな温かい香りが辺りに漂った。


「うん、いい感じだ。その調子でどんどん作ってくれる? 火傷気をつけろよ」


「はい」


 紡久は新しいホイル包を手に取ると、小さな炎を手の中に呼び出した。

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