宮司の悩み③

――どこへ行ってしまったのだろう。ミネコさんは


 ミネコというのは、先代からカギの守役を任じられた女性だった。

この村で生まれ育ち、カギを持って王都の豪農の家へ嫁いで行った。


そして彼女は、カギと共に行方知れずとなってしまい、今だ見つかっていない。


『カギは社の中で守ってはいけない』


 そのような掟があった。


神器の悪用を狙った輩の目を欺くため、或いは常に一箇所に留まることを好まないカギの本質のためとも伝えられている。真偽は分らない。

ただこの掟に逆らうことはできなかった。


 カギの守役に任じられる者には、三つの条件がある。


社のある土地に縁ある者。

その地を離れていく者。

カギが触れることを許した者。


この三つの条件を満たした者が守役の任に就き、宮司からカギを預かるのだ。

守役はこの漁村から離れた別の地で、カギを守る。そして次の宮司に代替わりする際、カギを社に返し、代替わりした宮司が取り仕切りを行い、新たな守役を選出するのだ。


千年を超える長い間、ずっと繰り返されてきた習わしだった。


 オリトの父は、息を引き取るそ瞬間まで、カギの行方と守役のミネコ一家のことを案じていた。


五年前に突然失踪したミネコ。

何に巻き込まれたのか、それは説明されなくとも何となく分かった。


だからこそ自分たちは、何も言ってはいけない。


カギの単語も、守役という言葉も。

王とカギとこの社の関係を、聰られてはいけなかった。


オリトはあれから月日が経った今も、カギとミネコという音を、共に発音することはなかった。


――ただの田舎の、小さな社を管理する、冴えない中年神主


外からそう見えるように勤めてきたのだ。


 しかし、こんな日は考え込んでしまう。数日前にある知らせが、秘密裏に届けられたから余計にだ。

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