第10話 その力の程は

 リベルが少し覚悟を決めたことで、リナもある程度の情報を開示する。


「じゃあ、約束通りあんたのポジションを説明するわね」

「ああ」

「まずあんたは叛逆者って言う、世界でたった一人の神への絶対的優位性を持っている人間。ここまではいい?」


『神話大全』とかいう本にも載っていた、叛逆者という存在だ。

 リベルはしっかり頷く。


「で、本で調べてみたけど、前例なんてないから予測でしか能力が書かれてなかった。そこにあったのは、神の位置がわかることと、神を容易く葬れること。だからこれは私の所感。あの時は切迫してたし私も余裕がなかったから完璧じゃないけど、あんたの力についてある程度調べたこと」


 第一に、叛逆者はそれ以外の能力を保有しない。

 リナのように肉体を改造すれば別だろうが、リベル本体から才能の類は感じられなかった。

 次に、叛逆者は神以外に対して常に劣勢である。

 これはリナがあの高揚感の中で感じた唯一の不安。敵は水の神とその眷属だったから良かったが、人間に、魔物に、竜などに襲われていたら、普段通りの力を発揮できない気がした。

 気がしただけで試しているわけではないのがネックだが、あの何かが欠けているような感覚はそうとしか説明できない。

 そして、これは先ほど気づいたことだが、あの闇は神以外には回復効果もあるようだ。

 リナの薄く刻まれた傷は、何事もなかったように治っていたから。


「やっぱ怪我してたんだな」

「治ったからいいのよ。ていうかあれくらいなら全然許容範囲だし」

「俺は許したくないけど」

「……じゃあ、私が無傷でいられるくらい、あんたが強くなんなさい」


 守られるほど弱くもなければ守れるほどリベルは強くないが、それでも乙女としては守られてみたい。それができるなら、だけれど。


 そして最後に、これは憶測でしかないが、叛逆者は取り込んだ神の力を扱える。


「これは本当に推測の域を出ない。でも多分、あんたは水魔法だけは使えるはずよ」

「なんでそう思うんだ?」

「だってそうじゃなきゃいくらなんでも弱すぎるわ。神以外に攻撃されたらおしまいなんて、それこそ神が人を操ればすぐにでも殺せちゃうもの」

「……なんかそう聞くと俺って物凄く弱いのな」


 そう簡単には死なないと思いたいが、かといって目を逸らし続けて失うのは滑稽すぎる。


「あんたは癪かもしんないけどさ、私があんたを守るわよ。それこそ、あんたが戦うまでもないくらい」


 リナは神には対抗手段を持たない。しかしそれ以外であれば負ける気はしない。

 リベルは神にだけ優位性を持つが、それ以外の種族全てが弱点となる。

 そんな二人が協力すれば、まさに無敵と呼べるのではないだろうか。


「あんたは神を殺して、私はそれ以外に対処する。それでいいでしょ?」


 後ろを振り返って、不敵に笑う姿は、リベルが守りたいと思う自信に満ち溢れたリナの表情。

 それがあれば、それさえ見れれば、リベルには他の何も必要ないのかもしれない。


「ああ。それで行こう」


 暗い気持ちは吹き飛んだ。前を向く理由も作ってくれた。

 だったらもう、リナのために戦えばいい。




 家に帰ってきた二人は、日常を取り戻すように昼食を食べていた。

 ただリナも疲れていたので、今回は出前の寿司になった。


「どーよ。市販品は」

「美味いんじゃないか?」

「どっちが美味しい?」

「……リナの飯」

「……♪」


 一瞬の間は気になるが、まあお世辞でも許してあげよう。そう思えるくらい、褒められるのは嬉しかった。

 こういう雰囲気も悪くないな、とか思っていると、邪魔者というのはやってくるものだ。


「あ?」

「どうした?」

「……いや、ちょっと待ってね」


 通信が入り、リナは席を立つ。


「何よ?」

『お仕事だってさー。下級神叩くならちょうどいいんじゃないかなって』

「え、もしかして面倒だから押し付けようとしてる?」

『いやいやまさか。ぼくはぼくでルイナの御守りがあるからさ』

「寝てるだけでしょうが。てかあいつ何したって死なないでしょうが。そんでそれを人は押し付けるって言うんだけど?」

『ぼく人間の感性なんて知らなーい』

「こいつ……ッ!」


 主人がマイペースなら飼い犬もマイペース。

 そう相手を馬鹿にしておくことで、どうにか相手の話を聞き入れる。


「……で?相手は何よ。邪竜?魔王?それとも突然変異種?」

『あーごめんごめん。敵じゃなくてね』

「?」

『魔の神が会ってみたいって』

「……はい?」

『まあぼくに頼まれたのは状況説明なんだけど、だったら本人で良くない?って』

「そりゃまあ、そうかもだけど」


 魔の神。魔物の神ではなく、魔法を極めた先に辿り着いた魔法の神。

 その名も魔導神。

 上級神の中でも上位に分類され、現人神あらひとがみとして敬われる存在。

 そんなものが、何の用だ?


『自分に通用するか知りたいんじゃない?上手くやれば手伝ってくれるかもね』

「いや、あれの気まぐれ具合わかってる?てか私あいつ大っ嫌いなんだけど」

『なら叛逆者だけ放り捨ててくれば?』

「……あんたさぁ……あんたってやつはさぁ、とことん私が嫌がることを言うわよねぇ……」

『あはは、誰のせいだろうね。まあとにかく、用があるのは叛逆者。君は関係ないよ』

「クソッタレが行ってやるわよ行けばいいんでしょ!?ただし、起きたら主人に伝えときなさい」

『何かな?』

「いずれこっちについてもらうから。これはお願いじゃなくて命令よ」

『いずれ、でいいんだね』

「ええ。その時が来たら言うわよ」


 ふん、と鼻を鳴らして通信を切る。

 そこでようやく気づいたが、どうやらリベルが聞いていたらしい。


「……何よ」

「いや、荒れてるな、と。大丈夫か?」

「別に。これくらいたまにあるもの。それで、行き先が決まったわよ」

「また出かけるのか?」

「流石に明日だけどね」


 リナはちょっと嫌そうにため息を吐いてから、


「メリー大陸。魔導神が治める国があるとこよ」


 とっても嫌そうにそう教えたのだった。

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