第8話 青い半魚人

 身体から取り払われた長い衣の下は、白っぽいシャツにチノパンのようだった。


兄の普段着とそんなに変わらない。


そんな服装は一瞬の後に、彼の魔法によってきらびやかな衣装へと変化する。


 侑子ははじめ、小さな既視感を感じただけだった。

 

 しかし無意識に察知したその既視感が、むくむくと大きく成長するのはすぐだった。


 踊るように踵を打ち鳴らしたその人のスニーカーは、侑子が何度も目にした覚えのある靴に変わる。


――知ってる


 口に出しそうになって、理性で押し止める。


 けれどその人の姿を目がとらえる度に、止めることのできない言葉が頭を埋め尽くしていった。


――知ってる。知ってる


 ユウキの身体をさっきまで覆っていた衣は、インドのサリーのような、長く大きな一枚布だったようだ。


柔らかい布の感触が、首をくすぐる。


侑子の身体にその布を纏わせた青髪の長身の青年を、まじまじと見つめる。


――この人は一体誰?


 助けてくれた人。恩人だ。


 だけど、それだけではない。


ただ行きずりで出逢っただけの人が、なぜ突然姿に変わるのか。


 手首まで隠す上衣は、長い袖とは対照的に丈がやや短く、引き締まった褐色の下腹部が露出していた。


下半身は足さばきを邪魔しない程度に薄く長い布を巻き、その下から脚の線を出すぴったりした下穿きが覗く。


 高く結い上げられた見慣れない髪型と、本来の容貌をすっかり覆い隠している化粧の効果も、大いにあるだろう。


決して華奢な体型ではないはずなのに、女性のようにしなやかにも見える一方で、圧倒させるような力強さも感じられた。

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