脱皮②

「時間までまだあるな。身支度整えないだけで、こんなに持て余すとは思わなかった。そうだ! ユーコちゃんの髪やらせてよ」


 ユウキが気を取り直したような口調で、提案する。


侑子が着物を着る時は、ノマが教えてくれたかんざしを使った簡単なアップスタイルか、いつものおさげ髪だ。

今日も緩く編んだ髪を横に垂らしただけの、簡単なものだった。ユウキの指が結紐を解くと、あっという間に癖のない黒髪が背に広がった。


「手を動かしたいんだ。ぼーっとしてると、余計なことばかり考えてしまう」


 手櫛で整えられながら、地肌が濡れて、すぐに乾いたのが分かった。

魔法が使えるようになったとはいえ、侑子には到底真似ができそうにない。素早く正確な手さばきで、魔法が使われていた。


 人に髪の毛を触られるのは、緊張するがどこか心地よい。秋の日差しは爽やかで心地よく、目を瞑るとうとうとしてしまいそうだった。


「出来上がり」


 強く髪を引っ張られた感覚は伝わってこなかったのに、侑子の髪はきっちりと編み込みが施された、複雑な髪型に纏め上げられていた。

手鏡だけでは後頭部まで確認できないが、侑子には再現不可能なヘアスタイルになっていることは間違いない。


「そうだ。あとこれも」

 

 突然の思いつきだったのだろう。

ユウキはそのアイデアに満足したのか、微笑みながら侑子の帯に人差し指で触れた。


侑子はこの悪戯そうな笑顔には、見覚えがあった。初めてこの広場で彼の曲芸を見た時に、マリオネットを侑子に似せて変身させた時のあの顔だ。


「わぁ」


 ユウキの魔法で変化したのは、帯締めだった。

薄い水色の帯締めに、いくつもの硝子の鱗が光っていた。規則的に並ぶその鱗の色合いは、ユウキの腰布の鱗と揃いであることが分かる。


 感嘆の声を上げた侑子に、満足げに笑ったユウキの表情には、先程までの硬い緊張感は見当たらない。


「一緒に歌うなら、お揃いがいいよ」


「ありがとう」


 侑子の足元で、あみぐるみたちがぴょんぴょん跳ねている。


彼らの身体にも、同じ鱗が光っていた。

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