第41話 『前進』


 昼過ぎ頃に街へ戻ってきた俺達は、エミリアさんへの報告をするためギルド長室に来ていた。


「本当に助かったわ! 冒険者ギルド モルフィート支部を代表して礼を言わせてちょうだい」


 エミリアさんは昨日とは打って変わった態度で、ジョークさんへ丁寧に頭を下げて感謝を述べた。


「そんな改まって礼を言われるような事ちゃいますって・・・ 僕もそれ相応の報酬もろうてますし」


 今回のドラゴン討伐でジョークさんは800万ブランもの報酬を貰っている。

 しかも、それとは別でドラゴンの素材などはジョークさんの自由にしてもいいらしい。


 という事は、ジョークさんは今回のモルフィート遠征だけで、諸々含めて1000万近く稼いだ事になるわけだ・・・

 俺とは見えてる世界が違い過ぎる。


「報酬だけで街の人達の安全が買えたなら安いものよ。 今回に関しては領主様が結構奮発してくれたみたいだけどね」


「はぇ〜、ええ領主様でんなぁ。 ほんま今回はええ仕事させてもらいましたわ。 面白い子達とも出会えたし・・・」


 ジョークさんがニヤニヤした顔でこちらを見てくる・・・


「面白い子達ねぇ・・・。あなた達も無事で良かったわ」


 エミリアさんの表情が呆れたような顔から一転して、安心したような顔へと変わった。


「いやぁ、心配かけてすいませんでした・・・」


「ほんとよ全く・・・!」


 ドラゴン討伐への同行を許可してくれたエミリアさんには改めて感謝だな・・・


「それじゃあ挨拶もこのへんにして、そろそろ帰りの馬車の時間なんで僕は王都へ帰らせてもらいますわ!」


 ・・・えっ!? ジョークさんもう帰っちゃうのか!?


「あら、そうなの?この街にもう一泊ぐらいしていけばいいのに」


「そうですよ!そんなにすぐ王都へ帰る事もないでしょう」


「いやぁ、一応僕も新婚なんでね、出来れば早よ嫁さんの元へ帰ってやりたいんですわ」


「「えっ・・・!? 結婚してたの!?」」


 あまりの衝撃にエミリアさんと声を揃えてしまった・・・


「リンク、それは失礼だぞ・・・ エミリアさんも」


「あっ!すいません!」


「そうね、あまりにも意外だったもんだから私もつい・・・」


 ファルに諭されてしまった・・・

 大人として恥ずかしいが、確かに今のはファルの言った通り失礼だった。

 でもこの服装だからなぁ・・・・


「ええよええよ。そもそも現役バリバリの冒険者で結婚してる方が珍しいからなぁ。驚いてもしゃーない」


 ・・・あら?どうやら意味を履き違えてくれたみたいだ。

 そもそも自分が特殊なことに全く自覚なんて無いんだろうな。そういうとこはある意味格好良い・・・


「それじゃあさっきも言った通り、僕はここらで失礼させてもらいます」


「奥さんを待たせてるなら仕方ないですね・・・ ジョークさんには今回色々学ばせて貰いましたし、本当にありがとうございました!」


「僕も結構楽しませて貰ったから礼なんかいらんいらん。また会える事あったらその時は飯でも行こうや」


「はい!」


「本当に今回は助かったわ。王都へ無事に帰ってちょうだいね」


「ええ、わかってます。ほなまた!」


 ジョークさんはそのままギルド長室を出ていった。


 本当にジョークさんからは色々な事を学ばせてもらった・・・

 Aランク冒険者の強さ、魔法スキルの応用の大事さ、そして新たに魔法スキルを手に入れる方法があるという事。

 今回の出会いは、俺達のこれからにとって非常に大きなものになるだろうな・・・


 その後、俺とファルもエミリアさんと少し話をしてからギルド長室をあとにした。

 2人で適当な店に入って昼食を済ませると、俺は家に帰って昨日の夜まともに寝られなかったので昼寝する事にした。




 夕方前ぐらいに目が覚めたので、リビングでゆっくりお茶を飲みながら考え事をしていると、ファルとクリスとオードリーの3人が一緒に家へ帰ってきた。


「おかえり、もう帰ってきたのか。ってあれ? ファルも一緒?」


「あぁ、ギルドから帰ってきてやる事が無かったから、2人に合流して一緒に依頼をこなしてきた」


「ファルが合流してから狩りのペースが上がり過ぎちゃったから、僕達も今日は早めに切り上げて帰ってきたんだよ」


「ファルが次々と魔物を見つけてくるから、流石の私も魔法使い過ぎちゃって疲れたわよ!」


「・・・なるほど、だから帰ってくるのが早かったのか」


 都合がいいし、クリスとオードリーにも今日学んだ事伝えておくか。


 俺達4人はそのままリビングでくつろぎながら、今日学んだ事だけじゃなく、今後の事についても話し合った。


 主にオードリーがDランクに上がるまでどう活動するかって話だったが、結論としては一旦この街で活動を続けてみて、なにかあればすぐに活動拠点を変えようという事になった。


 まぁとりあえず、しばらくはやる事が変わらないわけだ。

 オードリーのギルド貢献度を稼ぐ為に依頼をこなし、武器を新調するための金を稼ぐ。

 武器の新調に関しては、今後の活動拠点変更に掛かる費用の事も考えると少し遅れるかもしれないが・・・

 そこら辺は上手い事計算しながらやっていくしかないな。




 ジョークさんのドラゴン討伐依頼について行った日から2週間が経った。


 この2週間は相も変わらず依頼と狩りの日々を過ごしてきたわけだが、唯一変わった点と言えばオードリーが正式に『雷鳴』の一員としてギルドでパーティ登録を済ませた事だ。


 未だにオードリー以外の『氷槍』のメンバーとは顔を合わせていないのだが、正直どう思われているかわからないので、会った時どう挨拶しようかと少々不安ではある・・・・


 それより、今日はエミリアさんから俺とファルとクリスの3人に、ギルドへ顔を出せとお達しが来ている。

 多分Dランクへの昇格の件だと思われる。


 俺達は朝ゆっくり過ごしてから、合流したオードリーも含めて4人でギルドへ訪れていた。

 ギルドへ着くと、依頼受付にいるエミリアさんに声を掛ける。


「エミリアさん、おはようございます」


「あら、来たわね。それじゃあ早速2階の登録受付に行きましょうか」


「わかりました」


 俺達はエミリアさんに連れられて、冒険者登録やパーティ登録でお世話になった事がある、2階の登録受付までやって来た。


「もう何故あなた達が呼ばれたのかはわかってると思うけど、リンク、ファル、クリスの3人に改めて言わせてもらうわね。 ギルド側はあなた達の『Dランク冒険者』昇格を認める事とします」


「「「よしっ!!」」」


 遂にきたか・・・ 昇格するのはわかっていたけど、やっぱり改めて認められると嬉しいもんだな!


「ただ、Dランク昇格にあたって何個か忠告しておきたい事があるの」


「なんでしょう?」


「まず、Dランクというのは冒険者の中で最も人口が多いランクというのは知ってるわよね?」


「はい」


「すなわち、どんな人間でもだいたいDランクにはなれるってわけ。だからあまり浮かれすぎない事」


「・・・はい」


 ・・・うん、浮かれてました。

 とても恥ずかしいです・・・・


「そして、最も人口が多いという事は、最も足踏みしてる人間が多いという事でもあるわ。 それだけDランクとCランクとの間には壁があるって事なの・・・・ なぜなら、Dランクからは命の危険が増える依頼が多くなっていく。 大抵の人間はそこで心が折れてCランクへの昇格を諦めるのよ」


「なるほど・・・。Eランクの魔物と1対1なら基本的に誰でも勝てるレベルだけど、Dランクからはそういう訳にもいかなくなるからですね」


 ゴブリンのような魔物を相手にしていたところから、急にオークやバトルモンキーのような殺傷能力が高い魔物を相手にしていくのは普通怖いよな・・・


「そういう事。生活が出来ているなら無理に命をかける必要は無いって事で、Dランクに留まる者がほとんどというわけ」


「でも僕達のパーティはそうならないと思いますよ?」


「・・・わかってるわ。なにせドラゴン討伐に好き好んでついて行くような子がリーダーなんだから・・・・ でも、だからこそあなた達はDランクにいる間が大変だと思うのよ」


「・・・何故です?」


「挫折した者達が駆け上がっていく者達に嫉妬し、羨望するからよ・・・」


「・・・・・」


 うーん、なるほど・・・


「私もほとんどの者達は平和的な考えを持っていて大丈夫だと思っているけど、厄介な考えを持つ人間がいるという事も事実だからね」


「それはわかります・・・」


「気をつけ過ぎる必要はないけど、一応何かあった時の為に対処出来る準備はしときなさい」


「了解です・・・」


 魔物より人間の悪意の方がタチ悪いよな・・・


「よろしい、これが最後の忠告よ。あなた達が高みを目指しているのはなんとなくわかってるけど、無茶はし過ぎないように!! 早死にだけは絶対にしないで!」


「「「は、はい!」」」


 あなた達って言ってるけど、エミリアさんほとんど俺しか見てないんだけど・・・!

 ドラゴン討伐の件、相当根に持たれてるな・・・


「約束よ! それじゃあDランク昇格おめでとう。これからも頑張ってちょうだい」


「「「ありがとうございました!」」」


 そして、俺達はエミリアさんに諸々の手続きを済ませてもらって、正式にDランク冒険者になる事となった。

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