消えた雑草③
「もしもし
終業式とホームルームが終わった。
友人たちと別れ校門へと歩を進める侑子は、叔母の望美に電話をかけていた。
「今日そっちで晩御飯たべてもいいかな。お兄ちゃん遅くなるんだって。あ、連絡きてた? そっか、じゃあお願いします。いつもありがとう」
朔也は既に連絡を寄越していたようだ。望美はいつものように快く侑子を受け入れてくれる。
「うん。一度家に帰るよ。夕方に行こうかな。……はーい。また家出るときに連絡するね。それじゃ」
朝計画した通り、あみぐるみを仕上げてから賢一の家に向かおうと考えていた。侑子はいつもの足取りで帰ってくる。
しかし公園の花壇が見える位置まで来ると、自然と歩幅は狭くなり、終いには足が止まった。
花壇の端に寄せてあった雑草の山は、午前中のうちに片付けられたのだろう。きれいになくなっていた。
自分でも気づかないほどに、小さくほっと息をついて、侑子はゆっくりと玄関へ向かったのだった。
***
「ゆうちゃん何時ごろ来るって?」
愛佳は昼食の焼きそばを頬張りながら、母にたずねた。
大きな瞳がキラキラ輝いている。楽しみが待っている時の、彼女の表情だった。
一つ年上の従姉妹である侑子とは、非常に気が合う。
仲良しの友達は沢山いるが、侑子ほどに一緒にいて楽しいと感じる女の子は、他にいなかった。
彼女との関係はいとこと表現することがほとんどだが、実際には親友だろうと愛佳は考えている。
市内の小中学校は、明日から夏休みだ。
侑子と遊べる時間が増えると思うと嬉しくて、それが終業式の今日からと聞いたら、待ち遠しくて仕方ない。
何をして遊ぼうか。
「夕方くらいって言ってたわ。こら
子供達のコップに麦茶を注ぎながら、望美は長男を叱る。
ほーいと間延びした返事を返した遼は、三兄弟の十四才の長男だ。
そんな兄の隣に座っている次男の
双子の姉である愛佳と容貌はそっくりだが、感情表現豊かで表情がころころ変わる愛佳とは違って、物静かな少年だった。
「そうだあんたたち、後でゆうちゃん来たら、遊ぶ前に一緒に宿題したら?」
母の突然の提案に、遼と愛佳は「えー!」と不満げな声をあげる。
「まだ夏休みじゃないのに!」
「先にやったっていいじゃない。その分減るんだから。それにゆうちゃんに教えてもらえたら、助かるでしょ」
「何で年下に教えてもらわなきゃならないんだよ」
「ゆうちゃんは兄ちゃんより、頭良いと思うな」
「何だと蓮!」
「ちょっとぉ。お兄ちゃんお茶こぼしたー!」
高橋家の食卓は賑やかだ。
騒々しいと言うべきだろうが、望美はそんな子供達の様子を眺めるのが好きだった。
そして姪っ子にも、この輪のなかに入っていて欲しいと思う。
大人しくてしっかりしているように見えるし、実際に同じ年頃の子供よりも、達観してしまっているところはあるだろう。
家庭環境がそうさせてしまっているのだろうが、だったら身内である自分の前でくらいは子供でいてほしい。
「そうだ。夜に花火でもやろうか」
望美は楽しい提案をした。
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