ヒーロー症候群
秋野凛花
一. ヒーローについて
『一件のボイスメッセージを再生します。
…
……
……報告。
最近増えている、とある病気と思われるものの症状について、ここに残しておく。
まず、発症する人。これは定まっていない。老若男女、誰でも発症するようだ。生まれたばかりの子供から、死にかけの老人まで、症状が出るやつは様々だ。
次に、その症状について。……これも定まっていない。本当に、迷惑な話だ。定まっていれば、まだそれを治す方法も見つけやすいというのに。
……いや、治す必要があるのかもわからないが。
ここで、その症状を持つ者を見た者に話を聞いたときのボイスレコーダーを再生する。
…
……
──すげぇよ、俺、見たんだって! あいつがこう……ヒュンヒュンって空を飛び回ってるのをさぁ! それで、なんかヤベーやつのとこまで飛んでいって、カッコ良く倒すわけ! マジでさ、映画で見たスーパーマンさながらだったよ!
──っあ、ほら! 見ろよおっさん! 今もあいつ、あそこを飛んでるんだって! すごいだろ! 俺の兄貴!
……
…
……
──え……ああ、あの子のことですか……? 知ってどうするんですか……? ……何でもいいって? はぁ、別にいいですけど……。私は、近寄りたくないですね。だって、怖いじゃないですか。普通ありえないでしょ? ……動物と、話せるなんてさ。
──ほら、あそこにいるでしょ。飼育ケースの中の兎に話しかけてる女の子。あの子、この前給食費をパクったクラスメートを告発したんですよ。そこまではすごいね、で別にいいんだけど……。兎さんに教えてもらったの、って、意味わかんない。それで皆、ああ、最近噂のあの病気かなって、遠巻きにするようになったんです。
……
…
……このように、症状を実際目の当たりにした人の意見も様々だった。更にこの聞き込み調査でわかったことだが、この症状が出るのは若者……特に十代が多いらしい。何故なのかは、更なる調査が必要だろう。
次に、実際に症状が出た者に話を聞いたときのボイスレコーダーを再生する。
…
……
──あー、えっと……何で飛べるようになったか……? 俺にも良くわからないです……。なんか、弟のバッグをひったくられて、それでカッとなって……追いかけないとって思ったら、飛べるようになってました。
──それ以降、誰かを助けないとっていう気持ちが大きいです。まあ、こんな力なんて日常生活で使いようがないし、せっかくなら誰かを助けるために使おうと思います。
……
…
……
──動物さんは、私に色々なことを教えてくれる……。だから私も、動物さんに色々なことを教えてあげたいの……。
──聞こえるようになったのは、兎さんがクラスメートの男子にいじめられてるのを見てからです。……助けてって、声が聞こえてきました……。お礼に、色々なことを教えてくれるようになりました。他の子たちも、そうです。……どうせなら、他の人のために使ってもいいんじゃないかと思うんです。この、能力……? を……。
……
…
……本人たちの話からも、目撃者と変わった証言は無い。本人たちにもどうしてその症状が出たのかはわからず、そして出る症状の法則性も見つからない。
ただ、あくまで人間のできる範囲の能力であるようだ。実際に歴史上には、空を飛べる人間も、動物と話せる人間も認識されている。その公式文書があっているのか、という議題は一旦置いておく。
だから、無から有を作り出すことは不可能なようだ。例えば……手、何もないところから水を生み出す、など、そういう症状は無いようだ。あくまで、現時点まで観測されている情報だが……。
そのため、この症状を……今までの情報から、後天性能力向上症候群、と名付けることになった。……今後は、この名前で呼ばせてもらう……。
この、後天性能力向上症候群は……不思議なことに、我々が把握する前から、一般人には周知の事実であったようだ。……そのため、専門家では無く、一般人が付けた、いわゆる属名が存在する。しかしこれも不思議なことに……誰が初めに呼び始めたのかはわからない。ある程度の、予測も付かないのだ。
……話を戻そう。この属名は、後天性能力向上症候群の言動から付けられたものであるようだ。彼らは皆、何かしらの能力が発達し、誰に言われたわけでもなく、共通の意思を持つ。……彼らは、ヒーローになろうとするのだ。……人を助け、人に感謝される、ヒーローに。だから、彼らの症状を、皆はこう呼んだ。
──ヒーロー症候群、と。
……
… 』
……。
『保存されたボイスメッセージはありません』
……。
『報告書
以下より、後天性能力向上症候群、通称ヒーロー症候群(以下、ヒーロー症候群と記す)について国が定めたことについて述べる。
ヒーロー症候群を発症した者は、本人たちにもその全貌がわかってはいない。よって彼らに判断のすべてを委ねるのはとても危険なことであるという結論が出た。そこでヒーロー症候群を発症した者全てに、以下の規則を設けることを決めた。
ヒーロー症候群を発症したら
・速やかに国に申し出、国の指示に従うこと。
・どんな理由があれ、例え未成年でも反抗した者は処罰するものとする。ただし未成年は処罰は軽くなる。
・申し出が無かったことが発覚した場合、これもまた処罰するものとする。
その後の対応について
・国が定めたグループに配属され、その範囲でのみの仕事をすること。拠点は近くの交番、及び警察署とし、FAXにて仕事の情報を提供する。それ以外の仕事はいかなる理由があろうと認めない。
・国が配布する、GPS付きのヒーローバッチを身につけること。
・人を助けるという目的以外でヒーロー症候群を使用しない。私的な理由は特に重い処罰となる。
・個人情報保護のため、本名は名乗らず、国が定めたコードネームを使用すること。
・人を助けたお礼にはいかなる物も受け取らないこと。
・以上を守らなかった者は、処罰を課す。
ヒーロー症候群は他の病気とは違い、表面的にはわかりづらく、一見周りとの変わりがない。しかしその症状は時に周りを脅かすものになり得る。よって我々国が管理することが必要不可欠だ。』
……。
『日の丸に栄光あ』
……。
炎が、煌めく。
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