Chapter1 Espidoe3 出会。

「レナ、着いたわよ。ここがリルリさんのお家」


 レイナに言われてレナが見上げた家は、こじんまりとしたログハウスのようなものだった。周りには花畑があり、秋も半ばだというのに元気に色とりどりの花が咲いていた。

 

 レナは以前リディアの魔道具制作の仲間として名を挙げられていたリルリの下をレイナとともに訪れていた。リディアの魔道具制作の仲間、と言うのも、リディアはスラナ村に越して来てから魔道具を売って収入を確保していた。そんなことを続けている間に同業者がいると聞き、リディアから話を持ち掛けて共に魔道具を作り、売り出すことにした仲間がリルリと言う名のハーフエルフの女性だ。

 ハーフエルフと言うのはその名の通り半分エルフの人のことだ。純潔のエルフと比べて寿命は短く、耳も短いが、エルフの特徴である綺麗きれいな金髪や碧眼へきがんは受け継いでいるとのこと。そして、エルフは外見年齢が十代半ばで固定されているため、外見年齢では十八、九程度だという。


 レイナはそんなリルリが住まう家の扉をノックした。


「リルリさん、いますか?」

「はーい、今出ます!」


 レイナが中に向かって問いかけると、すぐに返事があった。しばらくすると家の中から足音が聞こえてきて、そのあとすぐに扉の鍵が開かれる音がした。そして、扉が開かれた。


「どちら様でしょうか。あ、レイナさん。お久しぶりです」

「久しぶりね、リルリさん」


 現れたのは、レナが事前に聞いていた通り綺麗な金髪を背中の半ばまで伸ばした碧眼の美少女。スラっとした体形で若々しく、レイナの顔を見て浮かべた彼女の笑顔は、レナが思わず美しいと思ってしまうほどだった。

 そうして固まったレナにリルリが視線を向けた。


「あれ? この子は……ああ、お噂のお子さんですか? 可愛いですね」

「ええ、レナよ。今日は、この子の魔道具の仕上げをあなたがしていると聞いて、様子を見に来たの」

「そう言うことでしたか。ちょうど作業をしているので、どうぞ見て行ってください。レナさんも、ゆっくりしていってくださいね」


 リルリはレナに微笑みかけてからレイナたちを家の中に手招きした。レイナがそれに従って家の中に踏み込み、レナもそれについて行く。中は多少物が多いが散らかっておらず、木本来の美しさが前面に押し出された温かい色で覆われていた。


「レナさん、珍しいですかね、こういうお家は。私の祖先であるエルフは森が好きで、私もその子孫だからか木々が好きです。こうして木でできたお家にいると、安心するんです」


 不思議そうに室内を見渡していたレナに、リルリがレナの前に屈んでそう言った。レナはリルリに少し人見知りを発動していたが、曖昧に頷いた。リルリは立ち上がり、家の奥の方へと進んでいく。二人はそのあとについて行き、リルリが向かった部屋に入る。


「ここが職場です。手狭てぜまですが、魔道具の加工などをしています。道具は危ないものもあるので触らないでくださいね。そして、これがレナさんのために用意している魔道具です」


 部屋の中には様々な工具、床に置かれた何かの材料や金属の破片はへんの入った箱、それなりの量の書物などが置かれていた。それらが散開しているから手狭に見えるが、部屋自体はそこまで狭くない。最も部屋を狭いと思わせる要因は、中央に置かれた作業机だろう。

 そして、その作業机の真ん中に置かれたものを指差してリルリはそう言った。


 レイナがリルリが指さしたものをのぞむ。それは、金色のネックレスのようなものだった。


「これが、魔道具? リディアが言っていたけど、装飾品にしか見えないわね」

「はい。言葉をしゃべれるようになる魔道具、と言うことは毎日身に着けるでしょうし、身に着けていて違和感いわかんのないもののほうが、周りも馴染なじみやすいでしょうから」

「そうね。ありがたい配慮はいりょだわ。レナもご覧なさい。綺麗なネックレスよ」


 レイナはレナの脇に手を入れると、そのまま持ち上げてネックレスを見せてやる。金色のチェーンで作られた輪っかの端に、桃色の宝石のようなものが付いていた。レナはそれが気になって、それを指差す。


「ああ、レナ、触っちゃだめよ」

「いえいえ、大丈夫ですよ。あと、この宝石が気になるんでしょうね」

「え? そういえば綺麗な宝石……って、これ、レナ? 高かったでしょう?」

「いえ、たまたま持ち合わせがあったので。実質無料ですよ」


 宝石を指差してレナ、と呼んだレイナとそれに肯定したリルリにレナは小首をかしげる。そして、自分はここだぞ、と自己主張するように自分を指差した。それを見て、二人は少し焦った様子を見せてから言った。


「ああ、違うの。この宝石は、レナ魔石、って呼ばれる魔石なの。あなたの名前の由来になった宝石よ」

「非常に高い魔力伝導率でんどうりつを持っていまして、魔道具に使うと魔力の通りがよくなるんです。意志を素早く言葉に変換するために使いました。……と言うか、レナさんの名前の由来、ですか?」


 リルリはレナ魔石についての説明をしつつも、レイナの言葉に疑問を抱いたようだった。レイナに質問をする。


「えっとね、この子を産む直前に、国から大きなレナ魔石を送られたの。その、退職祝い的な意味合いでね。その数日後にその子が生まれたんだけど、その子《魔力増幅マナタンク》持ちのネイトだったし、不思議とレナ魔石が好きでね。レナ、と名付けたのよ」

「そうだったんですね」

「ええ。それと、この子の髪の先端が桃色でしょ? これ実は、レナ魔石を吸収してこうなったのよね」

「ええ!? レナ魔石、吸収しちゃったんですか?」


 リルリに驚きの目を向けられたレナは、自覚がないのか慌てた様子を見せる。


「ふふっ、まあ、レナはまだほんの子どもだったしね。ほら、この子《魔力増幅マナタンク》持ちって言ったでしょ? このネイチャーを持っている人は空気中の魔力を吸収できるって言うけど、実は魔力の塊を吸収することもできるの。そして、レナ魔石と言えば魔力伝導率が高いことで有名だけど、それは高純度こうじゅんどの魔力の塊だからで」

「ああ、だから吸収してしまったんですか。人体に影響はないんですか?」

「もちろん魔石の魔力以外の部分、つまり石の部分はそのまま残ったし、純粋じゅんすいな魔力を吸収したはずだから、問題はないわね」

「それは良かった」


 楽し気にそんな話をする二人を前に、レナは顔を青くしていた。

 自分は、母が退職祝いに貰った高価な魔石を吸収してしまったのか、と焦っているようだ。そんなおどおどしているレナを見て、レイナも心境を察したのだろう。


「レナ、大丈夫よ。もともとレナ魔石なんて使い道はなかったし、あなたがいつも楽しそうに遊んでたから。それに、吸収したおかげで、可愛らしい髪の色にもなったじゃない?」


 レイナは言いながら、レナの髪の先端を見る。レナの髪はほとんどが茶色だが、先端に向けてゆっくりと桃色に変化していた。その色合いはレイナの言う通り特徴的で可愛らしいものだった。

 レナは言われて、ほっと一息ついて安心した顔を浮かべた。


「そうだったんですね。レナさん、魔道具のことはお任せください。そして、よかったら遊びに来てくださいね。魔道具は便利なものです。しっかりお勉強しておくと、役に立ちますよ」


 リルリの提案に、レナはこくりと頷いた。


「それじゃあ、一週間くらいでできるって話だし、また今度遊びに来るわね」

「お待ちしております」


 レイナの言葉に、リルリは小さくお辞儀じぎをしてレイナたちを見送った。


 レイナはリルリの家を出て、自宅に向かいながらレナに話しかける。


「レナ、楽しみ?」


 レナは小さく頷き、笑顔を浮かべる。


「あと一週間もすれば、あなたも魔法が使えるようになるわ。もうちょっと待ちましょうね」

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