迷鳴雷雷 ~二度目の人生は冒険者~
下町ケバブ
第一章 二度目の少年時代編
プロローグ
殺しちまった……。
まぁ殺されても仕方がないような糞親父だったんだけど、まさか俺が自分の手で殺るとは思っていなかったな。
「痛ってぇ……」
灰皿を握っている右手に痛みを感じたので目をやると、血に塗れた右手の親指が逆方向へ曲がっていた。
震えながらも強く握られていた灰皿を手放すと、俺は足元に転がる父親だったものを眺める。
……死んでるよな?
人を殺したという事実を認識しつつも、実感があまり湧かないのは俺がコイツを人だと思っていなかったって事なのかもしれない。
それでもやった事の責任は取らねぇとかな。
……自首するか。性分的にそうしないと気持ちが悪い。
そして、俺は古びた狭いアパートのドアを開けてゆっくりと外へ出た。
俺の母親は生まれつき心臓が弱かったらしく、俺を産んだ時にその心臓が負荷に耐えられなくなってしまい亡くなってしまったらしい。
そのせいで心を病んでしまった父親は、実の息子である俺へ虐待する事が日課になってしまった。
子供の頃は
だか、俺は虐められても落ち込むような子供ではなかった。
虐められては癇癪を起こしたようにキレて殴りかかり、さらにボコボコにやり返されたとしてもまた立ち上がって殴りかかる。
我ながら少し血の気が多い子供だったとは思う。
だけど、そんな俺でも父親だけには逆らう事が出来なかった……。
暴言を吐かれ、殴られ痛めつけられても黙って耐える事しか出来なかった。
それは大人である父親を恐れていたのか、それとも母親の死に対して子供ながらに罪悪感を感じていたのか、本当のところは自分でもどうだったかわからない。
そんな家庭環境だったからこそ、俺は中学卒業と同時に家を飛び出した。
逆らって対抗するのでは無く、ただただ逃げる事を選んだ。
父親の財布から盗んだ金で遠くの田舎町まで逃げて、その町の工場に飛び込みで雇って欲しいと頼み込んだ。
俺の身の上話を親身に聞いてくれたそこの工場長は、同情してくれたのかどうかはわからないがそんな俺を突き放す事はせず、自分の家に住まわせたうえでバイトとして雇い養ってくれた。
俺は工場長を『おやっさん』と呼んで慕い、18歳になり正式に社員として雇ってもらってからは、ボロアパートで一人暮らしをしながら恩を返すように必死で働き続けた。
そして今日、26歳になった雨の日の誕生日。
仕事終わりにおやっさんや仕事仲間と2時間ぐらい居酒屋で酒を呑んでから家へ帰ってくると、記憶から消し去りたいと願い続けたあの男が何故かアパートの前に立っていた。
「やっと見つけたぞお前……」
なんで……?なんでここにいる!?
「とりあえず濡れるから家にあげろよ。な?」
ソイツは苛立ちを見せながらも、俺に約10年ぶりの命令をしてきた。
今まで死ぬほど恨んできたし、あれから10年も経ったというのに、俺は結局また逆らう事が出来ず男を部屋へあげてしまった。
先導していた俺が部屋の中へ入ってドアを閉めた途端、ソイツは堰を切ったように俺に向かって怒鳴り始めた。
「どんだけ探し回ったと思ってんだオイッ!! 母親を殺したお前が自由に生きられるとでも思ってんのか!? まず俺から逃げた事を謝罪しろ! そこで土下座するんだよ!!」
その瞬間、目の前にいる男の歪んだ顔と怒鳴り声のせいで、俺は幼少期に受けた虐待の記憶を走馬灯のようにフラッシュバックさせていた。
「おい、聞いてんのか? 土下座も出来ねぇのかお前は!? 返事は!?」
男はそう怒鳴りつけながら、パニック状態になっている俺を殴り飛ばしてきた。
殴られた勢いで床へ倒れると、頭の中が真っ白になりながらも鼻息の荒い男を見上げる。
すると、男はフッとニヤけ面を晒しながら俺の事をゴミを見るような目で見下していた。
なんだコイツは……。
なんで俺がこんな奴に見下されなきゃいけないんだ……?
なんで…… なんでこんな奴にっ!!!
気付くと俺は、流し台に置いてあったガラスの灰皿を掴んで男の頭を殴っていた。
男が倒れた後も、馬乗りになって何度も何度も顔や頭を殴り続けていた。
そして殴り疲れて立ち上がった俺は、足元に転がっている自分の父親だったモノを見下ろしていた……。
アパートを出るとまだ外は雨が降っていた。
傘も持たずに外へ出たので、最寄りの交番までの道を雨に濡れながら歩いている。
はぁ…… 結局俺は生まれてからずっと人生をアイツに縛られていたんだな。
いや、これからもか……。
「クソッ!手が痛ぇ……!」
全部アイツのせいだ!
あぁ、この事が町に広まるとおやっさんに迷惑かけちまうかな……。
自首する前におやっさんに謝りに行った方がいいか…?
拾って面倒見てくれた感謝も捕まる前に伝えておきたい。
そして俺は自首をする前におやっさんの家へ向かおうと、道を引き返そうとした——その瞬間。
ッバァァァァァァァンン!!!!
急な轟音と共に、形容し難い衝撃が体を駆け巡り俺の意識を刈り取った。
ん…… 何処だここは?
雨が降ってる……?俺は外にいるのか?
もしかして俺は野外で、しかも雨が降っている中で寝ているのか?
酔い潰れてるのかなんなのかわからんが、とりあえず目を覚まして家に帰らないと……!
徐々に意識は戻り始めているが、俺は自分がどのような状態でいるのかが全然わからなかった。
とりあえず状況を理解する為、目をしっかりと開いて周りを見渡す。
すると、足元に誰かが倒れているのが目に入った。
「うわっ!誰!?」
……えっ?
嘘でしょ、これ俺か?
なんでこんなところに俺が倒れてるんだ?
……ってかその前になんで俺が俺を見てるんだ!?
俺はパニックになりながらも、自分と思われる足元に転がる体をいろんな角度から観察した。
なんか焦げてる? なんでこんな……。
体中にある焦げの原因について考えていると、急に空がピカッと光りゴロゴロと音が鳴り響いた。
……まさか雷が落ちたんじゃねぇよな?この俺に!?
でも、そうなると今の俺は何だってんだよ? 幽霊じゃあるまいし。
ん? 幽霊じゃ…あるまいし……?
あれ!? もしかして俺死んだのかっ!?
雷が落ちて!? えっ俺が!?!?
と、とりあえず心臓の音を確認するんだ!
無茶苦茶にテンパっているが、なんとか倒れている自分の体に耳を当てて心音を確認する。
……聞こえねぇ! ってことは心臓動いてねぇ!!
つまり死んでんじゃん!俺死んでんじゃん!!!
「ウソだろ……」
というか、そもそもなんで俺は雨の中傘も刺さずに外にいたんだ?
なん…で……あれ?
あぁ、 そうだ。
俺は自首をする為に交番へ向かっていたんだった。
アイツを殺したから……。
全てを思い出し、足元に転がる焦げ臭い自分の体を見下ろしながら思いを吐き出す。
「こんな幕切れか……。俺は唯一の恩人に感謝と謝罪も伝えられないまま死んだっていうのか。これじゃあまるでアイツを殺したせいで俺が天罰を受けたみたいじゃねぇかよ……! 違うだろ!? 俺とアイツの命は等価じゃねぇだろ!? なんで俺がこんな死に方を……!!」
誰にも聞こえる事のない叫び声が雨空に消えていく。
そして、俺の霊体は空へと吸い込まれるように浮き上がっていく。
あぁ… 俺はこのまま消えるんだな……。
天国も地獄も信じてはいないが、地獄には行きたくねぇなぁ…絶対アイツがいるから。
あんな奴でも殺しちまったら地獄行きになんのかな……?
あぁ、おやっさんに会いてぇなぁ……。
こんな俺に良くしてくれた事への感謝はちゃんと伝えたかった。
そんな事を考えながらも俺の霊体はぐんぐん空へと昇り、分厚い雨雲に呑み込まれていった。
そして、消えた俺の魂は雫に変わり別の『世界』へ溢れ落ちる——新たな命となって。
「おんぎゃぁ!おんぎゃぁあ!!」
「おぉ!!おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
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