第3話
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24時間後。
「そんな、この私が負けるなんて!」
森の女神は逆に動物たちにかっぱがれていた。
「いやあ、悪いね、女神様」
「ま、ゲームだから、気を落とさないで」
動物たちは慰めのような事を言うが、ちゃっかり物を賭けてる。
森の女神は、神殿の中に集めていたお宝をごっそり取られてしまうのだった。
ぼわん。
いきなり、煙とともに何かが現れた。
威厳のある、頼れそうな感じの神々しい姿。
「ああ! 天の神よ、お待ちしておりましたわん」
森の女神は、ここぞとばかり誤魔化した。
煙の方へ駆け寄り、妙な『しな』を作って歓迎の意を表現しようとしたが、
「それより、負け分ちゃんと払ってよね」
「神様が道義に反したら示しつきませんよ?」
動物たちは至って冷静だった。
「わかってるってば! …ったく、うるさいわねー」
森の女神は、内心舌打ちしつつ、
「でも、今はそれどこじゃないでしょーが!!」
「女神様、これ、絵だよ」
現れたのは、天の神様の立ち割とメモ書きだった。
「な、なによ、これ!?」
森の女神は慌てふためいた。
「あ、なんか貼ってある」
「『天の神でぇーすっ!
多忙のため、そちらへは行けません。
あしからず。
代わりに選りすぐりの神の信徒らを応援に行かせます。
よろぴくぅっ!』
……だって」
「ぐっ…」
森の女神は絶句。
額には冷や汗が浮かんでいた。
「…来ないね、天の神様」
「神の信徒って?」
「人間ってこと?」
「……」
「どちらにせよ、私も戦わないといけなくなったようね」
森の女神は決意したようだった。
人間の信徒がどれだけ強かろうと、72柱に名を連ねる存在と戦うにはやはり力不足の点が否めない。
森の女神自身が、神の信徒たちに加勢してやれば、なんぼかマシにはなるだろう。
まともに戦うのはムリだろうが、策を講じればなんとかなるかもしれない。
強大な存在ほど、相手をなめてかかる傾向がある。
油断させて隙をつけばなんとかなる。
というか、それしか方法がない。
「では、神の信徒の到着を待って、それから私も一緒に対処するわ」
「はい、よろしくお願いします」
「で、それまで、もう一回勝負よ!」
森の女神は、ビシィッと動物たちを指さした。
「はいはい、またかっぱがれないよう、気を付けてね」
「くぅッ! 侮られてるしィー!!」
よっぽど悔しかったようである。
こりない女神様であった。
*
セタ、レオ、アビゴールは、散歩を終え、ツリーハウスに戻って来た。
「あれ、まだジャガーたちがうろうろしてるよ」
レオが窓からはるか下の地面を眺めた。
「さすがにここまで登ってはこれないみたいだけど」
「レオ、ジャガーは木登りが得意だよ」
セタが言った途端、何匹かのジャガーが木に登り始めた。
「ね?」
「ね?…じゃなくて、どうすんだよ?」
レオは急に騒ぎ出した。
無駄に慌てるのが役割のようである。
「アビゴールのバリアがあれば大丈夫だよ」
セタはあくまで冷静。
感情に乏しいだけなのかもしれないが。
「あ、そっか」
レオは、さっと落ち着く。
「じゃあ平気だね」
案の定、ジャガーたちはツリーハウスの一歩手前で目に見えない壁にぶつかり、
ぎょえー!
まっさかさまに地面へ落ちて行った。
「まあな」
アビゴールは魔道書片手にうなずくが、
「バァカ、カーバ、ブタのケツ!」
レオは調子に乗って、ジャガーに向かってアカンベをした。
ジャガーたちの恨みを買ったのは言うまでもない。
「ん?」
アビゴールは何かに気づいたように宙を見上げた。
「どうした?」
「いや、どうやら、天界で動きがあったようだ」
「それどういう意味?」
「レオは黙ってな」
好奇心全開のレオを、セタが遮った。
「天の神が来るっての?」
「いや、どうやら人間の信徒を送り込む気のようだ」
「それ、強い?」
「一人一人は大したことはないが、徒党を組んでこられると厄介だな」
アビゴールは思案気に言う。
「特に召喚主がやられたら、私は強制的に魔界へ戻らされる」
「今の戦力じゃ心もとないね」
セタが言った。
「そうだな」
アビゴールはうなずく。
「あ、そうだ。アビゴールさんたち悪魔を崇める信徒っているの?」
レオが思いつきを言葉にした。
話の流れはガン無視である。空気読めない系だ。
「うん?」
アビゴールは思わず聞き返してから、
「そうだ。こちらも信徒を呼び寄せればいい」
「じゃあ、やって」
セタは偉そうに言った。
「うむ。では……アルマゲ、アルマゲ、アルマゲドォォォン!」
不穏当な呪文を唱えたかと思うと、
ぼわん!
ステレオタイプ的な爆発があり、辺りにもうもうとした煙が立ち込めた。
「ごほごほ…ッ」
咳こむ音。
小柄な人影。
煙が晴れると、そこには黒髪の、アジア系の、おめめぱっちり系の、可愛い顔立ちをした人間が立っていた。
「あれ、ボク、どうしたんだ?」
甲高い声がする。
服装はジャングルに入ってくる能天気な人間にありがちな、ジャングルルック。
「ここはどこだ?」
「「おお!」」
レオとセタが歓声を上げる。
「これが、いわゆる“ボクッ娘”ですかい!?」
「標本にして保存したい」
どっちもどっちでした。
「最も近距離にいた信徒を呼んだ」
アビゴールが説明をした。
「そこな人間よ」
アビゴールはヒトの言葉で話した。
ちなみに、セタは魔道書の魔法を行使できるだけあって、人語が理解できる。
二人の話をレオに通訳している。
「あ、あなたは?」
「我が名は“タケミカズチ”」
アビゴールは威厳に満ちた態度で答えた。
「え?……」
人間は一瞬、呆けたような顔をした。
「タケミカズチノ命だって?」
そして、すぐに訝し気な顔になる。
まあ、西洋の悪魔然とした外見のヤツが言っても説得力がない。
「うむ。お主らに我が真の姿を見せてやろう」
アビゴールが言うと、
しゅみみん。
荒々しいアジア系の軍神のような姿に変化する。
首から勾玉を下げ、矛を手にしている。
「信徒よ、そなたの名を名乗れ」
アビゴールは、今までの印象とは打って変わり、古の武人といった然で怒鳴った。
「はあ、華月堂葵(かげつどうあおい)と申します」
葵と名乗った人間は、ぺこりと頭を下げた。
「おお。華月堂と言えば、蓬莱党の党首の血筋ではないか」
「え、御存じなのですか?」
葵は驚きを隠せないようであった。
「では、やはり本当にタケミカズチノ命様なんですね」
ははー。
葵は額を床にこすりつけんばかりに平伏し、アビゴールを敬った。
「よい、面を上げよ」
アビゴールは比較的上機嫌で言った。
下僕ができたからか?
「華月堂葵よ」
「はい」
「そなたに使命を授ける」
「はは、ありがたき幸せに存じます」
「私は忍びで下界に来たのだが、それをヤツらに感知されてしまったようでな、ヤツらの刺客が放たれたようなのだ」
「ヤツらがここに来ると?」
葵が急に厳しい顔つきをした。
「ならば、全力でヤツらを倒すまでです」
「うむ、頼もしいぞ」
アビゴールは満足そうにうなずいた。
が、
「あのー、どういう話の流れなんでしょうか?」
「アビゴール、何言ってるか分からん」
レオとセタは、さっぱり付いて行けてなかった。
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