運命の人

ヤン

第1話 可愛い男の子

 仕事を終えた後、夕食を外で済ませてから、いつものコンビニに行った。顔見知りの店員に挨拶すると、


「あ。大矢おおやさん。こんばんは。今日も暑いですね」

「本当に」

「いつものでいいですか?」


 訊かれて大矢は頷き、


「ああ。いつもので」


 店員は、大矢の気に入りの銘柄のタバコをワンカートン手にして戻ってくると、


「そういえば、さっき、大矢さん好みの可愛い男の子が、ここで買い物していきましたよ。あの子、どこかの事務所に入ってるのかな。それくらい、可愛かったですよ」

「オレの好みってなんだよ。人聞きの悪い。オレは、仕事でそういう子たちを探してるだけだろう」

「わかってますよ。ちょっとふざけただけです。大矢さんは、芸能事務所の社長をしている。だから、可愛い人たちに興味がある。これでいいですか?」

「何か引っかかる言い方だけど、まあいいか。はい、これ」


 大矢は代金を渡し、会計を待つ。お釣りと商品を受け取ると、


「じゃ、また来るよ」

「ありがとうございました。でも、あんまり吸い過ぎちゃだめですよ」


 笑顔で店員に言われて、大矢は、「よけいなお世話だ」と軽く言ってから店を出た。

 クーラーのよくきいた場所から外へ出ると、いきなり熱気に包まれ、大矢は一瞬息を止めた。


(全く、東京の夏は暑い)


 心の中で呟いた。


 自宅からたった五分程の所にあるコンビニではあるが、この暑さでは、その時間すら長く感じる。少し動くと、汗がしたたり落ちてくる。


 大矢は、タバコの入れられたビニール袋を手に提げて、公園に入って行った。家へ帰るのに、公園の外の道を歩いて行くと、遠回りになるからだ。木々も多く、ちょっとした森林浴のようだ。


 家に帰ってから何をしようか、と考えながら歩いていると、ベンチのそばまで来た。外灯が点いていて、ベンチに座る人を照らしていた。


 そこには少年が一人で座っていて、何かを食べていた。この少年が、さっきの店員が言っていた『可愛い男の子』だろうか。


 中学生か高校生。おそらく、十五、六といったところだろう。


 この暑いのに、長袖のシャツを着ていたが、その少年は、汗など一滴もかかなさそうな雰囲気を持っていた。大矢は、その少年の顔を観察していたが、思わず「あ」と、声が出そうになった。

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