遊び

「俺は、今日婚約破棄をする!」

「嫌です♪」

「破棄をする!」

「嫌です♪」


 薔薇が咲き誇る庭で紅茶を楽しんでいると、突然物騒なやり取りが聞こえてくる。その声をたどっていくと、その先に居たのは同じ顔をした2人だった。

 同じ青のドレスを見に纏い、初めての者が見ればどちらか判別できないほどに2人はそっくりだった。

 それもそのはずである。なにせ、2人は双子なのだから。


「アルマ、アレン。それはもうやめないか?」

「「嫌です♪」」

「はぁ……。どうせアイリスかマリーの……マリーの仕業だろう。アイツも悪影響しか与えないな」


 そろそろ本気でクビにしてやろうか? そう思っていると、不意に背後から抱きつかれる。


「何をしているんですか、アイン?」

「ああ、アイリスか。いや、2人に演劇をやめさせようと……」

「演劇?」

「「嫌です♪」」

「……なるほど。いつもの婚約破棄ごっこですね」

「いつも?」

「ええ、ここ最近はずっとこのやり取りをしているみたいです。なにか気にいるところがあったのでしょう」


 アイリスはなんでもないように言うが、王族が婚約破棄と言うのは問題があるだろう。……俺が言えた義理ではないが、だからこそ余計に心配になる。

 それに、もう一つ大きな問題がある。


「……なぜアレンまでアルマと同じドレスを着ている」

「えっ? 可愛いじゃないですか。アインはそう思わないのですか?」

「いや、そう言う話しじゃ……」

「お父様、私は可愛くないの?」


 俺とアイリスの話しが聞こえてしまったのか、アインが涙を潤ませながら見上げてくる。


「くっ…………可愛いぞ」

「アレンばかりずるい! アルマは、アルマは!」

「ああ、もちろんアルマも可愛いぞ」

「わーい」

「少しお母様と話しがあるから2人は向こうで遊んでおいで」

「「はーい」」


 大人しく言う事を聞いてくれた事にホッとしつつも、直面している問題にどう対応するかで頭を悩まされる。


「アイリス、ずるくないか?」

「ふふっ、ずるいとは酷いです。私は見たままのことを言っただけですよ」

「はぁ。今更アイリスに口で勝てるとは思っていないよ。ただ、なぜアレンまでドレスを着ているんだ。アレンは男だぞ」

「アルマばかり可愛い服を着てずるいと泣き付かれたんですもの。仕方ないじゃないですか。それとも、アインはそんなアレンを放っておけと?」

「うぐっ……はぁ。わかった。ドレスの件はもういい。だが、あの婚約破棄ごっこ……だったか? あれをやめさせるのを手伝ってくれ」


 服装なら後でどうにでもなる……はずだ。少なくとも社交界に出るようになればわかってくれるだろう。それよりも、今はあの遊びの方が問題だ。


「もう手遅れだと思いますが……それに大丈夫だと思いますよ?」

「何を根拠に……」


 アイリスが見ている方向を見ると、子供達の目線に合わせるためにしゃがんでいるメイド姿のマリーが居た。


「アインを揶揄おうとしたが、子供達が思ったより影響を受けてしまい、慌てて軌道修正をしようとしているみたいですね」


 アイリスが子供達の元へと歩いていくので、それを追いかけるように前に進む。だんだん声が聞きとれる距離になり、アイリスが言うように、マリーから焦りが感じ取れた。


「あ、アレン様、アルマ様。そう易々と婚約破棄と口になさるのは……」

「でもマリーが教えてくれた事だよ?」

「うぐっ、それはそうなのですが……(まさか、殿下に一言、「こんやくはきー」と言って困らせてもらうだけのつもりだったのですが、こうなるのは予想外です。なにか解決方法を考えなければ……)」


 いつもなら自業自得だと、それで終わらせられるのだが、子供達が関わっている以上そうは言っていられない。

 少し離れた場所で、俺もマリーと同じく頭を抱えるのだった。

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