プロローグ 役立たず付与魔術師と婚約破棄令嬢と

第一話「また俺何かやっちゃいました?」

【前書き】

タイトルは無理矢理です。

もう少し要素を詰め込みたいと思ってます。単語的には、俺だけ、レベルアップ、などをどこかに挟みたいなと。


ミロクの由来:

サンスクリット語で慈しみ(maitrī)が語源。

サンスクリット語では弥勒菩薩はマイトレーヤであり、ミスラ神(古代アーリアにおいて信仰されていた契約の神)に関連があるとされる。

契約の天使メタトロンとの関係も指摘される。


クロエの意味:

χλωρός の語源を遡ると「光り輝くこと、(転じて明るいもの、金色のもの)」の意を持つ印欧語根に到達するとされている。




――――――





 





「悪いけど、もうボクたちのパーティはお前を必要としてない。

 お前の役割はないんだ。

 だからお前を追放する。

 もうこれからは、冒険の事は全て忘れて、辺境の村でひっそりと暮らすんだ」



 瑠璃色の勇者アズールから直接そう言い渡されたとき、俺は全てを悟った。



 薄々気づいていた。

 俺なんかじゃ、勇者一行である彼らのこれから先の冒険についていけないんだと。

 技能も才能も、ほとんど何もかもを失った俺には、パーティ追放しか道はないのだと。



(ああ、ざまぁねえや。もう遅い。俺はやり過ぎたんだ)



 苦い気持ちを噛み締めながら、俺は今までの冒険を振り返った。

 このパーティ唯一の付与術士だからといって張り切りすぎたのが運の尽きであった。



 付与魔術。

 一時的に相手の能力を底上げする魔術。



 皆と一緒になって冒険を始めた頃は、俺が皆を引っ張って色んな窮地を切り拓いていた記憶がある。自慢じゃないが、最初期の四人パーティだった頃は俺がリーダーを務めていたのだ。



 だがしかし、やがて勇者パーティとして名を馳せて、様々な迷宮を踏破できるようになってきた頃から、俺は皆の足を引っ張るようになっていった。



 身体が追いつかない。

 攻撃を捌ききれない。

 付与魔術もあまり効果を発揮しない。



 新たに三人加わって七人になった頃には、俺はパーティの雑用係としてしか居場所がなかった。



 だから俺は、禁断の術に手を染めたのだ。



 ――付与魔術を使って、自分の才能スキルポイントを付与したのだ。



 スキルポイントとは、技能を鍛える力の源である。

 人の隠された才能を引き伸ばし、新たなる可能性を授けてくれるもの。魂の底上げ。経験の蓄積。

 俺はそれを、皆にたいして惜しみなく使い続けてきた。



 全ては、さらなる迷宮踏破のために。



(当然、スキルポイントを大量に付与された俺のパーティメンバは、めきめきと才能を伸ばすわけで。いつまで経っても同じ場所に足踏みばかりの俺とは違って、どんどんと強くなって、何でもできるようになった)



 そう、皆はとても強くなった。

 俺なんかがいなくても、何でもできるように。



「……ごめんね、ミロク。本当はボクは……」



「……ばーか、俺の方が願い下げだよ。こんなクソ忙しくて、命懸けの、くだらねーパーティなんざよ。……そら、行けよ」



 別れの挨拶なんて、そんなのは柄じゃない。

 お邪魔ものは最後までお邪魔ものらしく、さっさと去るに限るのだ。



 初代リーダーの俺は、今までずっと、なりふり構わず皆に食らいついて、みっともないぐらい足を引っ張ってきた。

 皆を窮地に晒して、苛立たせることもあった。

 弱いくせにプライドだけは高くて、時には喧嘩して、気まずい思いをさせることもあった。



 本当に、俺は情けなかった。



「――もう遅えんだよ! ざまぁ見やがれ! 俺は明日から、自由だ! てめえらとは違って、命の危機も何もない、平穏でのどかな最高の生活ができるんだ! せいぜいお前らも冒険に励むことだな!」



 遠くなっていく勇者パーティの背中に向かって、大声で叫ぶ。



 ほら、自由だ。

 自由すぎて、泣けてくるほどだ。



 これから先に待ち受けるあいつらの冒険は、もう他人事なのだ。思い出で胸が潰れることもない。

 あのちびっ子アズールの背中を見送る日が来るなんて。



(なあ、信じられないかもしれないけど、あれ、俺が引っ張ってきたこともある連中なんだぜ)



 そして、遠く、遠く。

 小さい背中がさらに小さくなって、立ち尽くしたままの俺はこれから先とても自由なことに気が付いて、しばらく動けなかった。



















 ミロク

 Lv:47.91 Sp:0.83

≪-≫肉体

 ├免疫力++

 ├治癒力+

 ├筋力++

 ├視力++

 ├×(聴力)

 ├嗅覚+

 └味覚+

≪-≫武術

 ├×(短剣術)

 ├棍棒術+

 ├盾術+

 └×(格闘術)

≪-≫生産

 ├道具作成

 ├罠作成++

 └鑑定+

≪-≫特殊

 ├魔術言語++

 ├詠唱+

 ├×(治癒魔術)

 └付与魔術+++++++





















 レベル47。その割に貧弱なスキルツリー群。



 流石に勇者パーティと長年一緒に冒険してきただけあって、レベルは極めて高い数値であったが、スキルがそれに比べて見劣りする。

 レベルの上昇に伴って獲得するスキルポイントを、手に入れた分だけきちんと配分していれば、もっとスキルが充実してもおかしくないはずなのに、付与魔術スキルを除けば初級者冒険者と比較しても遜色ないほどに弱い。否、付与魔術に回されているスキルポイントを加味しても全般的に弱すぎる。



 理由は極めて単純である。

 俺は色んなスキルを他人に付与してきたのだ。



 ×がついているスキルは、スキルを他人に付与し過ぎて非アクティブになっているものである。×がついていないスキルについても過去に遡って他人に付与してきた回数を数えるとキリがない。

 本来の俺は、もっとスキルが全般的に高かったはずなのだ。しかし他人にスキルとスキルポイントを付与しすぎた結果、こんなに弱いステータスになってしまったのだった。



魂の器レベルが高い分、魂が強化されて、一般人よりは身体能力が高い。だがそれがどうした。レベルが高くなればなるほど、次のレベルアップは遠くなる。

 レベルが低いうちは、スキルポイントを少々他人に付与してきたからといって別に大したことなかったが、レベルが上がるにつれて、どんどん俺は周りと差がついていったんだ)



 レベルが上がっても、僅かに身体能力が伸びる他は、次のレベルアップが遅くなるだけ。

 俺からの支援を受けて通常以上にスキルポイントを獲得して強くなる味方たちと対照に、俺は、殆どスキル能力を獲得することもなく、同じ場所に足踏みを続けていた。



 結果が、勇者パーティからの追放である。



 過去にどれだけ味方に尽くしてきたとしても、今、冒険についていく力がない人間は置いていく。

 それは実力主義の考えの上では正しい考えである。

 命懸けの戦いでは、実力以外の要素は考慮に値しない。今、足を引っ張るならば、第一線から退場させるべきなのだ。それを見誤って甘い考えを持ち込んでしまえば、人が死ぬのだ。



 納得は出来る。

 少しわだかまりを感じるだけだ。



(なあ、アズ。今まで付与してきた俺のスキルポイント、頼むから思う存分有効に使ってくれよ。俺が後悔なんて微塵もしないぐらいにさ)



 もし俺が才能スキルポイントを他人に付与せず、自分だけに思う存分配分できていたら。



 そんな淡い期待を吹き飛ばすぐらいに、せめて彼女たち勇者一行には、俺の手が届かないほど大活躍をしてほしいと思った。





















 ※※※



















 魂啜たましいすすりの令嬢クロエ。

 そんな酷いあだ名をつけられた少女は、美しい顔に育ったために、王国の第八王子に見初められることになった。



『なあ、クロエ。たとえ君が魔物の血を引いていても、平民との間に生まれた卑しい身分の人であっても、私には構わない。君はとても美しい。だから私の側室として近くにいてほしい。結婚してくれないか』



 婚約の言葉。耳にしたときは、嬉しくなるよりも先に感情が冷めていったのを覚えている。

 美しい声で紡がれた言葉の端々に、相容れない差別意識や、都合のいい考え方がちらりと覗いている。

 こんな男に見初められてしまったことを、クロエは僅かに後悔していた。



 王子のプロポーズは、クロエの立場を一層難しくさせた。

 彼の継承権はさほど高くない。とはいえ、正式に王家継承の資格を有する王子の一端なのだから、社交界への影響が皆無というわけでもない。

 結果的には、あまり関わりたくなかったはずの、王宮政治の渦中へと巻き込まれてしまった形である。



 魂啜りレイスの亜人と、道楽貴族の間に生まれた隠し子という経歴。

 不完全なアンデッド体質のため、生まれつき身体が虚弱で、目も悪い。



 ただでさえクロエは、経歴に後ろ指を刺されるような点が多い。

 それに加えて、社交界で浮名を流す伊達者の第八王子に見初められてしまったのだから、嫉妬や嫌悪のせいで厄介なことになってしまった。



 毒を盛られたのは、当然の流れだった。



(濡れ衣の罪を着せられて、殺人未遂容疑で王都から追放されてしまうなんて、私らしい終わり方ですわね。毒を盛られたのは私なのに)



 普段は虚弱な割に、アンデッド体質が効果を発揮したのか、半端に死に切れなかった。

 身体は満遍なく神経毒にやられて麻痺してしまい、味覚も嗅覚も殆どなくなってしまい、呼吸は常に浅く苦しくなってしまった。



 何よりも、黒い水ぶくれのような疱瘡が顔一面に出来てしまい、顔はとても醜くなってしまった。



(王子にはあっさり捨てられてしまいましたわ。婚約破棄だって。遠くの静かな場所で治療に努めたほうがいい、庶民の出なのに王宮の政治に巻き込んで申し訳ない、私のことは忘れてほしいだなんて、とても都合のいい言葉)



 優しく慮るような言葉遣いで、邪魔者を追い払っただけ。

 結局のところ、クロエは何もかもを失ってしまったのである。



(……疲れちゃったし、死のうかしら)



 死ねるならば。



 王都キファラフから辺境へと旅立つ馬車の中で、どこかくたびれてしまった冒険者の男ミロクと隣同士になったのは、そんな希死念慮に心を惹かれている最中のことであった。





















 ※※※





















 馬車が大きく揺れて、そのたびに積み荷がうるさく音を立てる。

 とある貴族令嬢が辺境に引っ越すので、現在馬車はその家財を運んでいる最中であった。

 そして俺、冒険者ミロクはというと、この馬車の護衛として荷物と一緒に輸送されている途中である。



 割れやすい調度品がなくてよかった、と思う。

 しっとりした質感の上品な机や椅子、植物図鑑などの分厚い本、いくつかの上品だがつつましい服飾品、銀細工の食器類。

 これらの品々が地面の凹凸によって踊っているのが現状である。飛び散らないように箱詰めされて紐でくくってあるものの、箱の中でにぎやかな音を立てている。本なんかは傷んでいるかもしれない。もしこれで陶器やガラス細工があれば、全部だめになっていただろう。



(……にしても、この娘さん、さっきからずっと無口なんだよな。同じ馬車の中で気まずいったらありゃしないぜ)



 俺は内心でため息をついた。

 もうなんだかやる気が出ない、いっそのこと王都キファラフから離れた、どこか辺境の地に向かってみよう――そんな気持ちで冒険者ギルドから受注したのが、この護衛依頼である。



 貴族の護衛なので金払いは悪くない――と思ったがそんなことはなく、依頼料は結構渋い。

 目的地は辺境の地なので、ダンジョンが近くにたくさんあるキファラフの都から離れたくない冒険者たちは、誰も依頼を受けたがらない。



 ずっとぽつんと残っていた依頼だったが、金に困っていなくて、王都から離れたかった俺にとっては渡りに船だった。

 依頼主は、貴族令嬢のクロエ。

 耳に入った風の噂によると、悪徳令嬢とか魂啜りとか言われているらしかったが、俺からするとどうでもよかった。



(顔が、思いっきり爛れてる。ちょっと不気味だったけど、見慣れてくると、可哀想だ)



 貴族令嬢は、顔のほとんどがどす黒い疱瘡に覆われていた。はっきり言って死病か何かに罹っているんじゃないかと思うほど、不気味な顔であった。











 ――この時の俺は、何も知らなかった。



 馬車引きの男が、王都キファラフの使者から金を握らされていることも。

 馬車の通っている道が緩やかに正規ルートから外れて、盗賊と魔物の住処に近づきつつあることも。

 本来なら馬車交易の中継点になる宿舎街に到着するはずが、全然そこまで至らずに、野宿してしまうことになることも。

 そして、長距離の旅なので野営が必要だ、火を起こしてほしい、とお願いされて、薪を見繕うためにちょっと歩いている隙に、馬と共に馬車引きの男に逃げられてしまうことも。













 ※※※











 気が付くと、御者に置いていかれた。

 最初は全く訳がわからなかった。

 馬と一緒にさっさと御者がどこか遠くに走り去ってしまうなんて、一体誰が予想できるだろう。



「……は、はは、再び追放されてしまったってか? また俺何かやっちゃいました?」



 そんな訳あるか、と心の中で自分に突っ込むも、乾いた笑いしか出てこなかった。



 荷物の追い剥ぎにしては奇妙である。金目のものは大して持っていかれなかった。貴重品は肌見離さず身につけていたからというのもあるが、積荷にほとんど手を付けないのは道理が通らない。



 欲に目がくらんでの犯行とは考えにくかった。

 むしろ、最初から俺たち二人を置いてけぼりにするのが目的だったようにも感じられる。



「……くそ、寒い。やられたな、毛布を持っていかれたのは誤算だ」



 俺は声を低くして毒づいた。今は朝霜ができるほど寒い季節だ。毛布がないと一晩過ごすのも難しい。

 体力の消耗も馬鹿にならないし、何よりも――。



「……っ、ふ、ふふ……もう、駄目ね……」



(護衛対象のお嬢さんが、さっきから唇が青くて身体の震えもひどい。もしかしたらこの子は下手したら死ぬかもしれん)





















 クロエ

 Lv:2.49(-) Sp:0.57

 状態変化:飢餓 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×

≪-≫肉体

 ├不死性++

 └異常耐性(毒+ / 呪術+++)

≪-≫生産

 └裁縫+

≪-≫特殊

 └吸魂++++





















 状態変化欄を見ると、あまりにも酷いバッドステータスが付与されている。王都で何か重罪を受けて呪われてしまったのかと思うほどだ。魔女裁判の対象にでもされたのだろうか。顔の惨状も、拷問で火で炙られたというのなら納得も行く。整った身なりから見ても、貴族間の政権争いに負けた末路のようにも思われる。

 極めてひどいのが、生きながらにして肉体を腐敗させられて、視力と味覚と嗅覚をほとんど奪われている点である。きっと身体は、掻痒感と不快な痛みでいっぱいだろう。



(レベルも圧倒的に低い。肉体も脆くて弱いに違いない。加えて、飢餓状態だ。多分彼女の命は長くない……だろう)



 俺は貴族風の身なりの彼女――クロエに同情した。

 もちろん、不死性、吸魂、の文字が気にならなかったわけではない。魔女裁判の呪術実験でアンデッドの体にされてしまったのだろうか。

 だが、それが何だというのか。こんなに弱い身体で何ができよう。

 きっと彼女は、野犬に襲われてもろくな抵抗さえできずに死んでしまうだろう。



 そんなことを考えていたら。

 ふと目の前の彼女が、そこの人、と俯きながら呟いた。



「……そこの人。私を見捨てて……お逃げなさい。きっと、私……明日の朝には、凍えて、死んでいるでしょうから……」



「……何言ってるんだ、見捨てるとか言われても」



 困る。

 はいそうですか、と置いていくのは良心が咎める。

 だがそんなことはお構いなしとばかりに、彼女は震える声で続けた。



「私、慣れてますわ……ひとりぼっちで、夜を過ごすの。怖くも、寂しくも、ありません……。月夜の下で死ねるなら、本望ですもの……」



「いや、そういう意味じゃなくてさ。火を起こして暖を取れば何とかなるかもしれない。吹き付ける風は我慢してさ、一晩だけ辛抱するんだ」



「……およしになって。私みたいな、醜い女……ひっそりと死ぬのが……お似合い、ですわ」



(……もしかして、泣いてる?)



 俺は気が付いた。

 声が湿っぽさを帯びてくぐもったことに。俯きながら唇を震わせていることに。



「……もう、生きるのに疲れましたの。本当は、私……」



「……」



「……」



 沈黙。

 いや、続きは言わないのかよ――と思ったが、あんまり続きを聞き出すつもりもなかった。何を呟こうとしたのか俺にはわかる。

 死にたくない。

 死にたい。

 絶望の果てに疲れてしまったような顔付きで思わず呟くことなんて限られる。



 いっそ死んで楽になりたいが、心のどこかではまだ幸せを忘れきることが出来ていないのだ。



(やめろよ、それは俺に刺さる。そのすがるような顔付き、俺には思うところがあるんだよ)



 俺に縋ってるわけじゃなく、思い出に縋ってることはひと目で分かる。

 だがどちらも同じだ。

 ほとんど淡い、儚い希望に縋る顔付きは、俺にとってはとても胸に刺さる。そんなの言うまでもない。



(アズ。お前、昔はよくこんな顔してたんだぜ)



 二、三度ほど。あるいはそれよりもっと。

 押すに押されぬ瑠璃色の勇者アズールは、かつてこんな顔をよく俺に見せていた。

 俺に縋っていたのだ。とても強いはずの彼女は、昔は、信じられないほど弱かった。

 懐かしい記憶。今となっては、俺と彼女しか知らないことだろう。あの時あんなに俺が頼られていたなんて。



 だから俺は、思わず手を出してしまった。

 あの日の続き。俺がまだ皆を助けてあげられた頃の話。



(飢餓 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚× ……改めて見ると、酷いもんだな)





















 ミロク

 Lv:47.91 Sp:0.83

≪-≫肉体

 ├×(免疫力) new

 ├×(治癒力) new

 ├筋力++

 ├×(視力) new

 ├×(聴力)

 ├×(嗅覚) new

 └×(味覚) new

≪-≫武術

 ├×(短剣術)

 ├棍棒術+

 ├盾術+

 └×(格闘術)

≪-≫生産

 ├道具作成

 ├罠作成++

 └鑑定+

≪-≫特殊

 ├魔術言語++

 ├詠唱+

 ├×(治癒魔術)

 └付与魔術+++++++





 クロエ

 Lv:2.49(-) Sp:0.57

 状態変化:飢餓 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×

≪-≫肉体

 ├免疫力++ new

 ├治癒力+ new

 ├視力++ new

 ├嗅覚+ new

 ├味覚+ new

 ├不死性++

 └異常耐性(毒+ / 呪術+++)

≪-≫生産

 └裁縫+

≪-≫特殊

 └吸魂++++





















「……え? 嘘、目が……」



(まだ足りない。彼女の肉体は弱すぎる。どうにかしてあげないと)



 筋力でも渡してあげたら、基礎代謝が上がって体温が高くなるだろうか。だがそれよりもっと根本的な解決策がある。

 魂の器レベルを補強してあげること。レベルが上がれば伴って肉体も満遍なく強くなる。彼女のレベル2という数値は幼児より少し高い程度で、あまりにも低かった。肉体への加護はほとんどないと言ってよい。



 魂の器の譲渡。

 過去に付与魔術を使っても不可能だったこと。才能スキル才能の欠片スキルポイントの譲渡は可能なのに、魂の器レベルは何故か不可能であった。



(この無駄に成長して伸びしろが殆ど無くなってしまった俺の魂の器レベルを減らすことができたら、俺も助かるんだけどな)



 そんな都合のいい話があればの話だが――と鼻で笑いながらも、俺は付与魔術の発動をなおも続けていた。





















 ミロク

 Lv:47.91 Sp:0.83→0.00

≪-≫肉体

 ├×(免疫力)

 ├×(治癒力)

 ├筋力++

 ├×(視力)

 ├×(聴力)

 ├×(嗅覚) 

 └×(味覚) 

≪-≫武術

 ├×(短剣術)

 ├棍棒術+

 ├盾術+

 └×(格闘術)

≪-≫生産

 ├道具作成

 ├罠作成++

 └鑑定+

≪-≫特殊

 ├魔術言語++

 ├詠唱+

 ├×(治癒魔術)

 └付与魔術+++++++





 クロエ

 Lv:2.49(-) Sp:0.57→1.40

 状態変化:飢餓 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×

≪-≫肉体

 ├免疫力++

 ├治癒力+

 ├視力++

 ├嗅覚+ 

 ├味覚+ 

 ├不死性++

 └異常耐性(毒+ / 呪術+++)

≪-≫生産

 └裁縫+

≪-≫特殊

 └吸魂++++





















(なけなしのスキルポイントも全部付与した。これで、肉体を補強できる何かに割り振ってあげれば、生き延びる可能性は増えるかもしれない)



「!? 貴方、何をしているの! 貴重な魔力を、私の治療なんかに……!」



 はたと彼女が気づいたように顔を上げていた。

 俺の行いを咎めるような声色と、信じられないものを見たような表情。顔の爛れた女性は今、混乱しているようであった。

 確かに、俺の手は魔力を帯びて光っているし、治癒魔術を施しているようにも見えるだろう。



(だが、違うんだよなあ。もう俺は治癒魔術なんか使えないんだ)



 付与魔術で、免疫力や治癒力、他の肉体能力を向上させているだけである。

 もっと言えば、色んなものを失っていた彼女のために、ささやかな祈りを与えただけだ。

 断じて、治癒を施しているわけではない。



「駄目よ、やめて、私なんか、私なんて……!」



(ついでに神様。俺の余分で仕方がない魂の器も、この子にくれてやって貰えないか。今日の夜を凍えないで過ごせるぐらい、ありったけを)



 俺の感傷に呼応して、付与魔術の光が強くなる。

 その光を見たら、泣き虫だったちびっ子のアズのことが頭によぎった。







 ――あのね。あの日、死にたいって言っちゃったけど、本当はボク、助けてほしかったんだ。







(知ってるよ、アズ。だから助けただろ?)



 もう遅い、手遅れだ、ざまぁねえや。

 俺って奴はとっくに手遅れで、明日にでも野垂れ死にそうな人なんかに、こうやって貴重な才能スキル才能の欠片スキルポイントを与えようとするぐらいの、とんでもない大馬鹿者なのだ。



 昔に戻ってやり直せるなら、という後悔はたくさんしてきた。

 でもきっと俺は、同じ失敗を繰り返すのだ。

 手遅れなのだから。



 ざまあみろ。

 俺はもう、殆ど何もかも失った。

 魂がするりと抜け落ちるような、喪失感が――。





















 ミロク

 Lv:47.91→2.91 Sp:0.00

≪-≫肉体

 ├×(免疫力)

 ├×(治癒力)

 ├筋力++

 ├×(視力)

 ├×(聴力)

 ├×(嗅覚) 

 └×(味覚) 

≪-≫武術

 ├×(短剣術)

 ├棍棒術+

 ├盾術+

 └×(格闘術)

≪-≫生産

 ├道具作成

 ├罠作成++

 └鑑定+

≪-≫特殊

 ├魔術言語++

 ├詠唱+

 ├×(治癒魔術)

 └付与魔術++++++++ new





 クロエ

 Lv:2.49(-)→5.49(42) Sp:1.40→5.60

 状態変化:飢餓→× 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×

≪-≫肉体

 ├免疫力++

 ├治癒力+

 ├視力++

 ├嗅覚+ 

 ├味覚+ 

 ├不死性+++ new

 └異常耐性(毒+ / 呪術+++)

≪-≫生産

 └裁縫+

≪-≫特殊

 └吸魂+++++++ new





















「「……え?」」



 しばらくして、二人の間抜けな声が重なった。

 それと同時に、ダンジョンに入るための魔法の鍵が地面に落ちる音が耳に聞こえた。











 ※※※











 これは、俺、付与術士ミロクが世界を変えるような冒険を行う物語である。

 それに至るにはいろんな紆余曲折があったのだが、最初のきっかけは、レイスの血を引く貴族令嬢――悪徳令嬢のクロエとの出会いであった。



 魂の器レベルだけ無駄に獲得してしまった俺と。

 魂を喰らって命を繋ぐ、身体の虚弱なクロエと。

 二人の見つけてしまった、外れスキルばかり手に入る隠しダンジョン【喜捨する廉施者】と。



 勇者一行から追放されてしまった俺の冒険譚は、まさにここから始まるのだった。





――――――




本日より連載スタートです。

タイトルは悪ふざけと勢いでつけちゃった感があります。

目指すは「なろう系」の二郎系、対戦よろしくお願いします。


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