パワハラに耐え続けた勇者、魔王軍が好待遇過ぎてついに裏切る ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~

日之影ソラ

『裏切りの勇者』編

パワハラ受けてます

 勇者とは何か?

 魔王とは何か?

 この二つの問いに対して、シンプルかつ究極的な答えが一つだけある。


 宿敵。


 勇者は人々の自由のために戦い、魔王は自らの支配のために武力を行使する。

 故にこそ、互いに反発し合い、出会えばどちらかが倒れるまで戦いは終わらない。

 それは宿命とも呼べるだろう。

 魔王が生まれる限り、勇者もまた生まれる。

 勇者がいるということは、倒すべき魔王が存在しているという意味でもある。

 両者はまったく異なる存在だが、見えない糸でつながっている。

 因果、運命、業……。

 それらによって強く結ばれた両者は、離れたくても離れることを許されない。

 世間が、世界が、戦うことを強要する。


 ただ、この考えは少しだけ古い。

 世界は発展した。

 人々の、悪魔たちの考え方も進化した。

 現代では勇者にも、魔王にも、多種多様な解釈が広まっている。

 しかしそれでも、揺るがない真実があるとすれば……。


 互いに滅ぼし合う敵同士。

 そう、宿敵であることだけだ。

 どれだけ勇者が増えようと、どれほど魔王が生まれようと、お互いの根底にある願いは変わらない。

 だから戦い続ける。

 千年前も、現代も、千年後も。


 勇者になった者の宿命だ。

 戦わなくてはならない。

 特に、人々の希望を一心に背負うような存在は、決して悪に屈するわけにはいかない。


「っ……ま、魔王! 今の話……本気か?」

「もちろんじゃ。そなたの生活はこのワシが保証しよう。勇者よ」


 しかしここに一人、勇者として最大のピンチを迎えている男がいた。

 剣を握る手が震えている。

 身体には傷一つ付いていない。

 対する美しい魔王は玉座に座り、未だ立ち上がらない。

 戦いすら始まっていない光景だが、すでに両者はにらみ合い、恐ろしい攻撃が勇者を襲う。

 否、攻撃ではなく……口撃である。


「そなたは今の勇者行に不満を持っているはずじゃ」

「くっ……」

「人々のため、国のために戦う。じゃがそなた自身の幸福はどこにある? 今、そなたは幸せか?」

「ぬぅ……」

「言わずともよい。ワシはわかっておる。じゃからこう提案しておるのじゃ」


 美しき魔王は玉座から立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。

 警戒して切っ先を向ける勇者だが、魔王に敵対する意志はなかった。

 勇者もまた、戦うポーズを続けているだけだ。

 それ故に無造作な接近を許している。

 徐に近づき、互いに手が届く距離になる。

 魔王が勇者に突きつけるのは魔法ではなく、一枚の雇用契約書。


「勇者よ! 我が城で雇われよ! この条件でじゃ!」

「……くっ……こんな……こんな好条件で俺が釣れると思うなよ!」


 勇者の心は揺らいでいた。

 おそらく彼の人生で最大級の動揺だった。

 なぜ、勇者である彼が美しい魔王の甘言に心を乱しているのか。

 その理由は、彼のこれまでの軌跡に現れている。


 十日前――


  ◇◇◇


「――勇者アレン、此度の働きも見事であった」

「ありがとうございます。陛下」


 玉座の間。

 国王が臣下を含む下の者と謁見するための場所。

 俺は陛下の前で膝をつき、首を垂れる。


「うむ。では此度の戦果に対する報酬だ。受け取るがよい」

「はい。ありがとうごさいま……す!?」


 思わず声が裏返った。

 騎士たちによって目の前に運ばれた報酬は、大きな木箱に入っている。

 人が一人余裕では入れそうなほど大きな箱だ。

 さぞ多額の金銭が入っていると期待するだろう。

 しかし実際は違う。


「こ、これだけ……」


 ちんまりと、大きな木箱の中央にお金が積まれている。

 パッと見の金額は、十万エン。

 大体一般男性が平凡に生活して、半月で消費する金額だった。


「へ、陛下……これだけなのでしょうか……?」


 俺は無礼を承知で尋ねた。

 すると陛下は何食わぬ顔で堂々と答える。


「そうだ。それがお前への報酬だ」

「……」


 嘘だろ?

 冗談だと言ってくれ。

 いや、どう見ても冗談を言っている顔じゃないけど。


「なんだ? 不服か?」


 当たり前じゃないか。

 

「陛下、今回私が討伐したのは、数いる魔王の中でもトップクラスの強敵。すでにこちらの街を七か所も壊滅に追い込んだ魔王ルキフグスです。魔王危険度もSランクに指定されております」

「無論知っている。それがどうした?」

「で、ですから……それを倒した報酬としては、これはいささか足りないような……気が……」


 ギロっと陛下は俺を睨む。

 怖い、怖すぎるよその眼は!

 魔王より怖いぞ。

 どう見ても怒っているよな。

 で、でも俺が言っていることは間違っていないぞ。

 自分で言うのもあれだが、俺はちゃんと成果を残している。

 すでに二人の勇者が討伐に失敗した強敵を倒したんだ。

 その報酬が十万エンって……少なすぎるだろ!

 命がけの成果がこれ!?


「つまりお前は、この報酬は間違いだと言いたいのだな?」

「は、はい……」

「うむ、言いたいことはわかった。だが、この報酬額に間違いはない」


 キッパリと陛下は答える。

 続けて陛下は大きなため息をこぼし、説明を続ける。


「確かにお前の功績は大きい。魔王ルキフグスはSランク指定の魔王だった。本来なら、然るべき報酬を与えるべきだろう」

「で、では!」

「だが、討伐に対する報酬から経費を引く必要がある。今回戦ったのは市街地だったな? お前たちの戦闘で相応の被害を受けた。その分の修繕にかかる費用は、当然お前が払うべきだ」

「なっ、あ、あれはルキフグスが破壊したものです! それに私が到着する前に、街はほとんど崩壊しておりました!」


 俺は反論する。

 嘘は一つも言っていない。

 俺が派遣された時にはもう、街中が火の海に包まれていた。

 そこから戦闘によってさらに崩壊したけど、すでに壊れていたものがもっと壊れただけだ。

 大体壊したのもルキフグスの攻撃だったし。

 俺は最善を尽くした。

 その証拠に、俺が到着してからの死傷者は一人も出していないぞ。

 だからこの反論は真っ当だと思う。


「勇者ならば!」


 怒声が響く。

 俺の身体はびくりと震えた。


「街への被害も考えて戦うべきだ! 戦う場所が悪いなら誘導しろ! 間に合わなかったなど言い訳にもならん!」

「っ……」

「お前は誰だ? 勇者ランキング1位、『最強』の称号を与えられし勇者アレンであろう! 我ら人類の希望、期待の存在! その期待に応えてこそ勇者ではないのか!」

「……その通りです」


 勇者としてはそれが正しい。

 反論したい気持ちはあるけど、それは個人としてだ。

 俺は勇者だから、人々の期待に応えなければならない。

 その点に関して反論することはできなかった。

 俯く俺に、陛下はため息交じりに言う。


「はぁ……これ以上、我々の期待を裏切るようなことをするな」

「……はい」

「では期待しているぞ。最強の勇者アレンよ」

「……」


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タイトルは――


『異世界ブシロード ~チートはいらないから剣をくれ!~』


URLは以下になります!

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