宮司の悩み⑤

『まずは以前から動きのない事項の、確認からいたしましょう。タイラ・ミネコさんと夫のソウイチロウさん、長男マサオさんの行方は、依然不明のまま。我々も手を尽くしていますが、気配すら掴めません』


『王府の捜索が入っても、足取りがつかめないものなのですか』


『面目ありません。しかし守役の彼女たちが、我々から意図的に遠ざかるとは考えにくい。逆に王府とは何らかの形で、連絡をとりたいはず。しかし何の音沙汰もないというのは、妨害されているのでしょう』


 何のためらいもなくタカオミはさらりと口にしたが、その内容にオリトは動揺する。


『妨害? それはどういう意味です』


『カギを王側に渡したくない一派がいるということですよ。悪用するつもりでいる』


『そんな――だって、それでは……』


 オリトは動揺のあまり、うまく言葉を組み立てることが出来なかった。


しかしタカオミは、オリトが何を言いたかったのか、分かっている様子だった。


『カギがどういう神器なのか、一昔前までごく一部の、限られた者しか知り得なかったことですね。それ以外の者たちの知るところに、なってしまったということです』


 カギの働き。


それはこの世とは別の時空に存在する、もう一つの世とを繋ぐ扉を開くことである。


ヒノクニには時折、別の世から来訪する者が現れる。

その者たちは皆、カギが開いた扉を通ってこちらにやってくる。


これはカギの存在と、その働きについて知っている者だけが知る秘密だった。


『ミネコさん達は、無事なのでしょうか』


『カギが本格的に使われた気配は、今のところありません―――王が言うのだから間違いはありませんよ。なので彼女は守役の役目を、今もしっかり務めているということです。彼女に何かあった時、間違いなくカギは力を暴発します。だから王にはすぐ分かるはずなのです。想像したくはありませんが』


 オリトは安堵したいが、できないまま深く息を吐いた。


守役とは、要するに神器であるカギが持つ膨大な神力を、抑え込める素質のある者ということなのだ。


カギは何もしないままでは、その神力を常に外側に発し続ける性質を持つ。つまりカギがそこにあるだけで、扉を作り出してしまうのだ。


守役が力によってカギの神力を抑え込み、王の指示がある時のみ、その力を解放する。そのようにしてカギの力をコントロールしてきたのが、守役である。

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