北の国
「 妾と婚約するがいい!」
この国では珍しい銀の髪色、肌色はアイリスよりも白い。そんな少女が高らかに宣言した。
問題なのは相手が俺だという事。そして、この場がプライベートではなく公の場である事だ。
それに、俺の答えは決まっている。もちろん――
「お断りします」
さて、どうしてこんな奇妙な事が起きてしまったのか。それを少しずつ話していくとしよう。
まぁ、結論から言うならまたもやルーカスがやらかした。
彼女、ニーナはこの国から見て北に位置している国の姫である。そう北……今は我が国と唯一戦争中であるあの国だ。
使者が来る。そう聞かされればようやく和平について話し合う事ができるのではと考える事だろう。俺たちもそれを期待した。
まぁ、その結果がアレだったわけだが……
「何故じゃ! 妾と婚約すれば、妾の国と其方の国の和平が叶うのじゃぞ! なぜ断る!」
――うん。俺は笑えばいいのだろうか? この荒唐無稽の冗談に?
「其方は民の幸せを考えておらんのか!」
ははっ……笑えない。
例え姫だろうと敵国。さっさと捕まえて送り返せばいい。のだが、厄介なのがもう1人……
「兄上はこの国の民の事をなんとも思っていないのか!」
何故か彼女を護衛するように立っているルーカス。敵国の姫をなぜ王子が護衛しているのか意味がわからないが、ルーカスの後ろでひたすらに頭を下げ続けている彼が気の毒過ぎる。
たぶん北に一緒に行った後でもずっとあんな感じだったのだろう。目を瞑るだけでその光景が……
……うん。これからも頑張ってもらいたい。
彼について考えるのはやめ、目の前のコレをどう対処しようか考える。いや、そもそも考える必要はあるのか?
「……宰相、断って何か問題はあるか?」
「いえ、何もありません」
「そうか、まぁ、そうでなくても断るが……、そういう事だ。諦めて帰ってくれ」
「なぜじゃ!?」「なぜだ!?」
見事にハモる2人。仲がいいな〜。もうお前たちがくっつけばいいんじゃないか?
「別に私でなくともルーカスでいいだろう」
この場にいる誰もが頷いた。ルーカスも王族の血を継いでいる。なんだ、簡単ではないか。
「「断る(のじゃ)!」」
「はっ?」
「「誰がこんな自己中心的なやつなんかと!」」
「仲がいいな」
「「良くない(のじゃ)」」
もう面倒くさくなってきた。というか、隣にいるアイリスが一言も話さずニッコリとしているのが怖い。さらに、母上も何も言わないのが1番恐ろしい。
父上は顔を青くして黙っているだけで役に立たないし、コレは俺がしないといけない問題か? ここは王としてピシっと断って欲しかった。
「何故、ここまで乗り気ではないのじゃ!? 困るのは民じゃろ!」
「……そもそも、戦争を仕掛けて来たのは誰だと思っているんだ?」
「? それは我が国だが……」
「じゃあ、今優勢なのは?」
「それも我が国の方が……少し、すこーしばかり優勢じゃのう」
「殿下、今は片手間で相手をしていますが、潰すのであれば、即座に実行できます」
「ま、待て! 妾の国の方が劣勢じゃ!」
ジークが報告をすれば、たちまち顔を青くして正直に話す彼女。この場でなぜ嘘をつこうと思ったんだ。まったく……。
「それで、民のためと言うのであれば、そちらがさっさと戦争をやめればいいだろう。こちらはちょっかいをかけられているから対応しているだけで、北の国の土地に興味はない」
「きょ、興味がない……じゃと……」
言いすぎたか? いやでもここまで言わないとわかってくれなさそうだしな。北は作物が育てにくい。だからこそ、彼女たちはこの国を狙って来ているのが、こちらからするとわざわざ管理する土地を増やすのは面倒なのだ。
養わなければいけない相手は増えるし、相手の心情など色々と気を遣わなければならない。そのような面倒ごとを誰がしたいものか。
だからこそ、勝てる戦も適度に引き伸ばしていたのだ。それも手加減ができ、こちらの被害も一切出さなくて済む戦力差があったからできた事だ。
目に見えて落ち込む彼女を見て、コレで終わりかなと、一息つく。
だが空気をまったく読まない、読めない人間が一人……
「俺がこの国の王になるんだ!」
えっと、コレも俺が相手しないとダメ? 駄目ですか、そうですよね。ですが父上が相手をするのは?
そう思っていると、母上が笑みを深める。父上は駄目と……わかりました。俺が相手しますよ。
はぁ……
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