青い半魚人②

 ぱらぱらと集まり出した観客たちの輪の中で、一番自分に近い場所へと侑子をエスコートしたユウキは、観客たちへ向かって深く頭を下げる。


 それが合図だったかのように、どこからか聞きなれない旋律が聞こえてきた。

魔法だろうか。


 ユウキは頭を上げると、そのまま滑らかな動きでステップを踏み始めた。

侑子には見覚えのない舞いだった。日舞のような、バレエのような、不思議な動きだった。


 日が傾きかけている。


 柔らかく暖色が混じりはじめた日差しの中で、彼が軽やかに動く度に、指輪と衣装がキラリとまたたく。


 青、紫、金銀に、時折真珠のような、柔らかい虹の輝き。


 侑子はその光の輝きも、色と色が織り成すグラデーションも、視界を遮る光の残像も、全て知っていた。


 ユウキは侑子が夢の中で幾度も会ったことのある、あの人物そのままだった。


 衣装を彩るのは、鱗の形を模した、無数の寒色のビーズだった。


 動く度に、小さなガラス片がぶつかり合う、涼しげな音が鳴る。


ガラスの鱗は上衣だけでなく、腰に巻いた衣にも、下穿きにも、微妙な色のグラデーションをかけながら、下の布地が見えないほどに均一に縫い付けられているようだ。


 地面を踏み鳴らす度に揺れるのは、靴の履き口を縁取った同じビーズだった。

色も大きさも下穿きと揃えられているため、褐色の足首がのぞかない限り、境目は分かりづらい。


 鱗同士がぶつかり合う音は、いかにも割れ物のような脆い印象を与える危なげなものだったが、ユウキがどんなに激しい動きで舞い踊っても、弾け跳ぶことも割れ散ることもなかった。


 ただ強い光の残像だけを、侑子の瞳に残していく。

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