第八話「擬似的なパワーレベリング状態」
四十日目~四十六日目。
あのビルという冒険者が迂闊だったのは、期日を指定しなかったことた。幸いなことに、俺たちには強くなるための時間がたくさんあった。
ミロク
Lv:16.13→4.42 Sp:0.38→16.52→1.52
≪-≫肉体
├免疫力+
├治癒力+
├筋力++++ new
├視力+++
├聴力+++
├嗅覚++
├×(味覚)
├造血
├骨強度
├肺活量 new
└精力増強 new
≪-≫武術
├短剣術++ new
├棍棒術++
├盾術++
└格闘術+++ new
≪-≫生産
├道具作成+
├罠作成++
├鑑定+
├演奏
├清掃 new
├測量 new
└料理 new
≪-≫特殊
├暗記
├暗算 new
├魔術言語++
├詠唱+
├治癒魔術+++
└付与魔術++++++++
獲得した
その一方で、肺活量が増えたり、精力増強されたり、掃除が得意になったり、目分量の計測がちょっと正確になったり、料理のコツがわかったり、暗算が得意になったりしたが、どれも例のごとく【喜捨の祭壇】によってもたらされた新しい才能だ。
ここまで全て、冒険に役立たないスキルを獲得するとは思わなかった。六つの
別に損したわけではないのだが、他のスキルの成長に使っておけばよかったという後悔は少なからずある。
一方で、クロエの方はというと、ようやく戦闘系スキルを手に入れたところだった。
クロエ
Lv:7.81(18)→10.26(-) Sp:1.14→5.65
状態変化:飢餓 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×
≪-≫肉体
├免疫力+++
├治癒力++
├視力++
├嗅覚+
├味覚+
├不死性+++
└異常耐性(毒+ / 呪術+++)
≪-≫武術
└棍棒術 new
≪-≫生産
└裁縫+
≪-≫特殊
└吸魂+++++++
棍棒の扱いを練習させて、罠に掛かった魔物を仕留めさせる。いくつか決まった型の練習と、魔物相手に思い切り振り回す訓練を反復させることで、棍棒の扱いを徐々に覚えさせる狙いがある。
棍棒はいい。難しいことを考えなくても、振り回しているだけで鈍器は強い。
鎧を着込んだ相手でもその上からぶちかませば衝撃を与えられる。リーチはあるし遠心力は活かせるし、接近戦にも適している。
更に言えば、俺が愛用しているのはただの棍棒ではなく、トンファーである。
古武術で使われる道具。持ち手が横に生えた打突武器。長い部位を肘向きに沿わせれば、手から肘までを防護できる。長い部位を相手向きに付き出せば、リーチのある打突ができる。ちょっと応用すれば、バトンの回転を利用してしなるように殴りかかることもできる。
攻防一体の武器であり、打つ、突く、払う、絡める、といった応用が幅広い便利な道具。
それがトンファーなのだ。
「俺は運体術や理論面をぺらぺらとしゃべるし細かく指摘するが、クロエはあんまり難しく考えすぎるな。結局こういうのは身体に覚えさせるしかないからな」
「はい!」
「俺の武器を貸してやる。勇者パーティ時代に俺が使ってたやつだから、品質も強度も一級品のはずだ。付与魔術を駆使して本気を出せば、魔物のどてっ腹もぶち抜けるぞ」
「はい!」
やがて、棍棒術スキルを習得できた頃には、クロエは罠に掛かった魔物を一人で仕留め切ることができるようになっていた。
四十七日目〜五十二日目。
すぐに息が上がるクロエのために、肺活量のスキルを付与した。
別に肺活量が上がったからと言って、呼吸がすぐに楽になるわけではない。
彼女の場合は肺が毒でやられている。仰向けに寝ると息苦しいのでたまに座って寝たり、血の混じった痰のようなものを吐き出したりする。命に別状はなさそうだが、苦しいことに変わりはないだろう。
それでも、心なしか彼女が楽になる効果はあったらしい。
寝付きが良くなった、なんて嬉しそうに報告されたときは、ちょっと可哀想になったほどである。
(それに、俺も外れスキル「呼吸法」とか手に入れたしな……これもクロエに渡しておこう)
相変わらずガチャは渋い。【喜捨の祭壇】の碑文によると、ガチャとは施しの精神、他者への感謝が大切なのだという。
いつも運営様ありがとう――運営という表現が気になったが世界の営みを維持する秩序神のことを指していると思われた――というお布施のようなものらしい。
いずれにせよ、呼吸法というスキルもまたクロエの息苦しさを緩和される効果があったようで、再び彼女には感謝された。
(俺も嬉しいよ。だって実は彼女が魔物を倒しても、俺にも魂の経験が手に入るんだもの)
最近は、クロエの魂の器の大きさが俺よりも大きくなっている。そのため、魔物を倒したときに出る魂のかけらを吸収する分配は、魂の器がより小さい方、つまり俺の方が大きかった。
擬似的なパワーレベリング状態。俺はクロエのおかげで、ちょっと楽をしているのだが――まあ、言わなくてもいいだろう。
五十三日目〜五十八日目。
やっぱり言った。訓練にかこつけて、俺より身体が弱いクロエを利用して楽してることを伝えると、彼女にちょっと引かれた。
「……結構意地悪ですのね、呆れましたわ」
「ごめん、魔物の解体とか雑務はこちらが受け持つよ」
「……別にいいですわ、私、施してもらってばかりですもの。元を正せば、罠を仕掛けることも、魔物を仕留めることも、魔物を解体することも全部、私の冒険者としての技術を磨くためですもの」
許してくれた。いい子かよ。
五十九日目〜六十三日目。
久々に開拓都市アンスィクルの冒険者ギルドに向かうと、何故かこちら側が逃げて、ビルが勝っていることにされていた。掲示板の貼り出しにむかついたので、思いっきり落書きする。
迷宮探索で忙しかったから無視してた、戦いたかったらいつでもかかってきな。クロエより。
P.S.「読心」したところ、お前は赤ちゃんプレイが好きらしいな。
これでよし。
周囲がざわついていたが、全部無視してさっさと帰る。素材の換金も俺の名義でやれば問題ない。懐が金貨で潤ったところで、必要な品々を買い揃えてからいつもの迷宮へと帰った。
六十四日目〜七十日目。
クロエとの模擬稽古も、少しずつ様になってきた。当然俺が圧勝するのだが、クロエもまた格上の相手との戦い方を少しずつ覚えている。
特にトンファーの捌き方は距離感を掴むのが大事になってくるので、測量技術スキルをクロエにも分け与えた。筋力スキルも一部だけ分け与えて、彼女はますます頼もしくなった。
ミロク
Lv:4.42→8.13 Sp:1.52→41.16→0.16
≪-≫肉体
├免疫力+
├治癒力+
├筋力++++++ new
├視力+++
├聴力+++
├嗅覚++
├×(味覚)
├造血
├骨強度
├×(肺活量) new
└精力増強
≪-≫武術
├短剣術++
├棍棒術++++ new
├盾術++
├格闘術++++ new
└×(呼吸法) new
≪-≫生産
├道具作成+
├罠作成++
├鑑定++ new
├演奏
├清掃
├測量++ new
├料理
├研磨 new
└冶金 new
≪-≫特殊
├暗記
├暗算
├魔術言語++
├詠唱++ new
├治癒魔術+++
└付与魔術+++++++++ new
クロエ
Lv:10.26(-)→12.74(-) Sp:5.65→7.71→0.71
状態変化:飢餓 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×
≪-≫肉体
├免疫力+++
├治癒力++
├筋力++ new
├視力++
├嗅覚+
├味覚+
├肺活量+ new
├不死性+++
└異常耐性(毒+ / 呪術+++)
≪-≫武術
├棍棒術++ new
└呼吸法 new
≪-≫生産
├罠作成 new
├裁縫+
└測量 new
≪-≫特殊
└吸魂+++++++
クロエの成長も喜ばしいが、俺の成長も見てほしい。
やはり低レベルを維持し続けてのレベリングは破格である。本職は付与魔術師のはずなのだが、もうとっくに戦闘職として戦ったほうが強くなっている。
クロエの方も順調に強くなっているのに、彼女の成長の凄さを今ひとつ伝えづらい状況だ。
(……今度、もっと色々と付与してあげるかな。視力とかもっと欲しいだろうし)
彼女の抱える状態変化の数々を見ながら、俺はそんなことを思ったのだった。
七十一日目〜七十九日目。
最近気づいたのだが、罠を仕掛けるだけ仕掛けて、その後に魔物が引っかかってそのまま息絶えるまで放置しっぱなしだったとしても、魂の経験は手に入るらしい。
わざわざ仕留めなくても魂の経験が手に入る――ということは、魔物が勝手にほいほいと引っかかっていくギミックを作り上げたら、後は勝手に成長するということである。
これは一つの発見だった。
この考えを応用すると、直接狩らなくても大量に魔物を仕留めたら魂の経験が手に入ることになる。
筋力を活かして、山の上から脈々と続く川の上流に岩をどんどん積み上げて堰き止めてしまう。これで水生の魔物たちは干上がって、俺がごっそりと狩ったことになる。
また、川の水の流れが変わったことで土砂崩れが発生し、イノシシやシカなど大量の魔物が巻き込まれてしまった。これも俺が狩ったことになるだろう。
加えて山に火をつけた。
からっ風が吹く方角が、俺達の小屋とも土砂崩れした方面とも全く関係ないことを確かめてから、組み木に着火する。生木が多くて湿り気のある山地に普通は火なんてつかないものだが、そこは筋力スキルで大量に組み上げた木々が火種となってくれた。
そりゃあもう、どえらい大騒ぎだ。
山の魔物たちは蜂の巣をつついたように慌てふためいて逃げる。土砂崩れした方面に逃げた不幸な魔物たちは、まだ泥濘んでいる地面を踏み抜いて、またもや土砂崩れを引き起こして巻き込まれる。狂乱の一夜であった。
その日は念の為、クロエも俺も眠らずに周囲を警戒していたが、興奮した魔物たちが小屋に襲いかかってくる、なんてことはなく無事に終わった。
あくる朝、ステータスを見れば成長幅がとても凄まじかった。
ミロク
Lv:8.13→27.36 Sp:0.16→38.18→0.18
≪-≫肉体
├免疫力+
├治癒力+
├筋力++++++
├視力+++
├聴力+++
├嗅覚++
├×(味覚)
├造血
├骨強度
├×(肺活量)
└精力増強
≪-≫武術
├短剣術++
├棍棒術++++
├盾術++
├格闘術++++
└×(呼吸法)
≪-≫生産
├道具作成+
├罠作成++
├鑑定++
├演奏
├清掃
├測量++
├料理
├研磨
└冶金
≪-≫特殊
├暗記
├暗算
├魔術言語++
├詠唱++
├治癒魔術+++
└付与魔術+++++++++
たった一夜の出来事。
川の上流を堰き止めて下流を干上がらせたり、堰き止めた水を山面に流して山崩れを引き起こしたことも含めたら、都合八日間。
極めて効率よく多数の魔物を討伐できたおかげで、俺の魂の経験は恐ろしい伸びになっていた。
レベル27。
俺が初めて迷宮を一つ制覇したのがレベル30ぐらいのことだったから、スキルを加味すれば当時以上に強くなっている計算になる。まあ当時は仲間に引っ張ってもらっての迷宮突破だったから、あまり自慢にはならないが。
(……手に入れた才能の欠片を、丸々クロエに渡してあげよう。彼女には強くなってもらわないと)
もっと強くなりたいという気持ちはある。
昔、ずっと勇者パーティでお荷物だった情けない自分を乗り越えたいという気持ちは、今もなお胸に強く残っている。
しかし、それはそんなに焦らなくてもいい。今はクロエの手助けが優先事項である。彼女には返し切れないほどの恩がある。
ここで得た才能の欠片はきちんと全部クロエに渡そう、と俺は思った。
八十日目。
ちょっとガチャに使った。
これだけあるのだから、ちょっとだけならいいよね……という魔が差した。結果として、俺は「威圧」「投擲」「皮膚強化」という反応に困るスキルを手に入れた。
「……本当に嬉しいですわ、前よりも目が見えるようになりましたわ」
俺から
合計35ポイント――俺が無駄遣いしてなかったら合計38ポイントだったのだが、それは黙っておいた。
(俺が無駄遣いしてなかったら、そのポイントで彼女の失われた味覚を少しだけ戻してあげられたのか……)
罪悪感。
クロエが純粋に感謝しているからこそ、俺にとっては却って心にくるものがあった。欲に負けて【喜捨の祭壇】なんかに捧げるんじゃなかった……という後悔を僅かに引きずりながらも、俺は曖昧に微笑んだ。
ミロク
Lv:27.36→4.36 Sp:38.18→35.18→0.18
≪-≫肉体
├免疫力+
├治癒力+
├筋力++++++
├視力+++
├聴力+++
├嗅覚++
├×(味覚)
├造血
├骨強度
├×(肺活量)
├皮膚強化 new
└精力増強
≪-≫武術
├短剣術++
├棍棒術++++
├盾術++
├格闘術++++
├投擲 new
├威圧 new
└×(呼吸法)
≪-≫生産
├道具作成+
├罠作成++
├鑑定++
├演奏
├清掃
├測量++
├料理
├研磨
└冶金
≪-≫特殊
├暗記
├暗算
├魔術言語++
├詠唱++
├治癒魔術+++
└付与魔術+++++++++
クロエ
Lv:12.74(-)→15.02(22) Sp:0.71→37.88→0.88
状態変化:飢餓→× 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×
≪-≫肉体
├免疫力+++
├治癒力++
├筋力+++++ new
├視力++++ new
├嗅覚+
├味覚+
├肺活量+++ new
├不死性+++
└異常耐性(毒+ / 呪術+++)
≪-≫武術
├棍棒術+++++ new
└呼吸法+ new
≪-≫生産
├罠作成
├裁縫+
└測量
≪-≫特殊
└吸魂+++++++
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