やるしかない!
原初の聖剣と光の聖剣。
二つの力が衝突し、空気が振動する。
一振り一振りが全力で、並の魔王なら倒せる力を持つ。
しかし届かない。
互いに相手の強さを知っているが故の全力、それに応え続けている。
「やっぱり強いな」
「君もね」
今まで意識しなかったわけがない。
俺が長く一位の座にいる間、彼も二位の座にいた。
俺がSランクの魔王を倒せば、彼も同じ時にSランク魔王を倒している。
お互い、国の平和の一端を担っていた自負があった。
「僕たちは似ている。でも、一つだけ違っていた……君は最強で、僕はそうじゃなかったってことだ」
「……お前」
「小さい男だと思うかい? けど、僕にとっては重要だったんだ。ずっと、君の背中を追いかけていた僕にはね」
レインが俺を睨む。
おそらく、人間に対してこれほど怒りを露にするのは初めてなんじゃないだろうか。
彼は温厚な性格で知られている。
怒りを見せるとすれば、人に仇なす悪魔たちにのみ。
「ガッカリしたよ。この程度だったなんてね」
「何が? まだちょっとしか戦ってないだろ? もう俺の底が見えたつもりか?」
「そうじゃない……いや、そうとも言えるね。君の正義は、強さは……こうも簡単に揺らぐものだったんだと、呆れているだけさ」
「……否定はしない。俺はお前たちを裏切った。先に裏切られたとしても、結果が全てだ」
レインは眉をぴくりと動かし、わずかに動揺してみせた。
どうやら事実は知らない様子だ。
だが、大きく驚きもしない。
彼も薄々感じてはいたのだろう。
王都で俺が、どんな扱いを受けてきたのかを。
「さっき、違いは一つだけって言ったよな? 間違ってるぞ」
「……」
「お前……休みはとれるか? 報酬で家は建つか? どこまで経費にできる? なぁレイン、お前は全部持ってるだろ?」
「……」
彼は無言だった。
事実、彼は俺のように劣悪な待遇をされていない。
俺が自らの待遇に不満を抱いていたのは、彼との差が目に見えていたからだ。
もちろん、金銭のために命をかけていたわけじゃない。
本気で人々の平和を望んでいた。
だけど、お金がなければ生活できない。
休みがなければいずれ倒れる。
どれだけ強くても、最強でも、俺も一人の人間なんだよ。
「お前にはあるか? 全て、俺と同じ立場になる覚悟が……俺はオススメしないぞ」
「……だとしても、僕は勇者として生きる!」
聖剣の輝きが増す。
彼の力が増幅している。
今まで力を隠していた――否、これは彼女の、聖剣テミスの力だ。
聖剣テミスには、使用者を中心とした一定領域内にいる味方の能力を向上する力がある。
これがあるから、このコンビは厄介なんだ。
聞いていたより効果範囲が広い。
もっと離して戦うべきだったけど、仕方ない。
「出し惜しみはなしだ」
俺は左手に、もう一振りの聖剣を握る。
聖剣オーディン、暴風の力。
大気の全てを支配する聖剣によって、周囲の風が吹き荒れる。
「最初から手は抜かないでくれ。僕は君を……最強を超えなきゃいけないんだ!」
「ああ、だったら俺も全力で行くよ」
元最強の勇者から、これから『最強』を背負う者に向けて……。
最大最強の試練を与えようじゃないか。
って、なんだ考え方まで魔王みたいになってきたな。
俺は呆れて笑いながら、聖剣を振るう。
◇◇◇
一方、勇者フローレアに挑む二人。
聖剣アテナの力を手にしたサラと、大人バージョンになり終焉の魔剣を手にするリリス。
人数、武器の性能的に有利ではあるはずだったが。
「っ……」
「こいつ……」
強い!
押されているのはサラとリリスだった。
「あらあら、威勢がいいのは最初だけでしたね」
「なんじゃこいつ……」
「気を抜かないでください。またあれが来ます」
「わかっておる!」
十字架から無動作で放たれる光のエネルギー。
リリスは瞬時に魔法で防壁を張り、攻撃を弾き飛ばす。
聖剣テミスは他者を強化する。
その代わり、他者の力の一部を行使することができる。
「コンビで最強……そういうことじゃったか」
「はい」
「私たちはいつも一緒です。ちょっと距離が離れた程度では切れません。とても強く、硬い絆で結ばれていますから」
ニコニコ微笑みながら十字架を担ぎ上げる。
光の聖剣は、聖剣の中でも高い攻撃力と防御力を誇る。
さらに自身の力で強化され、威力は増す。
二人が苦戦する理由は明白だった。
「離すしかありませんね」
「じゃのう」
分断する。
そうすれば互いを高め合う効果は消える。
問題は、その程度のことを予想しないわけがないということ。
「私と彼を引き離すつもりですか? そうはいきませんよ」
「……時間は?」
「あと一分じゃ。準備込でギリギリじゃが」
「やるしかありませんよ」
「じゃの!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます